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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/10/11
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今回は、ニコ生ゼミ9月30日(#250)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【白い悪魔と赤い彗星 3 】 巨大プロジェクト時代の申し子 フォン・ブラウン


 ここまでの3人、ツォルコフスキー、ゴダード、ヘルマン・オーベルトというのは、とりあえず3人ともコミュ障で、頑固で、他人と働けないという、良くも悪くも “孤高の天才” なんです。


 孤高の天才は、すごいことを思いつくし、発明だってするんですけど、他人を動かせないんです。

 19世紀までの科学界では、それでも良かったのかもわからないんですけど、20世紀というのは “巨大プロジェクトの時代” なんですよ。

 なので、“時代遅れの人” という言い方も失礼ですけど、死後になって評価される、生きている間はあまり評価されないような人だったんですね。


 今回の主役であるウェルナー・フォン・ブラウンというのは、巨大プロジェクト時代の申し子です。

 他人を動かして、自分も一緒に働いて、どんどんプロジェクトを大きくして、お金を集めるということが、大好きで得意でした。


 それに対して、もう1人の主役である、ソ連のセルゲイ・コロリョフは全く逆のタイプで、孤高の天才世代の生き残りなんですね。

 そんな、最後の孤高の天才は、「他人に頭を下げるのは嫌だ! 他人と一緒に働くのは嫌だ! 頭を下げるんだったら最高権力者のみに下げる!」といって、フルシチョフに取り入って、宇宙開発を進めて行くことになります。


 フォン・ブラウンはドイツの運命を変えてしまったし、コロリョフはソ連の運命を変えてしまった男でもあります。

 歴史を語る時には “ロケット開発” ということでしか語られないこの2人なんですけど。

 実はこの2人は、ドイツとソ連という2つの国、フォン・ブラウンに至っては、後にアメリカという国の方向性までも変えてしまった、とんでもないヤツなんです。

・・・

 ということで、これが「白い悪魔フォン・ブラウン」です。

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 これは、ドイツから米国に渡ってきて、まだ40手前くらいのフォン・ブラウン。

 17歳の嫁を貰って、一番活き活きしていた時代です。


 ドイツ人って、子供の頃に、幼馴染同士で許嫁を作ることが多いんですよ。

 あとは「親が決める」ということも多いんですけども。


 フォン・ブラウン自身も、結婚が決まったのは、相手が11歳の時だったそうです。

 その時から、熱烈なラブレターを11歳の許嫁に送り続けて、彼女が17歳になった時、アメリカに呼んで結婚したそうです。


 その頃にはフォン・ブラウンも40歳近かったんですけども。

 まあ「そういう民族だ」と言われれば、そうなんでしょう。


 これが、一番イケイケだった時代の、僕が「白い悪魔」と呼んでいるフォン・ブラウンです。

・・・

 フォン・ブラウンというのは、ロケット界のビル・ゲイツでもありました。

 ビル・ゲイツというのは、AppleとかIBMとかと手を組むことすら恐れない男だったんですよ。


 本来、マイコンとか、マイクロコンピューターをやってた人というのは、IBMに対して、恐れたり反発したりしていたんですけども、そういうところと手を組むのも恐れない。

 ライバルのAppleにも、平気でOSを提供する。目的のためには手段を選ばない男。

 それがビル・ゲイツなんですけど。

 フォン・ブラウンも、それと同じなんですよね。


 ドイツ宇宙旅行協会のメンバーが大反対する中、1人でナチス党に入って、強制収容所から集めた “痩せこけた奴隷たち”、ポーランド人とか、ソ連の捕虜の兵隊をかき集めて、一年中、日の当たらない洞窟の中で働かせました。

 そんなふうに、もう何万人も殺して、V-2号ロケットを作ったんです。

 まさに、目的のためには手段を選ばない白い悪魔、フォン・ブラウンです。


 彼は、第二次大戦でドイツが降伏する前から、すでにアメリカに亡命する計画を立てて、「ドイツはもう負けるから、みんなでアメリカに亡命しようよ!」と、同僚を説得してたんです。

 それも、ただの逃亡ではないんですよ。

 自分たちをアメリカに最大限高く売るために、ロケットの完成品数十台と、組み立て済みの部品全て。さらには図面とか実験データの写し、などなど。

 それら、列車の貨車にして200台とか500台分と言われてる研究成果を全て持ち逃げしたんです。

 この辺りの戦略家ぶりというのも、ビル・ゲイツっぽいと思います。


 まあ、結局 “捕虜” としてアメリカに輸送されることになったんですけど。

 その後も「俺達は科学者だ! 捕虜じゃない! ロケットを作らせろ!」と抗議するものの、聞き入れられず、「お前らには、もう用はない」と言われて、ホワイトサンズという砂漠地帯の中で冷や飯を食らわされることになるんです。

 でも、そうなったらそうなったで、今度は時の人であったウォルト・ディズニーに接近して、彼のテレビ番組に出演して、自分が主役の科学番組のシリーズを作らせたんですよ。

・・・

 ところが、最初の内は、みんなから「ナチ野郎!」とか「この人殺し!」と言われました。

 そして、この時に「俺はロケットを作りたかっただけだ! そのためなら悪魔とだって契約してやる!」と発言して大炎上したんですよ。

 すごいオッサンですよね(笑)。


 当時のアメリカの有名人だった、ハーバード大学の教授でユダヤ人のトム・レーラーという人がいたんですけど。

 彼はピアノを弾き語りしながらのパロディソングを作ることで人気だったんですね。


 どれくらい炎上していたのかというと、そのトム・レーラーが歌った『ヴェルナー・フォン・ブラウンの歌』というパロディソングが大ヒットしたくらいなんですよ。

 「ナチスの殺し屋フォン・ブラウン~♪」とか、「アメリカ人の金を山程使ってやがる。それだけの金があったら、ああ、どれだけ貧乏な子供達が学校に行って 輝く笑顔を取り戻せるだろう~♪」というリフレインが何回も入るような悪口の歌です。

 そもそも、歌のタイトルが個人名なんですよ(笑)。
 

 ただ、フォン・ブラウンにとって運が良かったことに、ちょうどその頃アメリカは “赤狩り” ブームに突入したんですよ。

 つまり、かつてのナチス・ドイツという憎くて怖い国民の敵よりも、もっと怖い “共産主義者” というのが出てきた。アメリカ全体でそんな共産主義者を憎むようになったんです。

 そして、ついに「いや、フォン・ブラウンって、いいヤツじゃん。共産主義者を追い詰めることをやってくれてるじゃん!」とか、「ソ連に対抗してアメリカのミサイルを作ってくれるんだよな!」ということで、フォン・ブラウンに追い風が吹き始めました。


 フォン・ブラウンというのは、炎上発言をすることもあるんですけど、だからといって “空気を読まない” ということは決してないんですよ。

 ちゃんと謝罪すべきところでは謝罪するんですよね。


 たとえば、ナチスに両親を収容所で虐殺されたというユダヤ人の前では、もう、涙を流しながら「私はユダヤ人殺害には全く関与しなかった。しかし、全てのドイツの国民と同じく、あなたとご両親には、いくら謝罪しても足りません」と頭を下げるというふうに、ちゃんとした押さえ方をする人でもあったんです。

 まあ、「じゃあ、なんでロケット開発をしたんだ?」という追求に関しては「それは私には夢があったからだ! ロケット開発はナチのためにしたんじゃない! 人類のためにしたんだ!」という、この一線だけは、全く譲らなかった人でもあるんですけど。

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