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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/10/12
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今回は、ニコ生ゼミ9月30日(#250)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【白い悪魔と赤い彗星 4 】 最後の “孤高の天才” コロリョフ


 さて、その一方で、ジオンの赤い彗星……じゃなくて、“ソ連の赤い月” ことスプートニクを打ち上げた男、「赤い彗星コロリョフ」はというと。

 コロリョフについては、あんまりいい写真が残ってないんです。

 なぜかというと、死ぬまでその正体が秘密にされてたからです。

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 生前は、ただ「主任設計士」とだけ呼ばれて、名前も身分も全て秘密。

 写真も一切、表に出なかったんですよ。


 死んでから初めて「セルゲイ・コロリョフという人が主任設計士でした」と発表されて、ようやっと写真も出始めたんですけど。

・・・

 このコロリョフは、フォン・ブラウンと違って苦労人です。

 なんせ、ソ連で最初の液体燃料ロケットを作ったにも関わらず、その時に一緒に実験を行った信じていた仲間の1人の密告によって無実の罪を着せられて、シベリアでの地獄の収容所生活を送ることになったんですよね。


 この収容所での生活は、最初は10年間と言われていたんですけども、一応、6年目で呼び戻してもらえることになりました。

 この6年間というのは、凍りついたシベリアの大地を掘って掘ってというだけの奴隷労働でした。コロリョフは、この時に全ての歯が抜けて、顎の骨が砕けて、体調をメチャクチャ悪くしたと言われています。

 そんな中、ナチスドイツが降伏したことによって、ロケット技術が突然ソ連のものになりました。


 ところが、ドイツのV-2号ロケットの研究施設に行ったソ連の技師や科学者には、何がなんだか全くわからなかったんです。

 「とにかく、ものすごく進んでいる」というのはわかるんですけど、ドイツのV-2号というロケットがあまりに進み過ぎていて、これをもう一度再現することが誰にも出来なかったんです。


 そこで、仕方なく、シベリアに追放したコロリョフを呼び戻すことにしたんですね。

 強制収容所から呼び戻されたコロリョフは、ドイツに連れて行かれて「このミサイルを持って帰って、ソ連で同じものを作れ! 出来れば、もっと優れたミサイルを作れ! 作れなければ、お前を殺す!」と言われます。

 シンプルな要求ですね。


 さて、そう言われたコロリョフは、仕方なくパートナーを組むことになりました。

 もちろん、コロリョフ自身は1人で仕事をしたい頑固者タイプの人です。

 ところが、ドイツのV-2号というロケットは、1人で扱うには複雑過ぎる。


 実際、コロリョフは液体燃料の研究をやってたので、使われている原理は理解できたんですよ。

 ただ「なんでこうなってるの? どこにこのチューブ繋がってるの?」みたいな、具体的なことが全く分からなかったんです。

 なので、しょうがなく、自分と同じくらいの能力がある “ソ連のロケット工学の第2の天才” を呼んだんです。


 そいつは、かつて自分を無実の罪でシベリアに送ったヤツだったんですよ。

 もう、そいつと組むしかなかったんですよね。


 コロリョフは、そうやって、復讐心を心に隠しながら、核ミサイルを作ると見せかけて、実は人工衛星や、人間を月に送るロケットの開発をしていました。

 つまり、愛国者のフリをした反逆者なんです。

 フォン・ブラウンが「目的のために手段を選ばない男」だとしたら、コロリョフは「“手段” のためには目的を選ばない男」なんですね。

 これが、「赤い彗星セルゲイ・コロリョフ」です。

・・・

 同時に、コロリョフはあまりにも天才過ぎたんですよ。

 フォン・ブラウンって、ロケットを作った “だけ” なんですよね。


 アポロ計画の中でフォン・ブラウンが担ったのは、サターンロケットを作るという部分だけなんです。

 アポロ計画の立案にしても、月着陸船にしても、アポロ宇宙船にしても、全部NASAという組織に任せた。

 だからこそ「大きなロケットを作る」というシンプルな目的がクリアできたんですけど。

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 これが、フォン・ブラウンが作った、サターンV型ロケットの72分の1の模型です。

 72分の1ですから、普通の飛行機模型とかと同じ縮尺です。


 その下の方にある小さい緑色のロケットが見えますか?

 これがフォン・ブラウンがナチス・ドイツで作ったV-2号ロケットの72分の1スケールの模型です。

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 このV-2号からサターンⅤ型の開発まで、25年くらいしか掛かってないんですよね。

 25年といっても、フォン・ブラウンはその途中で10年以上、冷や飯食らわされて何もさせて貰えなかったら、実質的には10年ちょっとで、ナチス時代のロケットから、とんでもない怪物ロケットを作り上げました。


 実際、人類はいまだに、このサターンV型を超えるロケット作れていません。

 これを作ることが出来た理由、それはひとえに「フォン・ブラウンはロケットを作ることだけに集中したから」なんですよ。


 それに対して、コロリョフは違うんですよね。

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 これが、コロリョフの作ったR-7という “ソ連のなんでも打ち上げられるロケット” です。

 ソ連は、このロケットでスプートニクを打ち上げて、ソユーズも打ち上げて、それどころか、いまだにこれを使っています。


 「世界で最も多く打ち上げられたロケット」と言われてるんです。

 たしか6千7百回だったかな?

 とにかく打ち上げ回数がすご過ぎるんですよ。


 というのも、コロリョフの設計が抜群で、改良する必要が全くなかったからなんですよね。

 なので、こいつだけで70年前から今まで、ソ連からロシアに変わった後でも、これを使って打ち上げています。

 
 今、国際宇宙ステーションに行ってるのは、このR-7と “アリアン2” なんです。

 現役で飛んでいるロケットです。

 ただし、コロリョフというのは、ロケット開発者としては “R-7” というロケットを作っただけなんですよね。

 しかし、その代わり、コロリョフはソ連の宇宙計画の全てを手がけていたんですよ。

 これが、フォン・ブラウンとの大きな違いです。

・・・

 こないだ紹介した『ブラック・ジャック創作秘話』に出てくる手塚治虫の話を覚えてますか?

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 僕、このフリップを出せるのが嬉しくてしょうがないんですけど(笑)。

 手塚プロで、締切が迫ったアニメ制作で、誰が何を担当するかの会議の中で「まず、このカット。何も手付かずですけど…」と言われると「はい! これは手塚! 私が描きましょう!」と、手塚治虫は手を挙げるんです。

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 それを聞いて「先生!」と喜ぶんですけども。

 「次は、このカットは…」というと、これまた「私が!」「私が!」と手塚先生が手を挙げる。

 最終的には「全て私がやるから、みなさん大丈夫です。任せてください!」と言われて、みんな安心するんだけど、これによって後で地獄を見ることになるわけです。

 
 これが、日テレの24時間テレビの第1回用の特別アニメを作っている時の話です。「全てのパートを手塚がやります!」と言ったことで、みんなエラい目にあうという話なんです。


 コロリョフも同じなんですよ。

 世界初の人工衛星も、ロケット開発も、あとはフルシチョフから命令された核戦争用の中距離ミサイル、長距離ミサイルの開発も、おまけにカザフスタンのバイコヌールというところにゼロから作ることになったロケット打ち上げ基地の設計から、現場に行っての監督も「全部、自分がやる!」と言って手放さなかったんですね。

 なので、ちょうどこんな状態です。

 「では、ソ連の宇宙計画を進行状況ごとに3段階に分けました。計画のみで図面が白紙のもの。図面だけは出来上がっているもの。製造に入っているもの。まずスプートニク。何も手付かずの状況ですが…」

 「はい! これはコロリョフ、私がやりましょう!!」

 「先生!!」

 「では、カザフスタン打ち上げ基地…」

 「それもコロリョフやります!」

 「核ミサイル開発…」

 「それコロリョフ!」

 ――というふうに、もう全てに手を挙げてしまって、手放さなかったんですね(笑)。


 天才・手塚治虫と同じく、コロリョフというのは、なんでも出来てしまうから。おまけに、彼は他人を信用してないから、全部 自分で引き受けてしまうんです。


 初期のソ連の宇宙計画の大成功の秘訣というのは、実はこのコロリョフの超ワンマン体制にあったんですよ。

 ロケット開発初期の頃、アメリカがソ連に大きく水を開けられていた原因は「何事にしても決定に時間が掛かったから」なんです。


 NASAの承認を取らなきゃいけない。

 大統領の承認を取らなきゃいけない。

 陸軍と海軍とのバランスをとらなきゃいけない。

 そこまでしても、予算がつかなかった。


 こういう事情があったから、アメリカの方はなかなか進まなかったんです。

 だけど、ソ連の方は、フルシチョフが「いいよ」と言ったら、もうその瞬間からコロリョフは全てを自分の思うように出来た。

 だから、コロリョフ自身は死ぬほど忙しかったんですけど、プロジェクトはどんどん進んでいったんです。

 もちろん、それはコロリョフの体力を犠牲にしてのことなんですけども。


 しかしアメリカは、その後、ワンマン体制のコロリョフに追いついて、遥かに追い抜いてしまうんですね。

 なぜなら、フォン・ブラウンは、システム工学を信じることが出来たので、他人に仕事を任せることが出来たからです。これが後の逆転の秘密なんですけども。


 とりあえず、無料パートはここまでにしておきたいと思います。

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