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「【『もののけ姫』冒頭10分の完全攻略! 2 】 アシタカの受けた “呪い” の正体」
こう見ると、案外、足が長いんですよね。
6本足のようにも8本足のようにも見えるのはなぜかというと、このタタリ神が “土蜘蛛” を表しているからなんですね。
「あいつらは土蜘蛛だ!」みたいな悪口を言っていたんですね。
残念ながら、このジョークも高級過ぎて、僕らには伝わらないわけですね(笑)。
つまり「誰にも分からなくてもいいから、とにかくやっちゃうよ?」と。
『天空の城ラピュタ』の頃は、自分のやりたいことを我慢してでも、全てを分かりやすく描こうとしていたんです。
こういった分かりやすい表現を多用する代わりに、アニメの中で描いて良いものと、描いてはいけないものとをハッキリ分けて作っていたんです。
ところが、『もののけ姫』からは「描いていいものや描いて悪いものなんてない! 子供達には全部見せなきゃいけないんだ! この世の中にあるエグいものも、全部見せるんだ! ……ただし、誰にでもわかるようには描かない!」というスタンスになったんですね。
こういった要素も、宮崎駿としては「土蜘蛛といえば、東北地方の蛮族のことでしょ?」とか、「平安絵巻の中に蛮族退治のメタファーとして利用されているんだから、みんなわかるでしょ?」みたいに、ウィンクするように見せているんですよね。
その結果、タタリ神の呪いは、アシタカの右腕に蛇のように巻き付いて、真っ黒なあざを残す。
そういう話が、冒頭3分くらいで、すごくスピーディに描かれます。
この「ヒイ様」というのは「お姫様」という意味ですね。
そして、ヒイ様が、ミミズとか蛇みたいなヌルヌルしたものが抜けて、今や巨大なイノシシの形に戻った神様に「いずこよりいまし荒ぶる神とは存ぜぬも、かしこみかしこみまおす。 この地に塚を築き、あなたの御霊をお祀りします。 恨みを忘れ鎮まりたまえ」と言うんですね。
つまり「あなた死体の位置に、そのまま巨大な墳墓を作って、ずーっとあなたの魂にお祈りを捧げます。だから、これ以上は祟らないでください」と言うわけです。
そして、そのままドロドロと消えてしまう。
これは、普通のマイクの他に、この神様の声を担当した俳優さんの喉にマイクを貼り付けて、喉の震えも同時に録音して、声と喉の震えの音とをミキシングして作っているそうです。
なので、その息遣いも込みで、ものすごく不気味な感じに「穢らわしい人間どもめ」という声になっています。
ここら辺の表現も、宮崎さんは全好調ですね。
宮崎さんは、Aパートから作画を開始しているので、序盤のAパートBパートの描写は、本当に「美しい」としか言いようがないんです。
前半1時間は、本当にすごい作画です。
この社の内部を見てもらうと分かるんですけど、部屋の壁の中央の部分に出っ張りがあります。
これは何かというと “御神体” なんですね。
この御神体に張り付くように、高床式の社が建てられているんです。
この出っ張った岩の正面の位置に机があるのわかりますか?
すごく低いテーブルがありますよね?
このカットでは、アシタカの影になっていて、ちょっと見えにくいんですけど。
つまり、普段、神様に仕えているヒイ様は、この岩に向かって座っているわけです。
だから、この岩が御神体であることがわかります。
このシーンの最後にアシタカが髷を切り落とすシーンがあるんですけど、そこでも、髷を切り落とした後、この机の上に置いて、一礼して去っていきますから、やっぱりこれが御神体だとわかるんですね。
なので、アシタカの村が、今で言えば東北のかなり奥の方にあるというのがわかります。
そして、彼らは “大和朝廷に服(まつろ)わぬ人達” なんですね。
「本当にすごいものは自然の中にあるものであって、人間程度のものを拝んでどうするんだ!?」とか、「人間が作った程度のものを有難がってどうするんだ!?」というのが、縄文人の世界観なんです。
縄文人って、ちょっと独特のメンタリティを持っていたんですけど。
なので、彼らは巨石を神体として拝んでいるんです。
宮崎さんは完全にそれに乗っかって物語を作っています。
なので『もののけ姫』というのも、縄文人の話だと思ってください。
この縄文土器を見せることによって「はい、彼らは縄文人ですよ」と分からせているわけなんですけど。
その他に、もう1つの機能があるんです。
このタタリ神によって出来たアシタカの腕のウネウネしたアザと、後ろの縄文土器の模様、そして、最初にタタリ神が出てきた時に彼の身体中を這っていた蛇のようなウネウネは、どれもよく似ているんですよ。
このデイダラボッチの設定資料を見ると「夜空が歩いてるようでもあり、歩く縄文土器のようでもある」と書いてあるんですね。
この、土器と一緒に見せられているアシタカのアザの模様というのは “縄文の神々のサイン” なんですね。
アシタカは、このあざを受けてから、おヒイ様から「アシタカヒコ」と呼ばれるようになります。
この「ヒコ」というのは、古代の王子の尊称です。
ヒイ様というのは、この国の “宗教的な” 中心です。
要するに、この呼び方は「アシタカヒコこそがこの国の将来の長となる人物である」と認めているということです。
つまり、『もののけ姫』とは「その国の将来の王が、呪いであり聖痕でもあるものを与えられた」という話になっているんです。
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