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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/08/07
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今回は、ニコ生ゼミ7月29日(#241)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『未来のミライ』は “高級な『クレヨンしんちゃん』”

 もう公開から1週間くらいたったので、ちょっとネタバレしてもいいかなと思って、今から話すんですけど。

 『未来のミライ』って “金持ちの家庭” が舞台なんですよ。


 「あれは細田監督の生活だ」と思っている人がわりといるんですけど、とんでもない!

 細田監督の程度の収入では、あの生活は無理なんですよ。

 ……細田監督、すみません(笑)。

・・・

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 たとえば、これはネフ社が作っている “ネフスピール” という積み木です。

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 こんなカラフルな積み木なんですよ。

 独特な形をしていて、どんな組み合わせ方をしても積めるという積み木なんです。

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 このネフスピールが、主人公の くんちゃん の家にあるんですけど。


 これ、実は1箱で2万円もするんですよ。

 積み木なのに。


 僕、映画館で見ていてビックリしたんですけど、主人公の くんちゃん という4歳児の家に、この積木がトミカとかプラレールと一緒に平然と置いてあるんですよね。

 つまり “そういう家” だということが分かるんですよ。

 こんな生活、世帯収入1千万円でも、たぶん無理です。

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 ここにもう1つあるのが、ネフ社と同じスイスのキュボロ社が作っている “キュボロ” っていうオモチャです。

 これ、デパートとかで見たことがある人もいるかと思うんですけど、四角いブロックに溝が掘ってあって、その中を玉がコロコロ転がるというオモチャです。


 藤井聡太君という天才将棋指しがいますよね。

 彼が子供の頃に遊んでいたということで有名になったという知育玩具なんですけど。


 これなんか、色も着いていない、本当に白木の塊なんですよね。

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 ただ、メチャクチャ精密に作ってあるんです。

 これが、1箱3万5千円もするんですよ。

 その上、パッケージを見たらわかる通り、これはあくまでも “ベーシックキット” なんですよね。

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 基本が出来るだけなんです。


 僕、一応、これの拡張版を持ってるんですけども。

 楽しく遊ぼうと思ったら、このベーシックに、さらに拡張版を買って、他にも、色の着いている積み木なんかを買わないと、なかなか楽しめないんです。

 大体、楽しく遊ぶのには10万円くらい掛かるんですよ。


 くんちゃん の家のオモチャ箱には、こういうオモチャが山のように入ってるんですよね。
 
 「ちょっと待てよ! これは世帯収入が2千万円を超えてないと無理だぞ!」って思ったんですけど(笑)。


 「父親が斗司夫じゃないの?」(コメント)


 僕は自分の子供には、こんな高いオモチャは買いません!

 ディスカバリー号と同じく “自分のため” にしか買いませんから!(笑)

・・・

 「じゃあ、それがダメなのか?」というと。

 日本のアニメって、これまで散々 “貧乏な家” を舞台にしてたんですよ。

 宮崎さんのアニメにしても、高畑さんのアニメにしても、貧乏な家か、もしくは庶民の家が多くて、金持ちの家を舞台にするアニメって珍しいんですよ。

 だから、「これはこれで面白いな」って思ったんですよね。


 トミカとかプラレールの他に、こんなオモチャをふんだんに与えられた4歳児の くんちゃん というのは、実はかなり “賢い子供” なんですね。

 そういった特徴は、実は、映画の中でも出てくるんです。


 『未来のミライ』というのは、実はかなり戦略的に作られた作品です。

 内容の戦略性は前回、「これは『千と千尋』のリメイクなんじゃないか?」という話をしました。

 この内容の戦略についての掘り下げに関しては、ちょっと後半で話します。


 ここで語るのは “マーケティング戦略” です。

 この『未来のミライ』って、マーケティング戦略に沿って作られているんですね。

・・・

 実は『未来のミライ』って、『クレヨンしんちゃん』の上位作品なんですよ。

 『クレヨンしんちゃん』がコンビニだとすると、『未来のミライ』っていうのは “無印良品” なんですね。


 「子供が無邪気な感じで周りの大人を巻き込んでいるように見えて、実は周りの大人たちが癒やされたり、トラウマが解決していく」という構造は、『クレヨンしんちゃん』の劇場版と全く同じなんです。

 それを上位変換して、いわゆるコンビニの商品から無印良品に高級化させたのが、『未来のミライ』なんですよ。


 これ、狙い目としては、メチャクチャいいんですよね。

 安くて、下品で、「子供はおバカなものです」という『クレヨンしんちゃん』に対して、『未来のミライ』というのは、高級で知的なんですよね。


 映像にも高級感が漂っているし、主人公の くんちゃん も、すごいワガママで嫌な子供に見えるんだけど、実は理屈はすごく通じてる。

 理屈がわかるからこそ、「やだやだ!」って言うわけですね。

 普通の4歳児だったら、あんなふうに大人に説得されても、何もわからないだけですから。


 4歳児の くんちゃん というのは、5歳の しんのすけ を知的にした感じなんですよ。

 たとえば、しんのすけ は自立してて、親の言うことを聞かなくて、一人でどんどん行っちゃうんだけど。

 くんちゃん は、甘えん坊で、なかんか外に行かない。

 ずっとお母さんの近くにいる。

 しんちゃん は おバカ で エッチ なんだけども、くんちゃん というのは、どちらかというと知的で恥ずかしがりである。

 こんなふうに、対照的な性格に作られているんですね。

・・・

 劇場版クレヨンしんちゃんとの共通点でいうと、たとえば『モーレツオトナ帝国』も、『あっぱれ戦国大合戦』もそうなんですけども、「無垢な存在としての子供が、大人に対して救いを与える」という構造になっているんですよ。

 これは前回の『千と千尋』に例えて話したんですけど、『クレヨンしんちゃん』と比較するともっと分かりやすいと思います。


 『クレヨンしんちゃん』の劇場版では、「しんのすけ が無邪気に振る舞った結果、周囲の大人たちも、癒やされたり、本来の居場所に戻っていく」というような構造になってるんですけど。

 『未来のミライ』に出てくる くんちゃん も同じなんです。


 この映画では、飼い犬が人間化して「お前(くんちゃん)が生まれてきたおかげで、それまで家の中で、ずっと可愛がられていた犬の俺が、その座から引きずり降ろされた。次はお前の番だぜ」と言われるところから、くんちゃん に不思議な出来事が始まるんですけど。

 この出来事についても「飼い犬が言いたかったことを言ってスッとする」という構造になってるんですね。

 そうやって、それまで拗ねて生きていた飼い犬が、もう一度、家族の一員に戻ってくるんです。


 その次は、くんちゃん の妹のミライちゃんが、成長した高校生として「好きな人が出来たんだけど、雛祭りの人形をしまってくれないから、いつまでも自分が結婚できないかもしれない」という悩みを持って、未来からやって来るんです。

 で、くんちゃん達がこれを解決してあげることで、妹のどうにもならない思いというのも解決する。

 くんちゃん というのは、実は、物語の中で「いやいや!」って暴れているように見えて、周りの人間の拘りとか悩みを溶かしてあげているんです。


 たとえば、母親は「弟と遊べなかった」という思いを持っていますし、曾祖父さんは「戦争で受けた傷によって、自分は結婚できないんじゃないか?」と悩んでいる。


 高校生になった未来の自分自身というのも出てくるんです。

 未来の くんちゃん は “自分探しの旅” という、わかりやすい家出の仕方をしようとしてたんですよ。

 それを、子供の くんちゃん が代わりに電車に乗ってしまう。

 ところが、4歳児だから自分探しというのがわからないので、東京駅で不思議な存在から「あなたの存在を説明するものは何だ?」みたいなことを聞かれた時も「それは私の家族」みたいなことを言う。

 すると、急に繋がっていって、高校生の自分の悩みも解決される。


 父親も父親で、ベストを尽くせなかったという後悔があったのが、くんちゃん が一所懸命 自転車を乗っているところを見て、過去のトラウマを解決する。

 こんなふうに、構造自体は、すごく上手く出来ているんですよ。

・・・

 こういった構造だけで言えば、明らかに『未来のミライ』は成功作なんですけど。

 ところが、それが上手く作動しないんですよね。


 なぜかというと、この映画を見る普通の人が期待するのは“くんちゃんの成長譚”なんですよ。

 でも、実際はそうじゃなくて、くんちゃん は ただ単に触媒であって、「触媒としてのくんちゃんを通じて、バラバラになりかけていた家族が繋がりを取り戻す」というトリッキーな話なんです。

 だけど、前回も言った通り、1つ1つのエピソードが弱すぎて、この構造がわかりにくいんですよね。

 この、わかりにくい理由というのは、実はもう1つあるんですけど、それは後半で話します。


 細田監督のいる陣営が狙ったマーケットは、『ドラえもん』とか『クレヨンしんちゃん』であって、ジブリじゃないんですよね。

 だから、ジブリを期待して見に行くと、やっぱり、かなり違うことになります。

・・・

 「じゃあ、それは何なのか?」、「なんで失敗したのか?」っていうのは、実は、細田監督の前作の『バケモノの子』に関係しているんですよ。

 後半では、そんな話をして行こうと思います。

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