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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『崖の上のポニョ』から、「宮崎駿という病」を読み解く」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『崖の上のポニョ』から、「宮崎駿という病」を読み解く」

2019-09-14 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/09/14

     今日は、2019/08/25配信の岡田斗司夫ゼミ「『崖の上のポニョ』を精神分析する〜宮崎駿という病」から無料記事全文をお届けします。


    本日のお題と新しいドリンクボトル、楽しかったギャラクシーエッジ

    nico_190825_00201.jpg
    【画像】スタジオから

     こんばんは、岡田斗司夫ゼミです。今日は8月25日ですね。
     始まる前に、コメントの方を見ていたら、「『アルキメデスの大戦』を見たか?」というのがありました。
     見ましたよ。戦艦大和の描写が良かったので、200分の1の大和の艦橋構造物というのかな? ブリッジとか、主砲とか、ああいう部分だけのプラモデルがあるんですけど、影響されてそれを買ってしまいました。
     あとは、一応、今週の楽しみにしているのは、タランティーノの新作の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』っていう映画なんですけど。
     なんで期待しているのかっていうと、もうそれを言うとネタバレになっちゃうんですよね。
     予告編とかを見てる限りは、そこの部分は伏せて宣伝しているみたいだし。知らずに見た人はなかなか幸せだと思います。
     あと、「またジブリの特集か」という声がちょっとあがってたんですけど。今日もまたジブリです。
     これはもう、ある種の気象被害みたいなもので、「オリンピックをやる時は日本中のテレビがオリンピック特集をやる」というのと同じように「ああ金曜ロードショーでジブリ映画をやるということは、岡田ゼミでも特集をやるんだろうな」と諦めていただければ、ありがたいと思います(笑)。

    ・・・

     今日は、主に『崖の上のポニョ』の話をするんですけども。今日からドリンクボトルが変わりまして、新しくこれになりました。
    (優勝トロフィーのような水筒を見せる)

    nico_190825_00148.jpg
    【画像】ドリンクボトル

     先週までロサンゼルスに行ってきたんですけど、これはディズニーランドの、映画『カーズ』の世界を再現したカーズランドで売っているドリンクボトルです。
     カーズランドの売店でダイエットコーラを頼んだんですけど、その時にコーラの値段と合わせて1000円くらい払うと、こういう特製のカップがついてくるんですね。
     以前はDINOCOっていう、『カーズ』の中に出てくるモーターオイルの容器の形をしたボトルを使ってたんですけど。これはピストンカップという、『カーズ』の世界での優勝トロフィーのデザインになってるんですね。
     デザインもなかなか忠実で。例えば、ここの部分がちゃんとカーブ描いてるんです。
    (カップの一部を指して)

    nico_190825_00218.jpg
    【画像】ドリンクボトル2

     これ、車のエンジンの中にあるピストン・シリンダーが、中でこういうふうに動くので、それを模して作られたピストンカップのトロフィーも、こういう曲線を描いているという、理に適った設計になっていて、わりと気に入ってるんですけども。

     あとは、もちろん、ギャラクシー・エッジにも行ってきました。いわゆるスターウォーズランドっていうやつですね。
     これが証拠写真です。
    (パネルを見せる。岡田の顔が大きく写り込んだ写真)

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    【画像】ギャラクシーエッジ

     あの、自分で撮ったから、どうしてもこんなふうになっちゃってるんですけども。俺の顔が、ガンと写ってるんですけども。一応、顔の後ろには、ミレニアム・ファルコンのコックピットと胴体が写ってます。この感じを見てください。
     出来は良いです。このファルコン、イギリスのエルストリースタジオだったかに組んだ実物大のセットを参考に、そのまま復元しているようなものなので、メチャクチャ出来が良いんです。
     やっぱり、デアゴスティーニのデカいファルコンとかを作っていた自分としては、今までにもファルコン号のことを、結構、隅々まで見てきたつもりだったんですけど。それでも「ああ、ここはこうなってたのか!」という驚きがありましたね。

     中にも入りました。中に入ると、こんなふうになっているわけですよ。
    (パネルを見せる)

    nico_190825_00359.jpg
    【画像】モンスターチェス

     これはモンスターチェスのテーブルですね。
     中も、通路とかハッチが、もうとにかく本当にすごい出来なんですね。
     ファルコンの通路って、周りにクッションがドーナツみたいに延々と続いてるんですけど。その中を歩けるようになっていて、本当に感動的だったんですね。
     詳しくは、9月のニコ生で、旅行記としてレポートしようと思います。
     僕、中に入るために並んだら、たまたま夕方に入ったんですけど、なんか30分待ちくらいでスーッと中に入れました。
     このロサンゼルスのディズニーランドでは、一時期の日本の「ハリー・ポッターランドの入場に2時間待ち」とか「トイ・ストーリーランドで3時間待ち」とか、あんな感じじゃなかったんですよ。
     「いや、それはひょっとしたら、最近の『スター・ウォーズ』は人気がないのかな?」と、ちょっと嫌な予感はするんですけど。
     ただ、もう、出来は良かったので、楽しかったです。

     今日は旅行のお土産のプレゼントもあります。その申込み方法は後半に告知しようと思います。
     今回は、お土産の数が多いので、いつものように「僕に直接メールを出してください」とかやっていると色々面倒臭いので、投稿フォームみたいなものを用意しました。そこに書き込めばいいだけという形にしてますので、皆さん、後半を楽しみにしていてください。

     じゃあ、「今週の『なつぞら』」から行きましょう。

    今後の『なつぞら』と「のんの出番は?」

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    【画像】スタジオから

     はい、『なつぞら』のお話です。
     もう、先週と先々週の2週間分溜まってるんですけども。

     先々週の月曜の放送回で、昭和42年、1967年になりました。
     主人公のなつは、西荻の新居に引っ越したんですけど。そんな中、『魔法少女アニー』というアニメの作画作業が始まりました。
     『魔法使いサリー』のそっくりのアニメです。オープニングの「サリー、サリー~♪」というところに、サリーちゃんがステッキを振って魔法をかけるシーンがあるんですけど、あれと全く同じ作画が出てきて、なかなか笑いました。
     そして「早くもこのステッキが商品化される」という話も出てきて、流石だなと思ったんですけど。

     そんな先々週の月曜日。なつ30歳。早くも、虫プロや東洋動画以外に、いくつものテレビマンガ専門スタジオが出来ていきます。
    (パネルを見せる)

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    【画像】バケモノくん ©NHK

     こういう『バケモノくん』というアニメ……これ、もちろん『怪物くん』がモデルになっているんですけど。こういうアニメが始まって、いよいよテレビマンガブームの時代に入っていきます。
     いろんなテレビ局、例えば「TBSだったら〇〇スタジオ」というふうに、具体的には忘れちゃったんですけど、テレビ局ごとに自分達の局で流すアニメを外注するためのアニメスタジオが作られ始めて、どんどんアニメが作られるようになりました。

    ・・・

     その中で、成仏していなくなったと思っていたマコさんが再登場して、「マコプロダクションというのを作ったのよ」と、名刺を持ってくるんですけども。
    (パネルを見せる)

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    【画像】名刺 ©NHK

     この名刺の端っこに書かれている住所、ちょっと薄くて読みにくいんですけど、「東京都 武蔵野市 吉祥寺」と書いてあるんですよ。「おっ、吉祥寺だ」と思ってよく見たら、「吉祥寺 西町」って続いているんですね。
     この「西町」というのは、なかなか良いチョイスで。現実の武蔵野市の吉祥寺には、南町、東町、北町はあるんですけど、西町はないんですよ。西に行くと、すぐに隣にある三鷹市に入っちゃいますので。
     なので、「武蔵野市 吉祥寺 西町」というのは、なかなか面白いチョイスだと思います。

     このマコさんのマコプロというのは、おそらく、西荻にスタジオがあった東京ムービーがモデルになっていると思います。東京ムービーは、後に『ルパン三世』を作る会社ですから。
     そんなマコプロが企画提出中の作品が、これなんですけど。
    (パネルを見せる)

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    【画像】三代目カポネ ©NHK

     なんか、園田健一のキャラクターみたいになってるんですけど、『三代目カポネ』というアニメで。まあ、もう、誰が見ても『ルパン三世』がモデルになっているってのがよくわかる作品ですね(笑)。
     この『三代目カポネ』の企画が通らずに、困っているところです。
     まあ、実際の『ルパン三世』がテレビ放映されるのは、1971年の秋だから、まだまだ先なんですけども。

     当時の東京ムービーは、『巨人の星』のアニメ放映でガッポガッポ儲けた時代なんですね。
     なので「大人向けのアニメです」っていくらプレゼンしても、「それよりは『巨人の星』みたいなスポーツ根性モノ、いわゆるスポ根と言われる、血の汗流せ、涙をふくな、みたいな感じで主人公が特訓して特訓して、みたいな企画を持って来てよ」となってしまう。
     そんな中で「俺の名はルパーン三世!」みたいな大人のアニメの企画を持って行っても、なかなか通りにくいので、マコさんは苦労しているようです。

    ・・・

     先週、先々週の『なつぞら』は、ハッキリ言って、僕的には、もう本当に面白くなくて。ところによっては2倍速で見てたんですけど(笑)。
     妊娠出産の話だったので。そんなドラマはどこの局でも作ってるし、これまでの朝ドラでも散々やっている。そんな当たり前のことをやってもしょうがないんですよ。
     今までの『なつぞら』が面白かったのは、なぜかと言うと。
     僕は、メジャーにヒットする作品というのは2通りしかないと思ってるんです。1つは「新しいことを当たり前の表現でやる」。または「当たり前のことを新しい表現でやる」。この2パターンしかないんですよ。
     新しいことを新しい表現でやっちゃダメなんですよ。それでは過激すぎる。当たり前のことを当たり前の表現でやっちゃダメなんですよ。それでは平凡すぎる。
     この『なつぞら』って、表現はひたすら平凡なんですね。もう、ドラマの作りはベタなんです。脚本家さんに、そんなに新しい表現をやれるような力もないし、そもそも朝のドラマというのはそんなもんなんですけど。
     ところが「アニメ業界の黎明期を描く」という中味の部分は新しかったんです。つまり、これまでの『なつぞら』は「新しいことを平凡に描いてた」んですよ。
     でも、そんな中で「妊娠と出産」とか「母親として育児と仕事とのぶつかりあいが~」みたいに、当たり前の内容を、これまでの『なつぞら』と同じ当たり前の表現でやってたら、それはもう、つまらないんですよ。
     そして、つまらなくなると、どうしても役者さんの演技頼みになっちゃうんですね。
     テレビドラマというのは、役者の演技に頼り始めたら、もう終わりなんですよ。
     演技がなくても面白いシナリオを組めるからこそ、テレビドラマというのが成立するのであって。役者さん自身がそれまで培ってきたキャラクターとか演技とかに頼り始めると、ドラマというのは急に面白くなくなっちゃうんです。

    ・・・

     でも、来週の予告くらいから、またちょっと楽しみになってきて。来週の予告、つまり、明日からのやつなんですけども。

     なつの娘のゆうという女の子が生まれて1年後、時代は1970年。
     本当は、その前の年にアポロの月着陸があって、『なつぞら』の世界では、今、ちょうど大阪万博のはずなので、もっと日本中が浮かれているはずなんですけど。まあ、そういう描写は今のところありません。
     なつは33歳になっています。そんな中、予告編で衝撃のアニメが出てきます。それが、これなんですけど。
    (パネルを見せる)

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    【画像】予告アニメ絵 ©NHK

     なんか、ボクシングものみたいなんですけど、あまりに絵が下手くそで、よくわからないんですけど。まあ、たぶん『あしたのジョー』だと思うんですね。
     ただ、『あしたのジョー』は虫プロで作られるはずだから、なつが関わる作品ではないし、マコさんがやる作品でもないんですよね。
     たぶん、虫プロかどっか他のスタジオが、『あしたのジョー』か、『タイガーマスク』か、『キックの鬼』か、どれかをやって「それによってスポ根ブームがやってきた」という流れになるんですよ。
     これまで、子供達のテレビマンガを作っていたところから、一気にアニメ業界全体が「これからはスポーツ根性モノだ!」というふうに、大きく流れてきて。
     そこでまた「新しい仕事が発生してくる」とか、もしくは「自分達が本来やりたかった企画が通らない」とか「『三代目カポネ』が通らない」とか、そういう話になるんじゃないかと思います。
     「『巨人の星』が大ヒットした」というのは、さっきも言った通りなんですけど。この『巨人の星』というのは、1968年に始まったんですよね。
     つまり、ちょうどなつが妊娠・出産のために現場をリタイアし、イッキュウさん(夫の坂場一久)も新しい現場に入ろうとしていた頃ですから、彼らには『巨人の星』の大ヒットというのが、あまり身近にわからなかった時代なんじゃないかと思います。

    ・・・

     さらに、予告編には、こんなシーンが写ってたんですよね。
    (パネルを見せる)

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    【画像】なつの娘ゆう ©NHK

     この女の子は、なつの娘のゆうが成長した姿だと思うんですけど。今週は、まだ赤ちゃんだったんですけど、予告編ではこうなってましたから、3歳か、下手したら5歳くらいになっているんですね。
     赤ちゃんだった娘が5歳になっているということは、『なつぞら』の舞台は、来週には1975年まで進むんじゃないかと思っているんですよ。

     ただ、75年から先の時代には行かないと思うんですね。
     『なつぞら』って、あと5週間あるんですけど。この5週間で描くのは、この1975年までの3年間。ここら辺を集中的に描くんじゃないかなと思います。
     なぜかというと、75年から先になってくると、代表的なアニメ作品が、例えば78年の『未来少年コナン』とか、79年の『ルパン三世 カリオストロの城』や、『機動戦士ガンダム』になっちゃうんですね。
     この辺りの時代になると、なつの年齢も40歳を超えてくるし、娘のゆうも9歳とか10歳くらいになっちゃうんですよ。そうなると、大きくなりすぎて、母娘の関係を描くのが難しくなってくる。
     なにより、『コナン』にしても『カリ城』にしても『ガンダム』にしても、もうビッグタイトルになり過ぎて、なつを主役に出来ないというか、そろそろ問題が起きてくるというか(笑)。

     最終回の9月28日まで、あと5週間。
     つまり、あと、たったの5週間で、夫である坂場さん、つまり高畑勲の大成功と、『なつぞら』というタイトルにちゃんと繋げるための伏線回収まで一気にやって、おまけに、生き別れの妹・千遥との再会という大団円まで持って行かなきゃいけないんですよね。
     なので、僕、すごく期待しているんですけど。

     この1975年までの、30代のなつが関わることになるだろうアニメ界の出来事は何かと言うと。
     例えば、1971年に東京ムービーが作ることになる『ルパン三世』。劇中では『三代目カポネ』ですか。これが、まあ、たぶん動くんだろうと思います。
     あとは、もうその次の年の1972年には『マジンガーZ』が始まります。この時、なつは35歳です。
     さらに、1974年、オフィス・アカデミーの『宇宙戦艦ヤマト』。なつは37歳です。
     そして、『アルプスの少女ハイジ』。ここら辺が、最後のクライマックスになってくると思います。

    ・・・

     さて、今日の僕の『なつぞら』大予想です。いわゆる「千遥はデヴィ夫人として帰ってくる」みたいな大予想なんですけども。
     僕、「のんが出演するんじゃないか?」って思ってるんですよ。能年玲奈ですね。

     たぶん、のんの出番は……これ、もう完全に僕の妄想なんですけど。9月4日辺りなんですよ。
     で、役柄としては、悪役じゃないかと思うんですよね。
     なんで、のんが出るのかと言うと、『なつぞら』のキャスティングには、どうも「これまでの朝ドラのヒロインを全員出す」というコンセプトがあるみたいで、ずーっとその流れで来ているんですね。
     なので「これはもう『あまちゃん』もやるだろう」と思ってるんですけど。

     ということで、「のんの出番はここだ!」大予想です。
    (パネルを見せる)

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    【画像】のんの出番

     僕の予想では、役柄は女プロデューサー。
     見た目は、ちょいワルでサングラスをかけています。
     そして、決めゼリフは「テーマは愛です」になる。

     何をやるのかというと、もちろん、こういうのです。『宇宙軍艦ムサシ』(予想タイトル)をやるのではないのかと。
    (パネルを見せる。青島文化教材社のプラモデル「合体レッドホークヤマト」のパッケージ)

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    【画像】レッドホークヤマト

     『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーの西崎義展さん、元・虫プロ商事の社長代理でした。
     この西崎さんをモデルにして、「マコさんの元同僚で、マコプロの企画の邪魔をする」という悪役として登場するのがふさわしいな、と。
     来週の『なつぞら』では、9月4日か5日、水曜か木曜辺りで、のんが「『ムサシ』のテーマは愛です」って言うに違いないと思います(笑)。

     以上、今週の、岡田斗司夫が語る本物より面白過ぎる『なつぞら』のコーナーでした。
     どうもありがとうございました。
    (パチモンプラモのパネルを指して)

     いいよね、これ。このプラモ、欲しいんだけどね。なかなか売ってないんですよ。

    『崖の上のポニョ』解説「グランマンマーレ変身の意味」

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    【画像】スタジオから

     じゃあ、『ポニョ』の話に行きます。

     『崖の上のポニョ』という作品は、宮崎駿の女性観を真正面から描いた、かなりの問題作だと僕は思っているんですよ。
     その中には、ちょっと怖い描写もあるんですけど。
     このところ、岡田斗司夫ゼミでは、毎週、都市伝説とか、ちょっと怖い話をやっているので、折角だから今日も「ちょっとエロくてかなり怖い『崖の上のポニョ』」という話をしようと思います。

    ・・・

     ポニョの母親グランマンマーレというのは、海の中にいる女神みたいな存在であり、フジモトの妻でもあります。
    (パネルを見せる)

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    【画像】グランマンマーレとフジモト ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     これが、人間の男フジモトというキャラなんですけど。この船の舳先にちっちゃくいるのがフジモトですね。それに対して、グランマンマーレというのは、すごくデカいんですよ。
     まあ、おおらかで優しくて、何事にも動じず、母性の塊のような存在です。
     フジモトもグランマンマーレにゾッコンで「あの人に会えると思うと、もうドキドキが止まらない!」とか言います。……まあ、その結果、ちょっとドアの建て付けが悪かったということもあって、大災害になるんですけども。
     そんなグランマンマーレの初登場シーンというのは、宗介の父親の乗る船小金井丸の下を通るシーンです。
     ところで、僕、この映画を3回くらい見たんですけど、『ポニョ』のキャラクターの中で唯一名前が覚えられないのが宗介のお父さんなんですよね。
     宗介のお母さんの名前がリサであることは覚えているんですけど、宗介のお父さんは長嶋一茂という声優の名前で覚えてて(笑)。
     なぜかというと、この一茂が、もう、一茂っぽさが抜群で良いんですよ。本当に「家にロクに帰って来なくて、頼りない」というお父さんのキャラクターが、一茂っていう感じなんですよ。
     なので、すみませんけど、このゼミの中では宗介のお父さんのことは一貫して一茂と呼びますが、気にしないでください。

     グランマンマーレの初登場シーンは、宗介の父親・一茂の船、小金井丸の下を通るシーンなんですけど。とんでもなく巨大なんです。
     一番最初、一茂が「あっ! あれを見ろ!」と言うと、海の彼方から光る波がやって来るのが見えるんです。
    (パネルを見せる)

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    【画像】海の光 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     まず、海の中に光る波が現れるんですけども。その光る波の中に、よく見ると赤い宝石みたいなものが見える。これが特徴なんですよ。
     その光る波が小金井丸の下を通り過ぎる時にわかるんですけど、実は、赤い宝石のように見えたのは、ネックレスなんですね。
     つまり、その上に顔があって、ここが首で、ここが胸元。胸元が凄い開いた服を着ていて、いわゆる女の人の身体でいうデコルテという、ドレスとかを着ている時に見える胸元の肌の部分。この胸元のところまで、緩いネックレスがあるんです。
     この「赤い宝石の部分が盛り上がってる」というのはどういうことかと言うと、グランマンマーレって海の中をほとんど上を向いて海面スレスレを背泳ぎみたいな感じで泳いでいるんですけど、「おっぱいがデカすぎて、そこだけ巨大な波のように盛り上がっている」ということなんですね。
     つまり、「波を蹴立てて巨乳がやって来た!」という……まあまあ、宮崎駿はなかなかに描きたいものを描いてるわけですよね(笑)。
     僕、このシーンを一番最初に見た時から、なんか変だなと思ってて。実際に画面を止めて調べてみたら、胸元のネックレスだけ見えたんですよ。「ということは、やっぱり、あれはおっぱいの位置じゃん! すごいな!」と。

    ・・・

     ただ、なんか僕、このグランマンマーレという人が、ちょっと怖いんですよ。
     というのも、まあ、このカットの1分後くらいなんですけど、フジモトという人間の前に、彼の妻であるグランマンマーレが、バーッと巨大な頭を出すシーンがあるんです。
     ところが、フジモトと手を繋いで話すシーンになると、フジモトと同じサイズにいきなり変身するんですね。
    (パネルを見せる)

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    【画像】巨大サイズグランマンマーレ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     これ、どういうことかと言うと、一番最初は、フジモトからの報告を聞いているだけなんですね。
     この2人の関係は、奥さんの方が旦那を尻に敷いているタイプで。旦那が「こんなことになってしまったんだ、妻よ」と言うと、「ふんふん。まあ、それは良いことなんじゃないの?」というふうに、奥さんが報告を聞く。この時は報告を聞くだけだから、巨大サイズのままなんですよ。

    nico_190825_02157.jpg
    【画像】人間サイズグランマンマーレ

     しかし、「ポニョが人間になりたいと言い出してる」とフジモトから聞いた時には、聞くだけでなく、フジモトを説得しようとするんですね。「それでいいじゃない。あなた、人間にしてあげましょうよ」と。そうやって、説得しようという時だけは、急に人間大に変身して、フジモトの手を取る。
     それまでは、デカいままで、フジモトとすごく距離を置いてたのに、説得する時にだけ人間大になって、急に手を取って触りに来るという。「夫を色仕掛けで説得する」という、なかなか大したタマだなと思うんですけど。そんな、やり手のお姉さんなんですね。
     このデカいグランマンマーレが人間大に変身するシーンが、ちょっと僕、すげえなと思ったんですけど。4コマで分解して見てみました。
    (パネルを見せる)

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    【画像】グランマンマーレ変身1 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     巨大なマンマーレが振り返ると、夫のフジモトと同じサイズに変わるんです。なので、一番最初は上手側(画面左側)にいるフジモトに、視線だけを送っているんですね。
    (パネルを見せる)

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    【画像】グランマンマーレ変身2 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     次は、この視線の先にいるフジモトから見えている側はそのままで、見えない右側の顔だけが段々と小さくなって行くんです。ここ、映像が手元にある人は、ぜひ、確認して見て見てください。顔の右側だけが、いきなり変身を始めて小さくなりますから。
    (パネルを見せる)

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    【画像】グランマンマーレ変身3 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     その次が、この3コマ目です。このコマになると、顔の左右の縮尺は同じなんですけど、ところが、首から下は巨人のままで顔だけ人間大に縮小し始めているので、首の付根の位置とかが、もう、おかしなことになっている。
    (パネルを見せる)

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    【画像】グランマンマーレ変身4 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     そして、最後、一気にフジモトにガッと身体を寄せる時に、全ての辻褄を合わせるんですけど。まだ、首が長いままになっているという。
     こういうふうに、すごく丁寧に、この女の人、グランマンマーレのバケモノ性というのを見せているんです。
     本当にね、このシーンを見てると「あれ? 一瞬キャラが崩れたかな?」と思うようになっているんですよ。だけど、こんな重要な女性キャラクターが初登場の時に、それも、振り返りをゆっくり見せるという時に、作画ミスをするはずがないんですね。
     この「変身する時に顔の右側から縮み始めて、次に顔だけがすっかり縮んでしまって、首だけが長いような変なプロポーションになって、最後に寄って行く時にグッと全部のプロポーションの辻褄を合わせて行く」というのは、「変身する時に、バケモノな部分を夫にだけは見せないようにしている」ということなんですね。
     そして、これを描写することで、観客にだけは、この女性のバケモノ性をわざわざ見せようとしているんですけども。

    「足元の花壇」の意味とグランマンマーレの「正体」

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    【画像】スタジオから

     このように、グランマンマーレは自由に自分のサイズを変えられるように見えるんですけども。それだけでは説明できない、ちょっと不思議なシーンがあります。
     それが、グランマンマーレと宗介の母親のリサが、2人で相談するシーンです。
    (パネルを見せる)

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    【画像】グランマンマーレとリサ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     もう本当に、映画の最後の方のシーンですね。グランマンマーレとリサが立ち話をしているところを、養老院のおばあさんたちが遠くから「あの2人、ずっと話してるけど、何を話してるのかしら?」と見ている場面です。
     この時、2人が何を話しているのか、観客には全然わからないんですよね。
     グランマンマーレのサイズも、微妙にちょっと怖い大きさなんですけど。まあ、別に、リサと全く同じサイズじゃなくてもいいと思うんですけど。なんか、この時のグランマンマーレって、ちょっと威圧的な大きさで、怖くて良いんですよ。
     この後、ケアハウスのおばあさんたちが「リサさーん!」って声を掛けたら、リサが「はーい」って手を振るんですね。グランマンマーレは視線だけをチラッとよこすだけなんですけど。
    (パネルを見せる)

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    【画像】手を振るリサ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     で、リサがカメラの方に歩いて来るんですけど。手前にある花壇を避けて歩いて来るんですね。
    (パネルを見せる)

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    【画像】歩いてくるリサ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     わざわざ手前に花壇があって、それを避ける作画をしているんです。
     このシーンの絵コンテを確認しても、やはり「この位置に花壇があって、リサは花壇を避けて斜めに歩く」って指定してあるんですね。
     こんな面倒臭いことをしているのには、やっぱり理由があるんです。
     では、なぜ、宮崎駿は、この位置に花壇を配置したのか? これね、実はこのカットだけじゃないんですよ。
    (パネルを見せる)

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    【画像】足元の花壇 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     これは、ついにケアハウスに到着した宗介とポニョが、グランマンマーレと会うシーンなんですけど。ここにも、マンマーレの手前の足元に花壇があるんですね。
     グランマンマーレは、上手側から歩いて来るんですけど。この花壇が途切れる手前でピタリと止まって、その位置で宗介達とお話をするんです。
     このように、グランマンマーレは、絶対に観客に足元を見せないんですよ。

    ・・・

     なぜ、グランマンマーレは足元を見せないのか?
     なぜ、自由自在に身体を大きくしたり小さくしたりできるのか?
     なぜ、海の中でこの女の人は光っているのか?

     実は、このグランマンマーレの正体というのは、宮崎駿のインタビュー集『続・風の帰る場所』の中に、ハッキリと書いてあるんですね。
    (本を見せる)

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    【画像】続・風の帰る場所

     グランマンマーレの正体はチョウチンアンコウだそうです。
     「体長が1キロメートルくらいある、超巨大なチョウチンアンコウのバケモノ。それがグランマンマーレの正体だ」と書いてあるんですね。
     そんな巨大アンコウと人間の男との異種交配、つまり「違う生物同士が交配して、子供を作る」というお話なんです。
     日本でも、例えば『鶴女房』とかがありますよね。いわゆる『鶴の恩返し』。ああいう違う生物との間に子供が出来るお話というのは、民話にはよくあるんですけど。
     「そういった異種交配の話こそが、この『崖の上のポニョ』の本質の1つだ」と、宮崎さんは語ってるんです。
     それも極めて楽しげに語ってるんです。「異種交配譚なんですよね! アンコウなんですよ! 1キロもあるんですよ!」と、すごく嬉しそうに語ってるんですよ(笑)。
     まあ、皆さんもご存知でしょうけど、チョウチンアンコウというのがどんな生物かというと、こんな姿をしています。
    (パネルを見せる )

    nico_190825_02903.jpg
    【画像】チョウチンアンコウ

     これがグランマンマーレの正体なわけですね。
     深海魚です。この口には鋭い牙が生えていて、頭から生えている触手の先端の辺りから発光液という液体を放出するので、海の中で光るんです。
     つまり、グランマンマーレの女性の形をした部分というのは、この触手の先端部分なんですよ。この部分が女の人の形をしているんですけど、その奥には、超巨大な、大きさが1キロくらいあるグロテスクな深海生物の本体が存在しているわけですね。

    ・・・

     グランマンマーレの本体は、今、言ったように、チョウチンアンコウなんですけど。
     現実のチョウチンアンコウというのは、「深海でも光るこの触手で獲物をおびき寄せ食べる」という生物なわけです。
     それと同じく、このグランマンマーレというのは「この触手の先にすごく美しい女の人の全身を作って、人間のオスをおびき寄せて異種交配をする」という生物なんですね。
     宮崎駿は、さっきの本とか、別のインタビューでも「グランマンマーレには、フジモトだけでなく、何人も夫がいる」って言ってるんですね。
     つまり「貪欲で多淫症」というのかな? 「とりあえず、いろんな相手と交配するのが好き」というような性格なんです。さらには「これはもう、その娘であるポニョもそうだ」と言ってるんですけど。
     じゃあ、フジモト以外の他の夫はどこにいるのか?
     フジモトと同じように、世界の海のどこかに住んでいて、グランマンマーレが来るのを待っているのかというと、いや、たぶん違うんですよね。
     その理由は「マンマーレの正体はチョウチンアンコウである」というところからもわかるんです。
     チョウチンアンコウのオスとメスの交配の仕方、交尾の仕方というのは、かなり特殊なんですよ。
    (パネルを見せる。 日テレニュース24 the SOCIAL natureより画像引用)

    nico_190825_03104.jpg
    【画像】チョウチンアンコウのオス ©NNN

     「メスに噛みつき一体化するオス」と書いてあるんですけど、巨大なメスの身体に埋まり込んで、寄生するように、オデキみたいになっているのが、チョウチンアンコウのオスなんですよ。
     このオスは、メスの身体に埋め込まれていて、すでに組織は癒着して、もう一生、離れられないんですね。チョウチンアンコウのオスというのは、メスの身体に寄生して、そのまま一生を送るんです。
     メスは、オスが寄ってくるように化学物質を出すんですけど。チョウチンアンコウのオスというのは、本当にメスの身体の数十分の1という小ささなんです。そんなオスは、化学物質を頼りにメスの身体を探し当てると、その身体のどこかにかじりつくんですね。すると、その瞬間から、オスの組織と循環系というのはメスの身体と一体してしまう。
     そこから先は、栄養はメスの血液を通じて得るようになり、目も手足もヒレも他のほとんどの内臓も退化してなくなってしまって、単なる「メスが産卵する時に精子を放出するだけの器官」になっちゃうんですね。メスの内臓の一部になっちゃうわけです。
     これが、チョウチンアンコウという生物の特殊なところなんです。
     そんな生き物を、わざわざ「グランマンマーレの本体だ」と設定したということは「フジモト以外の夫、オスというのは、全てグランマンマーレの体内に吸収済みだ」ということなんですね。

    ・・・

     じゃあ、なぜ、フジモトだけは吸収されていないのか?
     実は、フジモトという男についても、これは『ポニョ』のパンフレットとかガイドブックにも書いてあるんですけど、「『海底2万哩』に出て来るノーチラス号の船員の生き残り」という設定があるんですね。

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    【画像】1871の壺 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     フジモトが、自分の船の中で海の生命のエキスを抽出しているシーンで、一番古い壺には「1871年」という年号が書いてあるんです。
     要するに「フジモトが作った生命の水の中で、一番古い壺が1871年製だ」ということなんですけど。
     なぜ、ここだけ具体的な数字を出しているのかというと、「ジュール・ベルヌが『海底2万哩』を出版したのが、1870年だから」なんですね。この『海底2万哩』というのは、ノンフィクションという体で出版していたので、「ちょうどその時期にノーチラス号の沈没事故があった」と書かれているわけですよ。
     フジモトは、沈没があった1870年にグランマンマーレに助けられ、そこから生命の水の精製を始めた。だから、最初の壺に書かれた年号が1871年になっているという設定なんだと思います。
     この辺の「『海底2万マイル』の生き残りだ」というのは、宮崎駿自身が、裏設定と言いながら、堂々といろんなところで言ってる話ですから、これは確かだと思うんですけど。
     こんなふうに、フジモトだけは、グランマンマーレの役に立っている。だからこそ、他の夫のように同化吸収されずに、今も生きているわけです。
     なので、フジモトにとってのグランマンマーレは、愛しい妻なんだけど、同時に、自分が役に立たなくなったら、体内に同化してしまうような、恐ろしい存在でもあるんです。
     「マンマーレには、フジモトの他にも夫がたくさんいる」と言いながらも、海の中で生命の水を作っているフジモト以外に全く気配を見せないのはなぜかと言うと、おそらく、「他の夫もいたんだけど、もう死んでしまった」か、あるいはチョウチンアンコウをわざわざ設定してるんだから、「マンマーレに同化されてしまった」と考えるのが一番良いんじゃないかと思います。
     たぶん、フジモトも、年を取ってこういう作業が出来なくなってしまったら、グランマンマーレの体内に引き込まれて、組織とかが癒着して、同化されてしまうんじゃないか、と。
     でも、その時に、フジモト自身がそれを「嫌だ!」とか「怖い!」と思うかは、この世界観の中ではちょっと疑問だなと思うんです。案外、喜んじゃうんじゃないかな?

    「女が内緒話をしている時というのは、必ず男にとって……」

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    【画像】スタジオから

     さっきの話の続きになりますけども。今までの話からわかる通り、この花壇に隠れて見えないグランマンマーレの足元の部分には、おそらく、本体のチョウチンアンコウに繫がるデカい触手があるんですね。
    (先程のパネルにマジックペンで描き込む)

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    【画像】花壇と触手 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     こういうふうに。おそらく、見えないところに、触手があるんですよ。
     リサは、その触手を踏まないようにするために、わざわざ花壇を避けて歩かなきゃいけなかったわけですね。
     宮崎駿は、この映画を気持ちよく見ている観客には、こういうことがわからないように描いているんです。触手を隠すためにわざわざ花壇をレイアウトしているわけですから。
     この『ポニョ』という作品は、普通に見ている限り、「実は、宗介という少年は、薄気味悪い相手と変な契約をしている」という部分が僕らには見えないようになってるんです。
     じゃあ、なんでそんな「グランマンマーレと同じく半魚人のポニョを、ずっと好きでいて、守る」という契約に、宗介は同意したのか?
     これについて、宮崎駿は「宗介は子供だからだ」と言ってます。「大人にはそんな約束は出来ない。約束したとしても、守れない。それは大人だからだ」と。
     よく「子供が大きくなったらどうなるんですか?」って言うんですけど、宮崎駿に言わせれば、そんなもん、答えは1つしかないんです。「子供が大きくなったらつまらない大人になるんだ」と。「子供というのは、みんな、みんな、つまらない大人になる。くだらない大人になる。だから、子供っていうのは素晴らしいんだ」と。これが宮崎駿流のロジックなんです。
     でも、宗介は、まだ子供なんです。そして、くだらない大人になる前の子供だからこそ、「一生かけてポニョをずっと好きでいて、一生ポニョを守る」なんて約束が出来る。
     子供だから、そんな無茶な約束をするし、子供だから、その約束を守ろうとしてしまう。「だから、宗介の一生は、これから苦労の連続ですよ」と、宮崎駿は言うんです。
    (DVDを見せる)

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    【画像】宮﨑駿の仕事DVD

     ……あの、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』というドキュメンタリーがあるんですけど。この宮崎駿の特集の中で、本当に「いやあ、彼の一生はこれから大変ですよ。アハハ!」って大爆笑しているんですよね(笑)。

    ・・・

     じゃあ、なんで「幼い宗介が大変な契約をしてしまう」という結末のこの映画を、宮崎駿は「ハッピーエンドだ」と言うのか?
     あのね、ここからがちょっと面白いところ……というか、僕、ちょっと怖いんですけど。
     宮崎駿にとっては、別に、触手が付いていて得体のしれないグランマンマーレだけが怖いわけじゃないんですよ。全ての女は、宮崎駿にとっては、グランマンマーレと同じなんです。
     「全ての女はグランマンマーレと同じように怖く、得体がしれなく、でも、強くて美しくて、男は敵わない。だから、一度好きになってしまったら、一生死ぬまで振り回される。それが女である」というのが、宮崎駿がこの映画の中で語っている「女とは何か?」という考え方なんですよ。
     例えば、宗介のお母さんのリサとグランマンマーレが話しているシーン。この内容は、一切、観客には知らされないんですよ。すごく遠くで話している描写があるだけでセリフも何も聞こえない。あまりにも不自然なんですよね、このシーン。
     ここまで教える気がないんだったら、いっそ話し合っているシーンごとカットしちゃえばいいんですよ。ところが、このシーンって、コンテの時点から、かなり長い秒数を指定されているんです。
     つまり、「ここで何を話しているんだろう?」と、観客に想像して欲しいということなんですよ。わからないように作っているんですけど、想像して欲しいんですね。
     物語のラスト、宗介達の街は大津波で水没するんです。水没するんですけども、なぜか平和なままなんですね。みんな生きてて、平和なままで、ついに宗介のお父さんであり、リサの夫でもある長嶋一茂が乗る小金井丸まで無事に港に戻って来るんですよね。
     もちろん、小金井丸が戻って来れたのは、マンマーレのおかげです。ということは、観客にすら聞かせられないリサとマンマーレの会話は何だったのかというと、おそらく「あなたの夫は生きて返してあげるから、その代わり、あなたの息子を差し出しなさい」というやり取りをやっていたということなんですよ。
     なぜかと言うと、このリサという女の人は、息子である宗介の晩御飯よりも、夫との喧嘩の方を優先させる人なんですよ。
     子供を乗せているのに、無茶で乱暴な運転をするのが好きな人であって、自分の子供には「ママ」ではなく、「リサ」という名前で呼ばせるような人なんです。
     このリサというお母さんは、宮崎アニメの中では、かなり不自然なほどに母親的な部分が少ない。母性は少なめ、女は多めみたいな「母親ではなく、どちらかというと女だ」というふうに描かれるキャラクターなんですね。
     そんなリサにとって、誰にも知られないところで持ちかけられた「あなたの夫を返してあげるから、息子を私にちょうだい。でも、安心して。あなたの息子をあなたから取り上げるわけではないの。そうじゃなくて、私の娘があなたの家でずっと暮らすというのでいいから」という、マンマーレからの提案は、案外、良い提案だったんじゃないかと思います。
     流石にこんな話は観客には聞かせられない。
     でも、「リサとマンマーレが何か内緒話をしている」という雰囲気だけは伝えたい。
     そして「女が内緒話をしている時というのは、必ず男にとっての不幸が起きる」という、この世の真実だけは伝えたい。
     だから、こんな不自然なシーンになっているわけですね(笑)。

    ・・・

     別に、グランマンマーレだけが、強くて怖くて美しいのではなくて、リサもポニョも、女は全て強くて怖くて美しい。これが、『崖の上のポニョ』のテーマなんですよ。
     女は全て、強くて怖くて美しい。だから、俺は、女に対して頭が上がらずに、でも、ゾッコンで、すごく好き。だから、身体を壊すほど働いて、そして、いつかは使い物にならなくなって、捨てられるか、吸収されるかして行くんだろう、と。
     そういう運命を知っているからこそ、フジモトの目の下には、いつもクマがある。大人の男の目の下には必ずクマがあるわけです。
     「運命を知ってるフジモトにはクマがあるんですけど、そんな運命をまだ知らないから、宗介は健気で元気だ」という話なんですね。
     こういうところまで話してから、「はい!」という感じで、このアニメはポンと終わっちゃうわけですよ。
     もう、宗介とポニョがキスしたら、ポンっと終わっちゃって。そこからは「めでたし、めでたし」で、世にも楽しげな歌が掛かるわけですね。
     「楽しいエンディングテーマ、『ポニョ』の歌をみんなで歌おう!」って。「ポーニョ、ポニョポニョ、魚の子、青い海から、やってきた~♪」というふうに終わっちゃうわけです。

     ……はい、無料はここまでです(笑)。
     『崖の上のポニョ』の解説の第1部でした。


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