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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/05/23
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今回は、ニコ生ゼミ05月12日(#281)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『世にも奇妙な人体実験の歴史』 その2 】ロンドン中から死体を集めた解剖の天才ジョン・ハンター


 ペニシリンのない時代、自分を使った人体実験によって必要もないのに梅毒にかかったハンターは、生涯、苦しんだ。

 しかし、このジョン・ハンターの面白伝説の中では、こんなものは、まだほんの序章に過ぎないんだよ。


 この『世にも奇妙な人体実験の歴史』の他にもう1冊、『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』という本があるんだけど。

 この表紙になっている絵があるんだ。

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 これ、わかりにくいよね。

 本の中にも図解として載ってるんだけど。

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 まだちょっとわかりにくいから、今回はこれを拡大した図版を作ってみました。

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 すいません。ご飯中の人がいたら、シンドいと思うんだけども。

 これ、何かというと「臨月直前の女性の子宮あたりの解剖図」なんだ。

 中に胎児が入っている、と。

 これは、ジョン・ハンターのお兄さんで、同じく医者のウィリアム・ハンターが発表した図版です。


 これが、当時の医学界に衝撃を与えたんですね。

 なぜかというと、それまで胎児というのは…

 …またこれもギリシャ時代の学説をそのまま信じていたんだけど(笑)。

 ギリシャ時代の学説によれば「馬のお母さんの子宮の中には “小さい馬” が入っていて、その小さい馬が段々と大きくなって、馬の赤ん坊として誕生する。妊娠したメス猿のお腹の中にも “小さい猿” が入っていて、それが段々と大きくなって猿として生まれる。それと同じように、人間のお腹の中にも、最初から “小さいサイズの人間” が入っていて、それが段々と大きくなって、赤ん坊が生まれる」と。

 観察もしてないのに、ギリシャの医者はそういうふうに考えていたわけだよね。

 しかしウィリアム・ハンターはこれを否定したんだ。


 今回は、たまたま出産直前の図版しか手に入らなかったんだけど、実は、ウィリアム・ハンターが発表した本の中には、この他にも30数枚の図版があって、そこには、妊娠初期から臨月直前までの子宮の解剖図が全部載っていたんだよ。

 妊娠の一番初期には、まるでトカゲみたいな魚みたいな状態でうずくまっていた胎児に、段々と手足が分離してき、頭が大きくなって、そして、頭に比べて胴体が大きくなってきて、人の形になって、指が分かれて、遂には髪の毛が生えるというところまでわかった、と。

・・・

 なぜ、この図版がこんなに衝撃的だったのかというと。

 実は “妊娠している女性の解剖” というのは、それまでほとんど不可能だと思われていたからなんだよね。

 その理由は2つ。


 1つ目は「当時、合法的に解剖が許されていたのは、死刑になった囚人の死体のみだったから」なんだ。

 そういった死刑囚の死体が、年に何体か払い降ろされていたわけだ。

 ところが、それと同時に、当時「妊娠中の女性は死刑にされない」という法律があったんだよ。


 当時は、死刑になる罪がやたら多かったんだ。

 60種類くらいあったらしいんだよね。

 とりあえず、スリをしても死刑だし、泥棒を働いても死刑になるし、何をしても本当に死刑になるくらいだったんだけど。

 しかし、唯一、妊娠中の女性は死刑にされなかった。

 なので、女の人は犯罪で捕まって、死刑の判決が出そうだなと思ったら、留置所の見張りとすぐにセックスして出来るだけ早いこと妊娠したんだよ。

 そしたら、妊娠期間中は絶対に死刑にならないので、自分の寿命が伸びるわけだよね。

 そういうわけで「妊婦が死刑台にかかる」ということ自体、まず無かったわけだよね。


 もう1つ、「そもそも死体の提供数が少ない」という理由もあった。

 当時、当たり前だけど、みんなキリスト教徒だったんだ。

 なので「最後の審判の後に、イエス・キリストが地上に降臨して、全ての死者を復活させて一緒に天国へ連れて行ってくれる」と信じていた。

 で、「その時に、医者によって解剖されたような死体は天国には行けない」というふうに言われてたんだ。


 なので、みんな「もう絶対に、自分のお父さんやお母さんが死んだ時に、解剖なんかさせない!」というふうに言い張ってたんだよね。

 ただでさえ宗教上の理由で死体が手に入れにくい中で、おまけに妊娠中の女性は死刑にならない。なので「妊娠している女性の死体の解剖なんて、ほとんど不可能だ」というふうに言われていたんだ。


 じゃあ、なぜ、ウィリアム・ハンターの発表した論文には、ここまで完璧な解剖図が載せられたのか? 

 不思議だよね。

 妊娠初期から臨月直前までの段階ごとの死体の解剖図が載っているということは「それだけの死体が、偶然、手に入った」ということなんだよ。

 そんな事あるはずが無いわけだよね。

 ここで登場するのが、今回の主人公の、ウィリアムの弟、ジョン・ハンターなんだ。

・・・

 ジョンは、20歳になるまでスコットランドの田舎でお母さんと妹と一緒に農業をやってたんですけども、もう本当に役立たずだったんです。

 学校は中退してるし、資格も何もない状態で、ニートみたいなことをやっていた。

 その頃、お兄さんのウィリアムは、ロンドンで医者としてのキャリアを築いて、自宅の大広間で “解剖学教室” というのを開いていました。

 これが大ヒット。

 当時のイギリスでは、まだまだ解剖学というのが珍しくて、教室を開けば、熱心な医学生とか、あと現役の医者が大勢やって来て、「ハンター先生!」ってなことで、大繁盛してたんだよね。


 ところが、人間の死体というのは、たとえ冬場の寒い時期であっても、1週間も経たない内に解剖用としては扱いにくいものになってしまう。

 だいたい死んで3日くらいしたら臓器が崩れてしまう。

 死んだ瞬間から内部組織っていうのは崩れてくるんだけど、3日くらいしたら臓器が段々と溶け始めて、冬場であっても、1週間もしたら、もうグチャグチャな状態になっちゃうんだって。

 だから、少なくとも、死んで1週間以内のものでないと、解剖学教室では使えない。

 だけど、このウィリアム・ハンターが開いていた解剖学教室って、毎晩あるんだよ。

 まあ、最低でも、週に1回は新鮮な死体が手に入らないといけないわけだよね。


 まあ、“死刑になる囚人” 自体は豊富にいたんだよ。

 さっきも言った通り、ちょっとでも罪を犯したら死刑になった時代だったので、死刑になる囚人というのは毎月毎月10人以上、月によっては数十人もいて、死刑執行の縛り首というのは庶民の間では最大の娯楽の1つだったそうなんだけど。

 ところが、ウィリアム・ハンターの他にも解剖学教室というのはロンドン中でいくつかあったし、その他にも勉強熱心な医者としては、なんとしてでも人体を解剖したい。

 なので、そういった死体というのを奪い合って、殴り合いの喧嘩まで起きていたんだ。


 で、当時の死刑っていうのは “縛り首” なんだけどさ。

 人間の首をロープで縛るじゃん?

 その下に荷車を置いて、その荷車がどいたら、ロープで吊るされることになったその人間が、グッと窒息して死ぬんだけどもさ。

 「そんなふうに吊られる人の足下では、遺族と解剖医の間で、その死体の争奪戦が行われた」って言うんだよね。

 本当に、殴り合いの乱闘が毎回あったらしいんだけど、「この乱闘が死刑以上に面白い!」ということで、見物人が来て大騒ぎするくらいで、あまりの大騒ぎに死体が生き返ることもあったんだって。


 この「死体が生き返る」というのは、冗談でもなんでもなくて。

 今、どうやって縛り首になったのかを細かく言ったのはなぜかというと、“現代の縛り首” では、人間が生き返ることはないんだよ。

 今の死刑というのは…

 …タオルくん、ちょっと手伝ってくれ。

 こんなことに使ってゴメンな(笑)。

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 こいつが死刑になるとするじゃん?

 今の縛り首って、死刑台の上に登るんだよ。

 で、首にロープを掛けられてガクンと何メートルか落ちるんだよね。

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 この落ちる勢いで“頚椎の骨折”が起きるわけだ。

 で、ダラーンとなって、これで死んじゃうわけだよ。

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 ところが「当時は荷車がゆっくり行ったらロープで首を絞められる」という、いわゆる “窒息死” の状態になるわけだよね。

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 単なる窒息死だから、死体の取り合いで周りの人が騒いでいる途中で蘇生しちゃうことも、時々あったわけだよな。

 というわけで、当時の最悪の死に方というのが何かというと、「死刑執行されて、そのまま解剖業者の手に渡り、解剖台の上で自分の腹を開かれた状態で、蘇生してしまう」という…

 …こういうことが時々あったそうなんだけど(笑)。

 で、「そのまま死んでしまう」というのが、最悪の死に方というふうに言われてたんだよね。

 なので、遺族としては、全力で死体を奪われまいとする。

・・・

 というわけで、お兄さんのウィリアム・ハンターは、解剖学教室を繁盛させるために、新鮮な死体の入手が必要だった。

 合法的な入手が難しければ、非合法しかない。

 いわゆる “墓荒らし” ってやつだよね。

 死んだ人間の墓を暴いて、そこから死体を盗むという方法しかない。


 当時のロンドンでは、この墓荒らしというのがメチャクチャ流行っていたんだけど、野心家のウィリアム・ハンターとしては、自分の手を汚したくないわけだよね。

 これから後、ロンドンの社交界でも医学界でも成り上がっていきたいわけなので、そういう非合法な死体の入手法がある事は知っていたんだけども、そんなことには手を染めたくなかった。

 そこで、目をつけたのが、田舎でブラブラしていて子供の頃から役立たずだったんだけど、お喋りだけは上手で、なぜか他人に好かれる弟のジョン・ハンターだった。


 弟のジョンは、教養はゼロでスコットランド訛り丸出しなんだけど、他人と話すのが好きで、わりと誰とでも仲良くなるし、いろんな人から好かれる性格をしてたんだ。

 お兄さんから呼び出された20歳のジョンは、「解剖用の死体欲しい」と言われて、その日の晩にはすぐに怪し気な酒場に直行した。

 で、そういった酒場をハシゴして行くうちに、墓掘りの盗賊たちと仲良くなって、死体を手配してもらえるようになったわけだ。

 だけど、次の週にはまた新しい死体が必要になる。

 なので、ジョンはすぐに、その墓荒らしのグループに自分も参加するようになり、そこでいくつもの “ルール” を学び始めた。

・・・

 墓荒らしには、4つのルールがあったんだ。

 1つ目は、昼間に死んで葬式をあげた人間の墓を夜中に掘り起こすことになるんだけど、「掘る墓は貧乏人の墓に限る」ということ。


 貧乏人の棺桶は安物なんだよ。

 薄っぺらい木でできた安物の棺に入ってるから、掘り起こした後で、金テコで簡単にベキベキ壊せて、死体をすぐに取り出せる。

 おまけに、貧乏人は墓掘り人夫に渡すチップも安いから、墓穴が浅いんだよ。

 深く埋めてもらえない。

 みんな、海外の映画の中で1メートル半くらい深さのある墓穴に棺が埋めていく映像を見るじゃん?

 あれは “お金持ちの葬式” であって、貧乏人は50センチくらいの、もう棺が入るギリギリの深さしか掘ってもらえないんだよね。

 なので、とにかく墓を掘るんだったら貧乏人に限る。


 金持ちの墓っていうのは、棺自体が鉛などの金属で出来ていたりする上に、それが2メートルくらいの深さに掘られている時もあれば、石造りの立派な墓所の中に入れられていることもあるから、まあ盗みにくいんだ。

 だから、「まずは貧乏人の墓を狙うこと」。

 これがルール1。


 ルール2は「死体は必ず丸裸にして盗むこと」です。

 指輪とかはもちろん、ハンカチ1枚でも、死体が身につけていたものを盗むと、その瞬間に “窃盗罪” が成立してしまうんだ。

 覚えてるかな?

 当時、窃盗罪は死刑なんだよね。

 だから、死体についているものをハンカチ1枚でも盗んだら、死刑なんだけど。

 でも、死体自体を盗むことは、何の刑罰にもならない。

 なぜかというと「死体の所有者は誰もいないから」なんだ。


 なので、あえて逮捕するのなら「風紀を乱した」とか、もしくは「大事に管理されている墓に無断で入った」とか、そういう罪状しかないんだよ。

 だからこそ、墓荒らしというのが産業になったわけだよね。

 なので、「とにかく絶対に、死体からはなに1つ盗んではいけない」。

 死体そのものは所有者がいないので、何の罪にもならない。

 これが、ルール2。


 ルール3は「墓を暴いた後は、必ず、盗んでいませんよというフリをして、棺を埋め直さなければならない」。

 ということは、イコール「古い墓というのは、誰かがすでに盗んだ可能性があるので、出来れば、葬式があったその日の晩に盗む」ということですね。

 死体が埋められてから1日2日経ってしまうと、もう他の墓荒らしが盗んでしまっている可能性がある。

 これがルール3なんだ。


 後々、「こういった墓荒らしが新聞記事に取り上げられて、スコットランドヤードというロンドンの警察が実際に調査してみた結果、ロンドン近郊の比較的新しいお墓の4分の3から3分の2までは、中味が空っぽだったということがわかった」という事件がありました。

 なので、「3日以上経った墓は、他の業者に暴かれている可能性があるので、出来るだけ新しい死体を狙う」。


 ルール4は「墓荒らしには縄張りがある」ということ。

 「この墓場の東半分は〇〇組。西半分は××組」というルールがある。

 他の窃盗団の縄張りの墓を荒らすと、チクられたりとか暴力沙汰になって、自分自身が死体になってしまう可能性があるので、必ず縄張りを守る。

 こんな4つのルールがあったんだ。


 ジョン・ハンターは、自らこの墓荒らしの世界の中に入って行き、4つのルールを守って積極的に墓荒らしに参加したので、あっという間に有名になって、ついには当時のロンドンで最大…

 …ということは、イコール「世界で最大」の墓荒らし集団を組織して、自分自身がそのボスになるに至ります(笑)。


 なんかね、望んでないことまでやっちゃうのがジョン・ハンターなんだよ。

 さっき話したように、淋病の感染経路を調べるのに、なにも自分のチンチンに塗らなくてもいいじゃん。

 それをやっちゃうのがジョン・ハンターなんだけど。

 そういうふうに、何事も徹底してやるんだよ。

 なので、世界最大の墓荒らし組織のリーダーになってしまったわけだよね。

・・・

 お兄さんのウィリアムは、次第に、弟のジョン・ハンターに、墓荒らしだけでなく、家に持って帰ってきた死体の切り分けを頼むようになります。

 さっきの妊婦の解剖図を見てもわかる通り、当時は、たとえば妊娠している女性の子宮を見たい場合、胴体から上と太ももから下は邪魔だから、まずその部分を切り分けて、足は足だけで、胴体は胴体で別の解剖の教室に使うという方法を取ってたんだ。

 この大きな切り分けを頼むところから、徐々に徐々に解剖そのものもジョンが教えるようになってきた。

 すると、この解剖そのものに関しても、ジョン・ハンターはお兄さん以上の才能を発揮した。


 たとえば、皮膚を切って、その下の筋肉を1つ1つ切り分ける。

 筋肉っていうのは人体に何百もあるじゃん?

 これを1つ1つ切り分けて、乾燥させて、ニスを塗って、保存用の標本にするんだけど。

 こういう作業がメチャクチャ上手い、と。


 他にも、血管の中に蝋とか染料を流し込んで、サンプルとしてわかりやすいようにしたり、これを絵描きにデッサンさせるように指示書を書いて、最終的にはアルコール入りの瓶の中に漬けて標本にするという作業も、メチャクチャ向いてたんだ。

 もともと、ある程度、手先が器用だったんだけど。

 ジョン・ハンターというのは、お兄さんが見てもビックリするくらい、かなりベテランの解剖医よりも、解剖を始めた当初から、とにかく圧倒的な技術を見せたんだって。

 ジョンはお兄さん以上の解剖の天才だったわけだよね。


 結果、お兄さんのウィリアムは、弟のジョンに、解剖から標本作り、ついには解剖学の講義そのものも任せてしまうんだ。

 というのも、お兄さんとしては死体を触ったりするような解剖医になりたいわけでもなければ、人間を切るような下品な外科になりたいわけでもなくて、医者としてのキャリアアップのためにやってるんだから。

 最終的には「患者を見て、薬を処方する」というだけの内科のお医者さんになりたかったわけだよね。

 自分でも解剖学教室をやってたんだけど、それはあくまで「儲けたいからやっていた」だけで、その儲けたお金を使って上流階級のサロンに参加して、なんとか内科医としてのキャリアを登り詰めたいと思ってた、と。

 なので、弟に全部任せてしまったんだ。


 ということで、最初に紹介した妊娠中の女性の解剖図解が出来たのは、ジョン・ハンターの天才的な解剖術があったから。

 しかし、ジョンは、そんな墓荒らしや解剖以上に、もっと天才だった…

 …という話があるんですけども。これはちょっと、次のテーマの中で話します。


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