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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『カリオストロの城』でやり残したことを詰め込んだ『死の翼アルバトロス』」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『カリオストロの城』でやり残したことを詰め込んだ『死の翼アルバトロス』」

2019-06-12 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/06/12
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    今回は、ニコ生ゼミ6月2日分(#284)から、ハイライトをお届けいたします。

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     『カリオストロの城』でやり残したことを詰め込んだ『死の翼アルバトロス』


     今、YouTubeでTVアニメシリーズ『ルパン三世Part2』の第145話「死の翼アルバトロス」が無料公開されています。

     今日は、ちょっとこれについて話してみようと思うんですけども。

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     「死の翼アルバトロス」というのは、1980年の7月に放映された宮崎駿監督・絵コンテの作品です。

     『カリオストロの城』が公開されたのが79年の12月ですから、この「死の翼アルバトロス」というのは、TVシリーズでありながら『カリオストロの城』をやった半年後に作られた宮崎駿のルパン作品ということになります。


     この『カリオストロの城』というのは、もう何回も話している通り「東宝が始まって以来の赤字になった劇場アニメ」です。今でこそ名作とか、面白いアニメと言われてるんですけど、当時は本当に記録的に劇場に人が入らなくて、大赤字だったんです。

     「このおかげでアニメ界から干された」というふうに、宮崎駿本人も言ってます。

     そんな、仕事がなくなることになった作品なんですね。


     しかし、そんな大赤字の『カリオストロの城』を作ったスタジオと、当時『ルパン三世』のテレビアニメをやっていたプロデューサー達との間には契約があったので、このスタジオに仕事を回さなきゃいけないということになった。

     そこで、宮崎駿のところにも「2本やらないか?」という声が掛かった。

     というか、まあ、スタジオも仕事に困ってたので、2本だけ仕事を受けることになったんですね。


     その時に、宮崎駿が大揉めに揉めながら作ったのが、この「死の翼アルバトロス」と最終回の「さらば愛しきルパンよ」なんです。

     ありがたいことに、今、YouTubeで、全編かなりいい状態の映像で無料配信されてますので、皆さんもぜひ見てください。

    ・・・

     これに関する裏話について、宮崎駿や大塚康生側からの「当時はこういう状態だった」という話は、今まででだいたい出尽くしているんですね。

     だけど、そうじゃない、ルパン三世側を作っていた現場スタッフ側からの文句というか、宮崎駿に対する恨み言というのが、いろんな本で見つかり始めているんです。

     なので、また今度、何かの時に話してみようと思います。


     今のうちに言っちゃうと。具体的にどういうことが起こっていたのかと言うと、アニメの制作現場は “製造ライン” というのを組んでるんですね。

     TVシリーズを作る時というのは、現場が混乱しないように「監督はこの人、脚本チームはここ」と決まっているんです。

     なので、もしやりたいアイデアがあったら「演出や監督の人は、まず、脚本チームに発注して、脚本チームから上がってきたものが違うと思ったらリテイクを出して~」というように、社内で対話しながら作るシステムでやらないといけなかったんです。

     ところが、宮崎駿は決まっていた脚本家チームに発注せずに、まず、自分でやり始めちゃうんですね。

     で、後に脚本家チームに発注したら、出されたものにあれこれ文句を言う。

     脚本家たちが「書き直しなのかな?」と思ってリテイクの準備をしていると、いつの間にか、宮崎駿が勝手に別の人に脚本を発注したりする、と。

     「それでは会社の仕事にならない!」と言っても、なんかもう、ズルズルそれを現場で続けられてしまったというような。

     これ、アニメ界にはよくある話なんですけど。

     こちら側からはあんまり語られないんですね。


     この「作品の品質を上げるために、いいものを作るために、システムを破って会社のみんなに迷惑をかけるのは良くない」というのは、実は宮崎駿が手塚治虫を批判する時に使った言い方なんですね。

     「アニメ業界全体で労働運動みたいなことをして、みんなの待遇を上げなきゃいけないのに、自分が『鉄腕アトム』をテレビでやりたいからといって、そんなルール違反をやりやがって!」というのが、かつての宮崎駿が言っていた、手塚治虫に対する文句なんですけど。

     『ルパン三世』の時には、宮崎駿本人が、それを本当にやっちゃってるという。


     ここら辺、いろんな記事を見たり、ブログとかを読んだりすると「宮崎駿はやはり老害だ!」って書いている人がいるんですけど、とんでもない!

     この時の宮崎駿は若手ですから!

     宮崎駿は “老害” ではなくて、“昔から迷惑なヤツ” なんですよ!

     昔から「頑固で迷惑なヤツで、おまけになのに才能がある」という、困ったヤツだったわけなんですね(笑)。


     ちなみに、アルバトロスを作った時に、宮崎駿がどうやって他の回の3倍以上の作画枚数を使って好きなように作ったのかというと、「トップと直に交渉する」ということをしたんですよね。

     宮崎駿は、トップの偉いさんと直に交渉して、どんどん自分に有利な条件とか手に入れたんです。

     この交渉術は、実は庵野秀明にも引き継がれていて。

     庵野秀明も、やりたいことをやる時は、直にトップと交渉するというようなことをやるので、間に挟まれる樋口真嗣が苦しむことになるんですけど(笑)。

     そこら辺も、本を読んでて、ちょっと面白かったですね。

    ・・・

     さて、「死の翼アルバトロス」の見どころなんですけども。

     基本的には「『カリオストロ』でやり残したことを全部やる」というのが、アルバトロスの目標なんですよ。

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     これ、小さいんですけど、アルバトロスの模型です。

     アルバトロスの模型って、良いのがなかなか出てないので、これを使わざるをえないんですけども。

     こういった “アルバトロス” という巨大な飛行艇が出てくる話で、『カリオストロ』でやり残したことを全部やる。


     たとえば、この巨大飛行艇アルバトロスと、ルパン達が乗っている小さい飛行機との空中戦。

     その小さい飛行機がアルバトロスの胴体にドーンっと突き刺さって、ルパンたちが中を走る。

     これらは、実は、『未来少年コナン』の “巨人機ギガント” と “小型機ファルコ” で、そっくり同じことをやってるんですけども。

     それらは全部、『ルパン三世カリオストロの城』の中でやりたかったことなんですね。


     この「本当は、どういうことがやりたかったのか?」というのは、2018年3月18日のゼミの後半で語っています。

     「『カリオストロの城』のクライマックスでは、本当は、こういう巨人機が出てきて、ルパン達が乗っているオートジャイロと空中戦やるはずだった」という話なんですけど。

     それは既に、2018年3月18日のゼミの後半で語っているので、そっちの方を見てください。


     『カリオストロの城』でやりたかったことの1つ目が、それですね。

    ・・・

     『カリオストロ』でやり残したことの2つ目は、「正義の味方としてのルパンを語りたい」ということです。

     実は、宮崎駿は『ルパン三世Part2』という企画に大反対だったんですね。


     前シリーズであるPart1の前半では、予め準備されていたのは「金持ちでオシャレな泥棒が、次々と華麗な犯罪を行う」というような設定だったんですけども、視聴率は振るわず。

     その結果、シリーズの後半から宮崎駿・高畑勲コンビが入ることになりました。


     TVシリーズ『ルパン三世 Part1』の後半では、主人公のルパン三世は、なんかちょっと貧乏くさくなって、車もベンツからフィアットの小型車になったんです。

     なぜかと言うと、この時期のルパンというのは、もう贅沢をやり尽くしているので、金をバブルに使うことに飽きていて、「むしろ、こじんまりとした生活でやっていこう」というふうになってきたから。

     宮崎駿はこの路線変更をすごく気に入ってたんですね。


     ところが、この第1シーズンの『ルパン』は視聴率が悪かったため…

     …まあ、それが原因で高畑宮崎のところに演出が移ったんですけども。

     それでも視聴率は上がらずに、打ち切られてしまいました。


     その数年後の1972年、『ルパン三世 Part2』が始まったんですけど。

     この時にも、宮崎駿は、Part1後半のルパンに対する思い入れが強かったんです。


     どんな思い入れかというと、「もうルパンは泥棒とかをしなくていいんじゃないか?」と。

     そういう「悪いことするヤツがカッコいい」という時代は、もう古い。

     そうじゃなくて、もっと社会の悪者達、戦争とか組織犯罪とかに対して盗みを働くようなルパンでありたいと、正義の味方としてのルパンを描きたかったんです。

     この辺が、この「死の翼アルバトロス」の中では、原爆を憎むルパンとして出てくるんですね。

    ・・・

     まあ、そんな正義の味方としてのルパンというのが、この「アルバトロス」の中でも主軸になっています。

     たとえば、ルパンのセリフに、「原爆っていうのは、小さく作るのが難しいんだぜ」というのがあります。

     これ、どういう意味かというと。


     これは「アルバトロス」の中に出てくる悪役 “ロンバッハ教授” が、自分の原子爆弾を取り出すシーンなんですけど。

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     これは、細長い筒型の原子爆弾です。

     プルトニウムではなくてウランを使った、いわゆる “広島型原爆” なんですね。


     原爆というのは、確かに小さく作るのが難しいんです。

     本来だったら、原子爆弾というのは、ウラン235なら46キロくらい、プルトニウム239なら10キロくらい集めると、自然に爆発させることが出来るんです。

     だけど、そんなに沢山、核物質を集めるのは大変だし、爆弾としても使えない。

     なので、“タンパー” といわれる反射材で、核物質全体を覆って、中で反射させるんです。

     これによって、ウランだったら15キロ、プルトニウムだったら5キロくらいで原子爆弾を作ることが出来るんですね。

     広島型の原子爆弾でのウランの反応質量は、800グラム程度じゃなかったかと言われています。

     ロンバッハ教授の核爆弾というのは、この形状から、明らかにウランを使ったガンタイプです。

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     ここに、その図解を載せています。

     ガンタイプというのは「半球系にしたウランの塊を2つ、タンパーの両端に置いて、片一方に爆薬を置き、これを爆発させることによって、強制的にガーンと2つをくっつける」という仕組みでできています。

     この2つのウランの塊がすごい速さでくっついたからといって、臨界量にはまるで達しないんですけども。

     その瞬間に、2つのウランの中央にある “イニシエーター” という装置が中性子を発生させることによって、臨界反応を起こさせるというふうになっています。

     ルパンが「これはよく出来てるぜ、点火プラグだ」と言っているのは、おそらく、この中性子イニシエーターと爆薬との時差を作るためのプラグのことだと思います。


     このイニシエーターというのは、爆薬を爆発させ、ウラニウムが1つになった瞬間に中性子が出なきゃダメなんですよ。

     そして、爆薬が爆発してから、ウランの半分の塊がもう片方にぶつかるまでには、数万分の1秒のズレがあるはずなんですね。

     つまり、「火薬に点火してから、数万分の1秒後に中性子を発生させる」というのが、点火プラグの役割になるんですね。

     まあまあ、ルパンが感心するほどの仕掛けなのだから、わりと複雑なものなんだと思います。


     これが、宮崎駿がやろうとした「正義の味方としての、原爆を許さないルパン」ですね。

    ・・・

     アルバトロスでやろうとしたことの3つ目は「ルパンは貧乏であるべき」という美学です。

     金にうんざりしたルパンというのをやりたい、と。


     第1シリーズでも、まあ、初期の段階ではベンツSSKに乗ってるんですけども、後期に入ると、小型車のフィアットに乗り換えることになります。

     『カリオストロの城』でルパン達がフィアットに乗っていたのは、そういったこだわりからですね。


     さて、「死の翼アルバトロス」冒頭でのルパン達というのは、その中間期なんですね。

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     ベンツSSKの後ろにですね、貧乏くさいキャンピングカーを引っ張ってるんですよ。

     もう、宮崎駿の中では “ルパン年表” が出来ているんですね。

     だから、このシーンでも「この時期は、ベンツSSK。この時期はフィアット。ということは、時系列的にその間のエピソードであるアルバトロスは、その中間期だから、ベンツSSKで貧乏なキャンピングカーを引っ張ってて、そのドアの中には、ルパンがランニングシャツとステテコ姿で座っていて、その上にパンツが干してあるんだ」という指定をしているわけです。

     この描き方が、ちょうど「貧乏を楽しみだしている頃のルパン」なんですよね。


     なので、年代はこれでわかる通り「『カリオストロの城』の数年前、まだルパンと不二子が付き合っている時代」なんですよ。

     『カリオストロ』の頃になると、もう不二子とは “腐れ縁” のようになっていて、「昔は付き合っていたけど、もう別れた」という設定が、宮崎駿の中ではハッキリ出来ているんですよね。


     宮崎駿の脳内には、ルパンの年表があって。

     泥棒として贅沢をしてて、華麗に活躍してたのは、『ルパン三世』が漫画連載されていた1967年から69年。

     その5年後の1972年を描いたテレビシリーズPart1の後半というのは、贅沢に飽きてフィアットに乗っている。

     アルバトロスというのは、その時代辺りが舞台です。

     これが、第2シーズンの最終回「さらば愛しきルパンよ」の時には、字幕ではっきりと「1981年」と出てくるんですね。

     つまり、「ルパンが人前に姿を見せなくなって10年。死亡説さえ出ていたルパンが、ついに帰ってくる!」という話が、「さらば愛しきルパンよ」なんですよ。


     これ、公式設定でもなんでもないんですよ。

     単に宮崎駿の脳内だけの設定なんですけど。

     それを、セリフとか演出で、「『ルパン三世 Part2』に出てきたルパンは全部ニセ者で、最終回に出てきたルパンだけが本物です!」というふうにやっちゃったもんだから、もう現場のスタッフからは、もちろん大顰蹙でした。

     それに対して、宮崎駿は「これはやらなきゃいけないんだ!」と言ってたんですけど。

     後になって、流石の宮崎も反省して「あんなことまでは言うべきではなかった。第2シーズン全てを否定したのは、やり過ぎだった」と言ってるんですよね。

    ・・・

     ということで、『ルパン三世 Part2』の「死の翼アルバトロス」でやりたかった、『カリオストロの城』でやり残した3つのことというは。


     1.「空中戦」

     2.「正義の味方としてのルパン」
     
     3.「貧乏でまだ不二子が好きだった頃のルパン」

     この3つが、『カリオストロの城』でやり残したことだそうです。


     その他にも、「アルバトロスの翼の中に原爆製造プラントがある」というのとか、「アルバトロスの頭の部分に乗り込み口がある」とか、あと「初登場のシーンは、閉じていたシャッターがグワーンと左右に開いて出てくる」というのは、全部『風立ちぬ』で、同じようなシーンとしてリメイクされていますから、そこら辺も楽しみどころだと思います。

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     あとは、アルバトロスに乗り込む時にルパンたちが乗る小型機。

     着陸脚に “スパッツ” と言われる風防がついていて、ガルウィングで、エンジンのカウリングがちょっとデカい機体なんですけど。

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     これが何かというと、形としては、フィアットという会社の飛行機に似ているんですけども。

     もちろん、これは『風立ちぬ』で二郎が最初に作って「みにくいアヒル」と言われた “七試単座戦闘機” という機体に形を合わせてるわけですね。

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     ここら辺の、後に『風立ちぬ』に出てくるメカとか、演出というのも、「死の翼アルバトロス」の楽しみ方だと思います。


     ちなみに、この中に出てくる “ロンバッハ航空博物館” というのは、イタリアの北部トレントに実在する “カプローニ航空博物館” がモデルになっています。

     カプローニ航空博物館もその空港と博物館がくっついたちょっとちっちゃい博物館なんですけど。

     そこら辺も楽しめたらいいのではないかと思います。

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