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「アニメ版『バナナフィッシュ』が失ったもの」
たとえば、これは原作1巻の「借りるぞ!」と言ってバイクに跨って、バーンと走っていくシーンなんですけども。
ニューヨークの話なんですよ。
主人公は不良少年なんですよ。なので、当たり前だけど「借りるぞ!」と言ってバイクで走り出す時は “ノーヘル” なんですね。
なんか、これがメチャクチャカッコ悪いんですよね。
「兄のグリフィンが、なぜドラッグ中毒になったのか?」という原因をアッシュが探るというところから、ストーリーは始まります。
中毒になったグリフィンが1つだけ覚えていた言葉が「バナナフィッシュ」だったんですよ。
だけど、アッシュにはこの言葉が何を意味するのかがわからない。
しかし、その後、アッシュが偶然みつけた、ニューヨークの路上で死にかけていた麻薬の売人みたいな男も、死ぬ間際に「バナナフィッシュ」と言うんです。
つまり、この「バナナフィッシュ」という言葉が前半における大きな謎になっているんです。
だって、現代だから。
スマホがあるんだったら、「バナナフィッシュって何だ?」って気になった瞬間に、ググればいいじゃん。
そしたら、トップに「バナナフィッシュとはサリンジャーの小説である」って出てくるはずなんですよね(笑)。
こうやって、何も考えずに舞台を現代に動かして、スマホを使わせたり、今風のバイクに乗せちゃうから、こんな変なことになっちゃうんですよ。
勝ち目があると思って始めたのに、結局、勝てないままに延々と続けてしまった戦争なんです。
そのおかげで、前線では兵士たちがドラッグ中毒になり、そして、ドラッグ中毒になった兵士が帰ってきたおかげで、アメリカ中にドラッグが蔓延することになった。
そのドラッグを運んだり売ったりするために、アメリカ全土に “マフィア“ と呼ばれるイタリア系のヤクザが蔓延る原因にもなり、その結果、いわゆる黒人の人権運動のような社会運動も一斉に始まった。
『バナナフィッシュ』の連載時期である1985年というのは、まさに、この物語を語るための時代なんですよ。
これを、2018年の現代に持って来るということが間違いなんです。
アニメ版では、お兄さんのグリフィンは「イラク戦争で負傷して帰ってきた」という設定になっているんですけど、イラク戦争にはドラッグ問題なんてないんですよ。
ベトナム戦争で散々懲りたから、現代のアメリカ軍というのは、もう、メチャクチャクリーンなままで戦地に行って帰って来るんです。
そもそも、イラク戦争の頃には、アメリカというのは、戦場で人が1人死んだら大騒ぎするような国になっちゃってるんだから。
時代性という話でいうと、この時代には、『バナナフィッシュ』にあるような「ドラッグで人間の深層心理をコントロールする」という研究が、実際に始まっているんです。
その研究が、後のCIAのウルトラ計画とか、あとはオウム真理教の洗脳というのにも繋がっているわけで、全てはこのベトナム戦争がスタートになっているんですよ。
それを、アニメ化する時に、よりによって一番やっちゃいけない「舞台を現代に変える」ということをしているんですよね。
この『ハイスコアガール』というアニメ、僕も見てるんですけど、メチャクチャ面白いんですよ。
重要なのは、やっぱり、これをアニメ化する時に、きちんと原作漫画と同じように1990年代を舞台にしているところだと思うんです。
『ハイスコアガール』というのは、1990年代に『ストリートファイターⅡ』をひたすらやり込んでいる男の子と女の子の話なんですよ。
主人公たちは『ストⅡ』のまま、“ターボ” とか “ダッシュ” とか、バージョンだけが上がって行くことにツッコミを入れつつ、ゲームを楽しんでいるんですけど。
『アオイホノオ』でもそうだったんですけど、やっぱり、こういった作品の面白さには、確実に “時代性” というのが関係しているし、そこら辺は、バカみたいに忠実に守った方が面白い作品が作れると思うんですけどね。
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