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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/08/06
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今回は、ニコ生ゼミ7月29日(#241)から、ハイライトをお届けいたします。

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 アニメ版『バナナフィッシュ』が失ったもの

 『バナナフィッシュ』のアニメが、ノイタミナ枠で始まりました。

 原作は、1985年に連載していた漫画なんですけど、これがアニメになるということで、舞台が現代に変更されたんですよね。


 これによって何が変わったのかというと。

 たとえば、これは原作1巻の「借りるぞ!」と言ってバイクに跨って、バーンと走っていくシーンなんですけども。

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 『バナナフィッシュ』というのは、アメリカの話なんですよ。

 ニューヨークの話なんですよ。

 主人公は不良少年なんですよ。なので、当たり前だけど「借りるぞ!」と言ってバイクで走り出す時は “ノーヘル” なんですね。


 ところが、2018年の現代のアメリカに舞台を移してリメイクされた今回のアニメでは、不良少年、それもマフィアの手先として働いている少年であるはずの主人公がちゃんとメットを被って、そこそこ今っぽいバイクに乗ってるんですよ。

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 なんか、これがメチャクチャカッコ悪いんですよね。

 その上、バイクから降りてヘルメットを脱いだら、こんな弱そうなアッシュが現れるんです。

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 「ダメじゃん」と。

 不良少年がバイクを借りて乗るというシーンで、ヘルメットを被っててもしょうがないんですよ。

 まあ、たぶん、これは最近のコンプライアンスを守るための配慮だと思うんですけども。
 でも、こんな改変をするくらいだったら、舞台は1985年のままにして欲しかったんですよね。

・・・

 そもそも、原作の『バナナフィッシュ』には、1985年が舞台でなければいけない理由というのが、ちゃんとあるんです。

 この物語はもともと “ベトナム戦争の後遺症” の話なんですよ。


 主人公のアッシュには、グリフィンという、ベトナム戦争に従軍した結果、ドラッグ中毒になって帰ってきたお兄さんがいるんです。

 「兄のグリフィンが、なぜドラッグ中毒になったのか?」という原因をアッシュが探るというところから、ストーリーは始まります。


 中毒になったグリフィンが1つだけ覚えていた言葉が「バナナフィッシュ」だったんですよ。

 だけど、アッシュにはこの言葉が何を意味するのかがわからない。

 しかし、その後、アッシュが偶然みつけた、ニューヨークの路上で死にかけていた麻薬の売人みたいな男も、死ぬ間際に「バナナフィッシュ」と言うんです。

 つまり、この「バナナフィッシュ」という言葉が前半における大きな謎になっているんです。


 だけど現代に舞台を移したアニメ版では、主人公のアッシュは平然と “スマホ” で電話をしているんですよ。

 だって、現代だから。


 ちょっと待てよと。

 スマホがあるんだったら、「バナナフィッシュって何だ?」って気になった瞬間に、ググればいいじゃん。

 そしたら、トップに「バナナフィッシュとはサリンジャーの小説である」って出てくるはずなんですよね(笑)。

 こうやって、何も考えずに舞台を現代に動かして、スマホを使わせたり、今風のバイクに乗せちゃうから、こんな変なことになっちゃうんですよ。

・・・

 ベトナム戦争というのは、アメリカが初めて、そして、今のところ唯一、勝つことができなかった戦争なんですよね。

 勝ち目があると思って始めたのに、結局、勝てないままに延々と続けてしまった戦争なんです。


 そのおかげで、前線では兵士たちがドラッグ中毒になり、そして、ドラッグ中毒になった兵士が帰ってきたおかげで、アメリカ中にドラッグが蔓延することになった。

 そのドラッグを運んだり売ったりするために、アメリカ全土に “マフィア“ と呼ばれるイタリア系のヤクザが蔓延る原因にもなり、その結果、いわゆる黒人の人権運動のような社会運動も一斉に始まった。

 こういった現代につながる様々な問題は、実は「ベトナム戦争から上手く抜け出せないアメリカ」というのが原因で起きているんですよ。


 『バナナフィッシュ』の連載時期である1985年というのは、まさに、この物語を語るための時代なんですよ。

 これを、2018年の現代に持って来るということが間違いなんです。


 アニメ版では、お兄さんのグリフィンは「イラク戦争で負傷して帰ってきた」という設定になっているんですけど、イラク戦争にはドラッグ問題なんてないんですよ。

 ベトナム戦争で散々懲りたから、現代のアメリカ軍というのは、もう、メチャクチャクリーンなままで戦地に行って帰って来るんです。

 そもそも、イラク戦争の頃には、アメリカというのは、戦場で人が1人死んだら大騒ぎするような国になっちゃってるんだから。


 時代性という話でいうと、この時代には、『バナナフィッシュ』にあるような「ドラッグで人間の深層心理をコントロールする」という研究が、実際に始まっているんです。

 その研究が、後のCIAのウルトラ計画とか、あとはオウム真理教の洗脳というのにも繋がっているわけで、全てはこのベトナム戦争がスタートになっているんですよ。


 この『バナナフィッシュ』という物語は、この1985年というベトナム戦争直後の時代だったからこそ、唯一成立していたんです。

 それを、アニメ化する時に、よりによって一番やっちゃいけない「舞台を現代に変える」ということをしているんですよね。

・・・

 番組が始まる前に流れていた視聴者みんなのコメントの中に、「『ハイスコアガール』が面白い」っていうのがあったんですけども。

 この『ハイスコアガール』というアニメ、僕も見てるんですけど、メチャクチャ面白いんですよ。


 面白い理由というのは、やっぱり原作の漫画が面白いからなんですけど。

 重要なのは、やっぱり、これをアニメ化する時に、きちんと原作漫画と同じように1990年代を舞台にしているところだと思うんです。


 『ハイスコアガール』というのは、1990年代に『ストリートファイターⅡ』をひたすらやり込んでいる男の子と女の子の話なんですよ。

 段々と時代が進むに連れて、次々と新しいソフトが現れて、遂には『バーチャファイター』まで出てくるんだけど、なぜか『ストリートファイターⅡ』の続編である『Ⅲ』は、いつまで経ってもリリースされない。

 主人公たちは『ストⅡ』のまま、“ターボ” とか “ダッシュ” とか、バージョンだけが上がって行くことにツッコミを入れつつ、ゲームを楽しんでいるんですけど。


 それを見ていると、こういった流れの中にいる主人公たちが感じている「自分たちは今、ゲームの世界の最先端にいる!」という感覚が、すごく伝わってくるんです。

 アニメでも漫画通りに “時代設定” というのをちゃんと守っているから、今の僕らが見ても、すごく面白いんですよ。


 たぶん、このアニメ版『ハイスコアガール』の制作予算は、『バナナフィッシュ』の半分くらいだと思うんですよね。

 「そんな『ハイスコアガール』ですら守っていることを、なんでアニメ版『バナナフィッシュ』では出来なかったんだよ!」っていう、悔しさを感じますよね。

 『アオイホノオ』でもそうだったんですけど、やっぱり、こういった作品の面白さには、確実に “時代性” というのが関係しているし、そこら辺は、バカみたいに忠実に守った方が面白い作品が作れると思うんですけどね。


 なんか、脚本の人のインタビューとかを読んだら、「なぜ、舞台を現代にしたんですか?」という質問に対して「いや、80年代が舞台だったら、アッシュの服もTシャツとジーンズとかで貧乏くさいんですよ。 でも、これを現代の若者にしたおかげで、もっとファッションがいけるようになりました!」とか言ってるんですよ。

 なんというか、「お前は、この変な “シャツを腰巻きにしてレーサータイプのバイクに乗って走る” というシーンを描きたいがために、舞台を現代に移したのか!? なんてダメなスタッフなんだ! 『ハイスコアガール』を見て反省しろ!」と言いたくなりました(笑)。

・・・

 さて、この『バナナフィッシュ』という漫画については、実は「今 評判になっている漫画とすごく深く関係している」という お話 があるんですけど、それはまた後半に語りましょう。

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