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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/09/26
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今回は、ニコ生ゼミ9月16日(#248)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『ホモ・デウス』とはどんな本か? 3 】 3大害悪を克服した人類は遂に “神” を目指すことになる 


 飢餓や疫病と同じく、戦争もゼロにはならないですよ。

 なくなりはしないんです。

 だけど、今や、戦争での犠牲者は、年間でたったの12万人になりました。


 こう言うと、「いや、まだテロがあるじゃないか!」と思う人もいるかと思います。

 そうなんですよ。

 戦争の次はテロという恐ろしいものがある気がするんですけども、でも、年間のテロでの犠牲者というのは、8000人以下なんですよね。

 「コカ・コーラやマクドナルドによる肥満では年間300万人が死んでいるんだから、この8000という数字も十分無視できる」とハラリも言っています。


 つまり、人類にとって、戦争や飢餓や伝染病の時代は、全て終わってしまいました。

 もちろん、まだこの3つは存在するし、毎年マラリアで数百万人という膨大な犠牲者が出ています。だけど、この全てが “対処可能な問題” になっているんです。


 「どんなに手を尽くしても、飢餓がなくならない、疫病がなくならない、戦争がなくならない」と言っていた20世紀の頭に比べたら、この100年間で、これらは全て対処可能な問題の範疇に収まってしまった。


 長い歴史の中で、人類はこの3つの害悪を「解決出来るはずがない」と思っていたんです。

 だからこそ、神に祈ったわけです。

 国家や政府を作って、家族制度や友情など人間関係というのを信じて、お互いを裏切らないことを、ずっと続けてきたのも、全ては、「この3つは絶対になくならないものだ」と思っていたからなんです。


 じゃあ、この3つが “忘れてもいい問題” になった今、人類に残された解決するべき問題とは何か?

 人間の本能には「生き延びるために、何かの努力していなきゃヤバい!」という不安がプログラムされています。僕らは不安になりやすい猿なんですね。

 その結果、「今、残っている問題はなんだろう?」、「どこに落とし穴があるんだ?」という、この不安のエネルギーを、一体何に使えばいいだろうかと、考えることになりました。


 おそらく、人類というのは、今、ちょうど、入学試験もテストも授業も全部終わらせてしまって、数百年続く夏休みに入ったんですよ。

 だから「夏休みを何に使えばいいだろう?」と考えるわけです。

・・・

 ハラリは「今の人類が向かいつつあるのは “不死” と、“幸福を追求すること” と、“アップグレード” であろう」と言っています。

 この3つをハラリは「人類が挑戦する三大プロジェクト」というふうに読んでいます。

 
 不死というのは、死なないことというよりは、死を遠ざけることです。

 「30年以内には、これに関する技術はかなりの進歩を見せるだろうし、21世紀末に生まれる人間は、死なない、または300年から500年ぐらい生きる可能性が高い」とハラリは言っています。


 これについては、Googleの子会社の “Calico” という会社があるんですけど、この会社は「死を解決すること」を目的に、何億ドルというお金を使って研究を進めています。

 さらには、Paypalの創業者のピーター・ティールは「私は永遠に生きるし、そのための技術は、私の寿命の間に可能になる」と公言しています。


 3つの悪魔を滅ぼした後、人類が新しく挑戦する3大プロジェクトの1つ目は、「死なないこと」です。

・・・

 2つ目は、幸福の追求です。

 この幸福というのは、なんせ主観的なものですから、ちょっと特殊なんですけど。


 古代ギリシャにエピクロスという哲学者がいました。

 このエピクロスじいさんは「神々の崇拝は時間の無駄。死後の世界や不滅の魂は存在しない。現世の幸福こそが唯一の目的である」なんて、ものすごいことを言った人なんですよ。

 なかなかアナーキーですよね(笑)。


 この考え方、エピクロス主義とか快楽主義というふうに言われ、これを信じる者は “エピュキュリアン” と言われました。

 僕らが、日常生活の中で聞いたことがある、このエピキュリアンとか快楽主義という言葉は、もともとエピクロスが言った「神様なんかに祈っても時間の無駄です。死後の世界なんかないよ。だから、現実の生活で人間幸せ目指さなきゃ」という言葉に端を発しているんですよね。

 そして、僕らが今、当たり前に思っていることは、実はギリシャ人にとっては、堕落した考え方だったんです。


 エピクロスが唱えたのは「個人が幸福を目指す」という、あくまでも個人的な主義だったんですけど、これは後に、イギリスの哲学者ベンサムによって、国の政策になりました。

 このベンサムは「国を豊かにする」ということを言い出したんですね。


 「国家の発展のためには、国民は健康でないといけない。だから、国家による医療の充実が必要で、医者や病院みたいなのを作らなければいけない」とか、「経済の発展のために、国民には教養が必要だ。数が数えれなきゃだめだし、時間通りに動けなければいけない。そのためには、学校が必要だ」とか、「戦争をするためには、健康で教育を受けた国民が大量に必要だ」ということで、福祉制度や教育制度を広げようとしました。 

 こういった「国家のためには~」という考え方を、18世紀、19世紀、20世紀前半のいろいろな国の政府は、全てまともに受け取って運営されていました。


 しかし、20世紀の半ばになると、これが全て逆転します。

 国家のための健康とか教育とか福祉というのが、全て “国民の幸福のため” のものになったんです。


 長生きや健康というのはもちろん、高い教育を受けて高い給料をもらってお金持ちになるということも、「社会発展や経済発展などの国家のため」に行うものでなく、「贅沢をして自由を味わうため」という個人の目的になりました。

 これが、20世紀の後半で、いきなり起きたことなんですよ。

 あくまでも国家の発展がメインだったことが、全て個人個人のために変わったんです。


 これが、ハラリが言う三大害苦を退治した後の人類が求めている、2つ目の目標である「幸福を限度なく追及すること」です。

・・・

 そして、3つ目がバージョンアップ、「人が自分自身の心と体を作り直す」ということです。

 これについて、ハラリは「神性を獲得する(神の性能を持つ)」と言っているんですね。

 
 ハラリの言う神様というのは、一神教の “全能の神” みたいなものではなく、インドの古代の神様みたいな「遠く離れた人と会話する」とか、「空を飛ぶ」とか、「天気を操る」とか、「死なない」とか、そういう意味での神通力を持った存在だと定義しています。

 これについて、「スマホなどを使いこなす現代人は、古代インドとかギリシャの神様よりも能力が高い」とハラリは書いています。


 だからといって、「神様になる」というのは、そういうシャレみたいなことではないんです。

 人間は、この程度のセコい神様になった程度では満足しない、と。

 死なない身体や、無制限の幸福の追求のためには、文字通り、自分を神のレベルまでアップグレードしようとしているんです。

 
 では、神へのアップグレードはどのように行われるのか?

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 まずは、“生命工学” 。

 これは「病気にならない身体や、いくら食べても太らない身体にするために、自分の遺伝子を操作する」ということです。こういった欲望が、人間にはどんどん生まれてきています。


 次に、“サイボーグ工学” です。

 これは、ソフトバンクの孫さんが言っているように「自分の脳の中にスマートフォンを埋め込む」とか、「自分の眼に、映像の録画・再生ができるコンタクトレンズを埋め込む」みたいなことです。

 これは、やりたがる人はかなり多いと思います。


 最後に、“非有機生命を生み出す工学” です。

 自分の脳の中身の記憶とかをネットワークに丸々移し替える、みたいなことですね。


 この辺のことを「21世紀のこれから、神へのアップグレードとして、人類が目指すことになるだろう」とハラリは言っています。

 死なない永遠の身体や、最高に幸福な状態をずっと維持する幸福の追求を実現するためには、アップグレードが必要だ、と。


 そして、ここまでのアップグレードをやるというのは、一言で言うと「神になること」なんです。

 ホモ・サピエンスというのは、立ち上がっただけの人類であるホモ・エレクトゥスや、ホモ・ネアンデルターレンシスとは根本的に違った種族です。

 同じく、アップグレードの結果、神の属性を獲得した人類というのは、それまでのホモ・サピエンスとは、根本的に違った種族となるだろう。

 それこそが、神になった猿 “ホモ・デウス” である……というのが、第0章にあたる、ハラリによる長い前置きです。

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