岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/08/23
今日は、2019/08/04配信の岡田斗司夫ゼミ「『なつぞら』特集と、『天気の子』『トイストーリー4』ネタバレ解説、ちょっと怖い“禁断の科学”の話」からハイライトをお届けします。
あと、これは、『太陽の王子 ホルスの大冒険 絵コンテ集』のあとがきの方に書いてあることなんですけど。
(本を見せる)
この中で「『ホルス』という作品の何が画期的だったか?」ということを話しています。
……あの、たぶんね、これから生涯にわたって、ニコ生岡田斗司夫ゼミで、まるまる1回『ホルスの大冒険』の特集をやることはないと思うので、もう、今のうちに話しておきますけど。
何が画期的だったのかというと、「絵コンテを描いたことだ」というふうに、大塚さんは言ってるんですね。
僕らにしてみれば、アニメを作る前に絵コンテを描くなんて、当たり前だと思うんですけども。実は、アニメの歴史の中で、高畑勲が世界で初めて長編の劇場アニメ1本の絵コンテを描いたそうです。これは、それまでのやり方と違ってたんですね。
それまでのやり方は何かというと、ウォルト・ディズニーであろうとどこであろうと、まず脚本があって、その次に、特に見せ場のシーンだけストーリーボードというのが描かれるんです。
まあ、ストーリーボードの役割というのは、絵コンテとほぼ同じなんですけど。じゃあ、脚本があって、見せ場だけのストーリーボードがあるとどうなるのかというと、「アニメーターは自分が担当している部分のストーリーボードだけを見る」ことになるわけですね。その他の部分は、全部、自分の自由な解釈でやればいいわけです。
そんな中で、演出家というのも、脚本というものをキッチリ守らせればいいだけなわけで、実は、演出家と言っても、あまり監督的な仕事はしていない。だから、アニメーションの世界では「監督」と言わずに「演出」と言うんですね。
それに対して、高畑勲というのは、1本の長編映画の絵コンテを、頭からお尻まで初めて書いた。まあ、実際に作画したのは、表紙にも書いてある通り、大塚康生で、他人に描かせたんですけど。それでも、全部自分のイメージで描かせたんですね。
これは、まさに世界のアニメーションの歴史の中での革命だったんですよ。今では、あまりにも当たり前になり過ぎたから、誰もこれを高畑勲の功績として考えていないんですけど。
この、全てのシーンを自分のイメージ通りの絵コンテにするという高畑勲の作り方は、アニメーターに対して「なぜ、そのカットが必要なのか?」「なぜ、そのカットが前のカットと繋がっているのか?」「このカットでは何を表現しなければいけないのか?」ということを、メチャクチャ考えさせることになったんです。
それまではアニメーターというのは、言っちゃ悪いですけど、極端な話、大喜利だったんですよ。「脚本というお題があって、その中で面白い動きをさせたり、かわいい動きをさせたりする」という。
当時は「串団子形式」って言ってたそうなんですけど。自分の出番になったら、自分の団子をできるだけ面白く作る。次のカットになったら、別のアニメーターが面白いのを作る。こういう面白い団子が串で繋がっているような状態で、アニメーションというのを作っていたわけですね。『わんぱく王子の大蛇退治』も、全部そうやって作ったそうなんですけど。
しかし、『ホルス』では、そういうアニメーター達に勝手に大喜利のように面白く作らせるようなことはさせなかったんです。そうではなく、アニメーター1人1人に徹底的に考えさせて、「このシーンというのは、これが必要だから、こうしなきゃいけない」ということをさせたんです。
そんな、1カット1カット、全部、高畑勲と論争して作っていかなきゃいけないような、とんでもない作り方をしたわけですね。
そのおかげで、以後、アニメーターというのは、ものすごく物を考えるようになった。とにかく、この『ホルス』の前と後では、アニメの作り方が全部変わってしまった。
アニメーター達は、これのおかげで「俺達がやっていることは、こんなことだったのか」というふうに、初めて作品のテーマを理解するようになり、ストーリーを理解するようになり、キャラクターを理解するようになった。
「なのに、これ1作で長編アニメが終わってしまった。俺達の悔しさよ……」というのが書いてあって。
「それはすごいツラいよな」って。だって、天国を見た瞬間に、その天国が失われていく様を見なきゃいけないわけですから。そりゃあツラいですよね。
さっきも言った通り、これは労働組合が作った映画なんですよね。
つまり、労働組合運動によって「みんなが考えて会社の方向を決める」という、自分達の生き方と「みんなが考えたような作品を作る」という、作品の作り方を完全にシンクロさせたアニメーションになったわけですよ。
僕が知っている限り、長いアニメーションの歴史の中で、自分達の生き様と自分達の作品の作り方、そして、その内容までもを全部一致させようとした、そんな気が狂ったアニメは、この世の中に2つしかないんですね。
1つ目が、この『太陽の王子 ホルスの大冒険』です。
そして、2つ目がですね、『オネアミスの翼 王立宇宙軍』です。
歴史上、この2つしかなくて。そして、この2つとも、記録的な不入りというですね……アハハ(笑)。
やっぱり、そうなんですよ。これね、すごく面白くて、一生忘れられなくて、「この映画の作り方しかない!」と思うんですけど。ほぼ100%ヒットしないんですよね。
たぶん、「作っている人間の思いが熱すぎて届かない」というのもあるかとおもうんですけど。
で、どっちにも言えるのが「後の世になってから評価される」んですよね。
だけど、後に評価されたとしても、もうね、監督は全盛期を過ぎてるから(笑)。
だから、『ホルス』が終わった後あたりの、高畑勲。この幻の10年の間に、高畑勲にチャンスを与えていたら、どんなすごい作品が出来たかもわからないし。『オネアミス』の監督の山賀博之にしたって、あの後に、長編映画を2本くらい作らせたら、どこまで行ったかわからなかったんですけども。
まあ、それは言ってもしょうがないことですね。
はい、「両方ともヒットしなかった」という、悲しい事実であります。
このコンテ集の中に書いてあるんですけど、高畑勲のすごさは、演出だけではないんですよね。
例えば、『なつぞら』の中で、たしか『ヘンゼルとグレーテル』の時だったと思うんですけど、「涙を流すシーンで、瞳のハイライトだけを動かすと泣いているように見える」という話がありました。
あれって、実は高畑勲が思いついたことなんですよ。ドラマの中では、なつが思いついたようなことになっているんですけど、これはアニメーターの発想ではないんですね。
高畑勲が「目がウルウルするということを表現したい時には、目の中のハイライトだけを動かせばいいんだ」ということを思いついて、実験してやらせたんです。
高畑勲のすごいところというのは、リミテッドアニメという制限の中での演技法まで次々と発明して、アニメーターに提案して「それはダメだよ」と言われながらも、「実際にやってみたらできた!」と感づかせることなんです。
絵を描かないくせに、そこまでしてたというのが、高畑勲のすごいところなんですけど。
もう1つ、高畑が作り上げたアニメーションならではの演技法というのを、ドラマの1シーンを例に取って説明したいと思います。
『なつぞら』の中で、イッキュウさんは主人公のなつにプロポーズしたんですけど、映画がダメだったので、「もう結婚はできません。あなたのことは諦めます」と言い出すんですね。
その結果、なつから「そんなことを言うヤツは、私も好きじゃありません。顔も見たくない!」と言われて、フラれるわけなんですけど。次の日、もう一度、なつに謝りに行って、プロポーズするんです。
そのプロポーズのシーンです。
(パネルを見せる)
なつは、最初、イッキュウさんが言う謝りの言葉を全然聞こうとしないんですね。思い切り怒ってるんですけど。しかし、イッキュウさんが真剣に話しかけると、段々と心を開いていく。
このシーン、わかりやすくするために、上から1フレームずつ見て行きましょう。
一番最初、なつは相手を許していないんですね。だから、相手の方を真っ直ぐ見て、口を閉じてる。この口が閉じて、相手を真っ直ぐ見ていることによって、「あなたの言うことは聞いてあげますけど、私はあなたを許すつもりがありません」という、彼女の決意がわかります。
ところが、この2つ目のフレームでは、イッキュウさんの言っていることに、心が僅かに動かされたんです。なので、その瞬間、この口元だけが、ほんのちょっとだけ開くんですね。
さらに、イッキュウさんの言葉をずーっと聞いていると、心を動かされ、目線がほんの少し下にさがって、口が開いて歯が見えるんです。
この3つのフレームを見てください。ものすごく説得されて、一番最初は心を許してないので、口を食いしばってる。しかし、次に口だけが先に開く。最後に目線が下り、口がちょっと開いて歯が見えてしまう。これが「心を開く」という演技なんですね。
この「心を開く」という演技は、どこで出てきたのかというと、これなんですよ。
(パネルを見せる)
ヒルダのモンタージュ技法。さっきも話した「目は怒ってるんだけども、口だけは笑っている」という技法。これをやると、その人物の心が、打ち解けているように見えるんですね。
実際には、このヒルダは、後ろにいる雪狼に襲われていて、それどころの状況じゃないんですけど。
ヒルダというのは、それまで、他人に決して心を許さなかった少女なので、主人公のホルスと話している時も、子供と話している時も、村人と話している時も、自分が喋っていない時はずーと口を閉じていたんです。それはもう、『太陽の王子 ホルス』の1カット目からずーっと守ってるルールなんですよ。
ヒルダは口を中途半端に開けない。そうじゃなくて、口を真一文字に結んでいるから、目は笑っていても、ちょっと不思議な印象がある。
ところが、この小さい子供に自分のお守りをわたして見送るシーンでだけは、口を僅かに開けてる。なので、急に「心を許している、心を開いている」という印象になるんですね。
これが、高畑勲が作り上げた「演出による演技法」というんですかね? 本来だったら、悲しい顔というのを描かせたり、怒った顔というのを描かせるんですけど、そうじゃない。「目だけは怒って、口は悲しんでくれ」みたいな指定をすることで、完璧にキャラクターを作り上げ、結果、試写会場でそれを観た宮崎駿に「背筋が凍るくらいの衝撃を受けた」と言わしめたわけですね。
このアニメ内でのヒルダの演技と、本編内のなつの演技を、ちゃんとシンクロさせたNHKの『なつぞら』は、すごいなというふうに思いました。
これって、普通のドラマでやっちゃえば、わりとありきたりの演技なんですけど、これを見せる回で、アニメの方の演技も両方やるというところが、ちょっとすごいと思います。
さて、イッキュウさんのプロポーズは、この説得によって見事成功して、土曜日に放送されたエピソードのラストでは、ついに十勝の柴田農場に「娘さんをください」とご挨拶に向かうところまで進みました。
おそらく、ここでイッキュウさんは、泰樹じいちゃんから猛烈頑固な反対に遭うはずです。ますます『ハイジ』のアルムおんじの可能性が高くなってくるわけですね。
イッキュウさんは、これで東洋動画を退職するんですね。
実際の歴史では、高畑勲は宮崎駿を誘って新しいアニメスタジオに就職することになります。
しかし、大塚康生も、なつのモデルになった奥山玲子も、東洋動画を辞めないんですよね。それから先、どんどんテレビマンガの仕事が増えてきて「いやあ、なんかもう1回、長編アニメを作りたいんだけどな。長編でなくてもいいから、マンガ原作以外のものもやりたいな」と思うようになるんです。
もうね、この当時の東映動画は、どんどんマンガ原作モノに走って行くんですよね。
なので、ドラマ『なつぞら』でも、そんなふうに「オリジナルものがやりたいな」と思った結果、8月の後半あたりから『アルプスの少女ハイジ』をモデルにした作品を作ることになるんじゃないかと思います。
実際には、スイスにロケハンに行ったんですけど、みんなで十勝にロケハンに行って。それが『なつぞら』のオープニングアニメに繋がるわけですね。
前回は『スイスの少女サマー』と言ったんですけど、まあ、これで十勝が舞台となるのは確実で。
よくよく考えたら、オープニングのアニメーションって、リスとかキツネとかが出てくるから、あれはスイスじゃないんですよね。そういう動物が使われるんだったら、やっぱり「十勝の少女」、もしくは「北海道の少女」にするしかないと思うんですけど。
「そうやって繋がるに違いない」と、僕は思っています。
『なつぞら』のオープニングアニメは、実はなつが最後に作ることになるアニメーション、『十勝の少女サマー』のアニメで、最後はそこで繫がるのではないか?
……と、前回も言った通り、あくまでも岡田斗司夫の妄想を、お伝えしました。
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