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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『ノートルダムの鐘』解説 3・ディズニースタッフがこれを作った理由」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『ノートルダムの鐘』解説 3・ディズニースタッフがこれを作った理由」

2018-03-09 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/03/09
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    今回は、ニコ生ゼミ2月25日(#219)から、ハイライトをお届けいたします。

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     『ノートルダムの鐘』解説 3・ディズニースタッフがこれを作った理由


     では、なぜディズニーは、こんな『ノートルダム・ド・パリ』なんていう、知名度はあるんだけど、とにかく難しくて、アニメにするのがシンドい作品を、映画の題材に選んだのでしょうか?
     
     みなさんの解答をお待ちしております。

     4択とかは出さないので、自由にコメントを書いてください。

     「潰れそうだったから」(コメント)
     「ネタ切れ」(コメント)
     「フランス史が好きだから」(コメント)
     「モテないオタクへの救済」(コメント)
     「個人の趣味」(コメント)
     「マーケティング」(コメント)
     「大人向けへの路線変更」(コメント)
     「自分を投影」(コメント)
     「売れるから」(コメント)
     「フランス人スタッフがいるから」(コメント)
     「アメリカに元ネタがもうないから」(コメント)
     「不況」(コメント)
     「監督が非モテで共感しちゃったから」(コメント)
     「原作料権利料」(コメント)

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     ああ、いいですね。
     いい解答がいっぱい並びました(笑)。


     では、答えです。

     まあ、答えと言っても、『世界ふしぎ発見!』と同じで、答えの発表まで、解説の時間が延々とあるんですけど。

     すみません。
     もう少し話を続けます。

     ・・・

     まず、言いたいのが、「原作をメチャクチャに変えたおかげで、ダメなアニメになってしまったのかと言うと、そうではない」ということなんです。

     この『ノートルダムの鐘』を見た人はわかる通り、原作にあったような取り留めのないところは、相変わらず取り留めのない、いわゆる『雨月物語』『宇治拾遺集』みたいになってるんですけども。

     反面、技術としてはメチャクチャ高いんですよね。


     今回は、この映画の冒頭のシーンを、ちょっとまとめてみました。

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     (パネルを見せる)

     まず、映画が始まってすぐに、ノートルダム寺院の尖塔が、雲の上に突き出している景色が見えます。

     実際は、ノートルダム寺院って、80mくらいしか高さがないから、絶対にこんなふうに見えないんですけども。まあ、ここら辺はイメージですね。

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     (パネルを見せる)

     雲の下に行くと、1400年代の大昔のパリの町並みが広がります。

     ゴシック建築の建物がザーっと並んで、何千という塔が町中にそびえているところにカメラが入っていきます。

     この撮影技術はとんでもなくレベルが高いです。


     この描写は、おそらく、ディズニーの往年の名作『ピノキオ』のリメイクなんですね。

     『ピノキオ』の冒頭でも、空に浮かんでいる1つの星から、カメラが下にパンダウンしたら、ゼベットじいさんが住んでる町の中で。

     そんな、いろんなゴンドラとかマルシェなどが描き込まれた背景の中を、様々なアニメーション技法を駆使して、カメラがグワーッと動いていく映像なんです。

     「これを1996年の技術で、ちゃんとやったらどうなるのか?」という冒頭のアニメーションなんですね。


     雲の下に広がるパリの町が画面に現れると、ある一点に向けてカメラが寄っていくんです。

     それも、ただ単に1枚の絵がアップになるのではなく、背景の家々を横に掻き分けるように、ずーっと寄っていくんですね。

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     すると、徐々に徐々に橋が見えるんです。

     ポン・ヌフみたいな大きな橋ではなくて、セーヌ川に架かる小さい橋が。

     さらに、その橋にカメラが寄っていくと、町並みの中に人々の生活が描かれていきます。


     たとえば、オバさんが、窓からいきなり、お鍋みたいなものを使って水を捨てる。

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     まあ、これ、当時のパリの生活環境から考えたら、絶対にオシッコかウンコなんですよね(笑)。

     このお鍋みたいに見える物は実際は壺で、当時のパリ市民は、みんな寝室にある壺の中にオシッコとかウンコとかをしてるんですけど。

     これを、朝 一斉に路上に捨てるというのが、パリ市民の日常だったんですよ。


     そのおかげで、パリの路上は、もうウンコオシッコだらけになっていて、それを避けるためにハイヒールというものが生まれたっていうのが、歴史上の事実なんですけども。

     まあ、オバさんが、それをバシャンと捨てると、この橋に光が当たり、さらにクローズアップになっていく。

     すると、今度は、この橋に腰掛けて釣りをしているオッサンが映るんです。

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     その橋の奥に、微かにノートルダム寺院が見えて、それを町の間から見上げるような構図になる。ここまでをワンカットでやってるんですね。

     これを全部、ワンカットでやってるんですよ。
     それも、今みたいなCGを使わない技法なんですね。

     もちろん、デジタル合成は使ってるんですけども、全てをCGで描く背景ではないんです。
     いろんな撮影技法を混ぜているんですけど。

     本当に、冒険的な構図だし、アニメーションの技術としても、まあ、とんでもない出来です。

    ・・・

     では、お話 全体はどうかというと、このディズニーの『ノートルダムの鐘』は、さっきも話したように、『ピノキオ』のオマージュなんですね。


     ゼベット爺さんに作られたピノキオが「人間になりたい」と願って冒険するのが『ピノキオ』なんですけども。

     これを、スピルバーグは、『A.I』という映画の中で、「人間に作られたロボットが母親に捨てられて、母親の愛が欲しいために人間になりたいと願う」という冒険の話にしました。

     スピルバーグは、元々はスタンリー・キューブリックが作るはずだった『A.I』という作品を自分のものにするために、「これはもう、『ピノキオ』をやろう!」と決めたんですね。

     そんな、「『未知との遭遇』をやった時から、俺はとにかく『ピノキオ』がやりたかったんだ!」というスピルバーグの思いが入っているのが、『A.I』という映画なんですけども。


     それと同じく、このウォルト・ディズニー社が作った『ノートルダムの鐘』というアニメも『ピノキオ』なんですね。

     錬金術師のフロロという男から、合理主義を叩き込まれて育てられたせむし男の怪物カジモドは、本来だったら醜い身体と理性を持った存在になるはずだったんです。

     なんせ、フロロは、このアニメの中では徹底したひどいヤツとして描かれているんですけども、それでも、カジモドと毎日ご飯を一緒に食べて、家庭教師をやっているという、かなり熱心な教育者なんですね。

     にもかかわらず、そうやって教育されたはずの怪物が、最後には育ての親であるフロロを殺してしまうんです。


     つまり、ディズニーは、『ノートルダム・ド・パリ』という物語を、『ピノキオ』プラス『フランケンシュタイン』という話に変えたんですね。

     その上で、こんなとんでもない話をハッピーエンドのミュージカルにしています。

     だって、『ピノキオ』と『フランケンシュタイン』を足したら、最後、ピノキオはゼベット爺さんを殺さなきゃいけなくなるわけですよ(笑)。

     
     それをハッピーエンドのミュージカルにしてしまうという荒業が、この『ノートルダムの鐘』なんですね。

    ・・・

     では、なぜ、ディズニーはこれをアニメ化しようとしたのかというと、さっきのコメントにあった通りなんですよ。

     実は『ノートルダムの鐘』という作品は、原作の「モテない男は報われない」という話を、どうにかしてそうじゃない話にしようとのたうち回った結果、生まれたものなんですね。


     ディズニーのクリエイターっていうのは、やっぱり、メイキングとかを見たらわかる通り、みんな学生時代に100%モテなかったようなヤツらばっかりなんですよね(笑)。

     アメリカ人の平均体重よりも、絶対に20%以上は多いヤツらばっかりが、今も昔も、ディズニープロに勤めている。

     そんな、学校でイジメられたオタクなわけです。


     そういうヤツらというのは、ついつい「醜いカジモドがエスメラルダと結ばれる」という話を描いちゃうものだし、ディズニーが原作を無視して、いくらでもストーリーを変えられるんだったら、それをやってもいいはずなんですよ。

     「ついにエスメラルダにも、カジモドが姿は醜いけれど心は美しいことがわかって、恋をした」という話にしても全然 構わないんですけれども。

     でも、彼らは、そうはしなかったんですね。

     なぜかというと、そんなことをしても嘘になるからです。

     1996年のウォルト・ディズニーのアニメとしては、そんな嘘は作れないわけですよ。
     そういったハッピーエンドは信じられないし、描けない。

     では、なぜ嘘になるのかというと、彼らは「エスメラルダみたいな いい女っていうのは、結局は見た目だけで中味は空っぽのフェビュス隊長みたいなヤツと恋をして、結ばれるんだよ! これが現実なんだ!」って、嫌というほど思い知っているからです。

    ・・・

     『アラジン』や『ライオンキング』以降、ディズニー社はヒット作をどんどん発表しました。

     そうなると、ディズニープロの人達はもうわかってくるわけですね。


     どういうことかというと、この時期から、声優さんにハリウッドのスターとかを使い始めるわけですよ。

     ハリウッドスター達との付き合いも出てきて、アカデミー賞の舞台に一緒に立つこともあるわけです。

     すると、ハリウッド女優みたいな美女たちは、みんな、口では「内面が大事」とか言いながらも、結局はイケメンの俳優とか、プロデューサーと結婚しているという現実がわかってくるんです。

     そういう現実を見て、「やっぱりそうなんだ。俺達みたいなオタクには、女優やアイドルは無理なんだ」と思い知ることになるんですね。

     でも、美女と結ばれることは出来なくても、才能を認められてアカデミー賞の舞台に立つことは出来るんです。


     この映画のラストで、カジモドとエスメラルダはフロロに塔の上から突き落とされるんです。

     この時、エスメラルダは、カジモドが落ちないように一生懸命 引っ張ってくれるんですけども、やっぱりエスメラルダは、途中で力尽きて手を離しちゃうんですね。

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     これが何を象徴しているかというと、「なんだかんだ言っても、女は最後は守ってくれない」という現実です。

     いい女というのは、醜い男に対して、一生懸命 “同情” はしてくれるんだけど、命を懸けてまで助けてくれないと。


     じゃあ、命を懸けて助けてくれるのは誰か?

     落ちたカジモドを受け止めたのは、なんと、イケメンのフェビュス隊長なんですね。

     ここが、現実世界に極めて近いんですよ。


     エスメラルダは手を離したけども、落ちてくるカジモドをフェビュス隊長は受け止めてくれた。

     つまり、このラストは「美女よりイケメンの方が信じられる」ということなんです。

     この『ノートルダムの鐘』というアニメの本質は、かなりひねくれたオタクにしかわからない作品なんですよ(笑)。


     オタクというのは美女と最終的に結ばれない。

     じゃあ、どうなるのかというと、サークルの中にいるいい男と友情を育んでしまって、「いやあ、なんか、やっぱり女より男の方が信じられるや!」ということになるんです。

     これがディズニー社のスタッフの見つけた “自分達のゴール” なんですよ。

    ・・・

     なので、ディズニー版のアニメでも、カジモドは、当たり前ですけども、エスメラルダと結ばれません。

     そうではなく、「町の中で大騒ぎが起こった結果、カジモドは自由を手に入れた」という結末なんですね。


     つまり、「人前に出て、自分というのを見せれる存在になった」ということです。
     そして、みんなから拍手をされて終わり。

     このカジモドの辿り着いた結末は、「ディズニー社の作画や演出といったスタッフ側の人間が、アカデミー賞を取るという晴れがましい舞台に出る」という現実と重なります。

     つまり、「一途に頑張ったからといって、そこにいる女優さんたちと恋愛をすることなんか出来ないに決まってる。俺達は誰かと結ばれた彼女のハッピーエンドを、ただ見てるだけの存在なんだよな」という、諦めの感情を見せながら、「でも、それは別に悪いことじゃないんだ。アイドルとか女優さんに憧れているだけのかつての自分達と比べたら、自分の居場所を持てたじゃないか」と言っているんですね。


     そんな、すごくビターな大人の作品として、この『ノートルダムの鐘』というのは作られているんです。
     
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