ホームレス小谷くんを紹介された時、私はてっきり、ホームレスをネタにする「売れない芸人さん」かと思いました。
昔、ホームレスをしていたことがあるとか、今も売れないせいで家賃が払えずいろんなところを泊まり歩きながら芸人をしているとか。
売れないながらも、たまには舞台に立ったりもするし、ドサ回りもするのだろう。
芸人である西野くんの紹介だったこともあり、そう思い込んでいたのです。
ところが、ホームレス小谷くんはそんなぬるい人間ではありませんでした。
彼は、芸人ではなくホームレスでした。
本当のホームレスだったのです。
2年前までの小谷くんは、ただの売れない芸人でした。
当時から小谷くんは、売れたいというより「面白いことをしたい」「面白くなりたい」という、若手芸人ならではの純粋さをもっていました。
でも、現実の小谷くんは年というキャリアはあるけど、ウケない芸人でした。
この本の読者も、ホームレス小谷くんの名前を聞いたことのある人はあまりいないと思います。
小谷くんは、カリスマ実業家の家入一真さんに「僕は、どういう風にすれば面白くなれるでしょうか?」と相談しました。
先にもちょっと触れましたが、家入一真さんは面白いと思ったことをとりあえずやってしまう人で、都知事選に立候補したこともあります。
小谷くんは、この家入さんに相談したんですね。
家入さんが出したアイデアは、「お前はホームレスになれ」というものでした。
家賃が2万とか3万の安いアパートに住んでいるくらいだったら、今すぐ解約してしまえ、今日からホームレスになれ。
「じゃあ、どうやって食っていけばいいんですか?」と小谷さん。
「そうだなぁ。どんな依頼でも1件 円で受けろ。簡単なことも、大変なことも関係なく、全部受けろ。値段は一律50円」と家入さん。
わけがわからなかったけれど、小谷くんは素直に家入さんの言うことを信じることにしました。
すぐにアパートを解約し、泊まるところがない時は公園に寝るというホームレス生活を始めました。
売れなかったとはいえ、やはり芸人をやっていただけのことはあります。
失うものがないということはありますが、小谷くんはとても思い切りがいいですね。
それから2年。
小谷くんは、どんな人からの仕事でも、どんなに手間がかかる仕事でも引き受けています。
おじいちゃん、おばあちゃんの話し相手をしてやってくれ、庭の草むしりをしてくれ、電線のコードをつないでくれ、ちょっと来てその支柱を支えていてくれ……すべて50円です。
すぐに終わるような仕事は少なくて、ほとんどの仕事が半日はかかるそうですから、けっこう大変だそうです。
では、彼の生活は貧しくなったんでしょうか?
とんでもない。ホームレス生活の2年間を経て、痩せていた小谷くんは15キロも太った上、貯金もでき、結婚までしてしまったのです。
カリスマ論