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今回は、ニコ生ゼミ03月31日(#275)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【『平成狸合戦ぽんぽこ』予習 1 】 宮崎駿の『製作を中止しなければ俺がジブリを辞める!』宣言の謎」
ネコロン:
宮崎駿は「パクさん(高畑勲)は、杉浦茂の漫画の『八百八狸』をやってくれ。あれはすごい楽しい作品だから、哄笑できるような作品をやってくれ」と言ったんだよ。
哄笑、つまり「映画館で見ている人が、思わず腹を抱えて大きい声を出して笑うような作品をやってくれ」と言ったんだけど。
しかし、それに対して高畑勲が何と言ったかというと、「僕には、この漫画の面白さが全然わからないし、映画館で声を上げて笑うなんて、くだらないことだと思う」って “その時は” 言ったんだよね。
……後に『ホーホケキョ となりの山田くん』を作る彼が、そんなふうに。
まあ、宮崎駿の真意としては、「僕は『紅の豚』という映画で、自分のことを豚だと言った。じゃあ、パクさんは狸だろ?」と。
「自分は欲望にまみれた、なんもかんも欲しくて、女にもモテたい豚のような人間なんだけど。パクさん、あなたは人も騙すし自分も騙す。そうやって他人を使ってばかしたようなものを作る狸じゃないか」と。
なぜかというと、庵野秀明が一時期、メチャクチャハマってたんだよ。
『人間失格』の話ばっかりする、と(笑)。
その間、庵野秀明って、物作り的にはちょっと大人しかった時期なんだよね。
『トップをねらえ!』が88年で『エヴァンゲリオン』が95年だから。
ちょうどそのヘコんでた時期に、宮崎駿の影響だと僕は思うんだけど、『人間失格』をすごい読んでいたんだ。
なので、僕は、宮崎駿に『人間失格』ブームがあったというのは知らないんだけど、あの時期、庵野秀明が『人間失格』に すごくハマってたっていうのは、当時ガイナにいた連中だったらみんな知ってるんだよ。
そうやって開き直って「俺は欲望で生きるぜ!」と言ったのが『紅の豚』という作品なんだけど。
だけど、自分だけマルクス主義というのを捨てるのはツラい。
だから「じゃあ、高畑さんも」ということで、「自分のことをカミングアウトする作品を作ってくれ! 自分のことを狸だと言ってくれ!」と言ったんだけど。
じゃあ、『平成狸合戦ぽんぽこ』というのは、そんな作品になったのかというと、全然そんな作品にならなかったんだ。
「狸合戦」までは宮崎駿も認めてたんだけども、その前に「平成」を付けた。
おまけに、またどこかのテレビ会社の営業かなんかが「じゃあ思い切って『ぽんぽこ』まで付けたらどうですか?」なんて言ったから、高畑勲は大喜びして「そうだ! もう、狸合戦の前に『平成』を付けて、うしろに『ぽんぽこ』まで付けたら、この作品がどんなにくだらないか、分かってもらえるだろう!」と。
そういうふうに、軽い……まあ「軽い」という言い方は、高畑さんは絶対にしてないんだけど。
どう説明すればいいかな?
まあ、それは来週までに考えるわ。
とにかく、そういうふざけたタイトルにしたんだよ。
後に、井上ひさしという文学者と対談した時も、井上ひさしが「あのタイトルだけはね」って言ったら、宮崎駿は大喜びで「そうですよね! あのタイトルはダメですよね! あんなタイトルを付ける高畑勲の作品はダメに決まっている!」なんて言い出して、その隣で鈴木敏夫がメチャクチャ困っているという。
「あれ? それと同じやり取り、何年か前に『ゲド戦記』の作者のアーシュラ・K・ル=グウィンの前でもやってたよな」ってことをやってるんだけど(笑)。
やんわり書いてるんだけども、ぶっちゃけると「自然とかエコロジーというテーマを、高畑さんにはやって欲しくない」と。
…だって、『紅の豚』は1年で作らされたのに、高畑さんは2年も掛けて、予算なんか何倍も使って『ぽんぽこ』を作ってるわけだ。
その時点で、何か心の中で引っ掛かってるものがあるというのに、おまけに正面切って「エコロジーだ! 自然だ!」というふうにやられたら、それはないだろうと。
もう本当に女学生の喧嘩だよ(笑)。
鈴木敏夫にばっかり、それも、1ヶ月間言い続けたんだって。
もう、この本の中では「あの時の宮さんは、たぶん狂ってた」っていうふうに書いてあるんだけど。
それくらいおかしかった。
この「製作をやめなかったら、俺がジブリを辞める!」っていう騒動が、どう収まったのかと言うと。
救急車を呼ぶかどうかということになって……いや、さっさと呼べばいいと思うんだけど、どうも、呼べないような状況だった。
「そんな状態の宮崎駿を外には見せられない」という判断もあったんじゃないかと、僕はこの文章を見て思ったんだけど。
宮崎駿はボロボロっと泣いて家に帰ったそうなんだけど。
では、なんでそんなに泣いたのか?
その辺りを考えながら、テレビで放送される『平成狸合戦ぽんぽこ』見てください。
「なぜ泣いたのか?」という答え合わせは、次回のニコ生でやろうと思います。
なんで宮崎駿は「こんなアニメを作るんだったら、俺はジブリを辞める!」と言っていたのに、試写会で号泣するようになったのか?
この視点で見てみると、『ぽんぽこ』にも、ちょっと新しいポイントが見つかるかと思います。
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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