文豪・室生犀星が発表した同名小説を、二階堂ふみと大杉漣の豪華共演で実写化した『蜜のあわれ』が全国公開中だ。室生自身の投影とも言われる老作家(大杉)と、変幻自在の金魚の姿で老作家を翻弄する少女・赤子(二階堂)の日々は無邪気でエロティックで、どこか滑稽で、そしてうらやましくも映る。全編フィルムによる撮影という贅沢な環境の下、室生犀星の世界観にどっぷりと浸ったふたりは何を想ったか。二階堂と大杉に話を聞いた。


――二階堂さんは金魚の赤子役、ということで、一風変わった準備も必要でしたか?

二階堂:これといって特別な準備をしたわけではなく、現場で作り上げたキャラクターでした。ただ、彼女の言葉には意味を持たせないように意識して、大杉さんとご一緒のシーンでは赤子を引き出していただくことも多かったので、それを大事に演じました。現場で次第に内面から出てくる赤子を試すことも楽しくなってきて、自分でもアイデアを出させていただいて。楽しく撮影しました。

大杉:現場に行ってまず、「ああ、赤子がいる」と思いました。そして赤い衣装がひらひらした姿を観て、「ああ、金魚がいる」と(笑)。そう初日に思えたことは、いいスタートを切れたなと思いました。その先、長い道のりを辿って行くことになるわけだけれど、それがすべてだったなと。金魚がいると思えたことが、よかったと思いますね。二階堂さんについては、映画の中で生きている女優さんという印象を受けていましたので、今回ご一緒したことで、楽しく豊かに過ごせた一か月でした。

――映像美に圧倒されましたが、全編フィルムでの撮影だったそうですね?

二階堂:フィルムだからこその緊張感とか、待ち時間の心地良さ、だったりがありました。わたしはフィルムもデジタルも、どちらにも良さがあるので、どちらも好きなんです。でもこの作品はフィルムだったんだなって、完成した映画を観て思いましたね。

大杉:フィルムの場合は少しね、待ち時間があるんですよ。久しぶりに、ロールチェンジを体験しました。僕は新藤兼人さんの『一枚のハガキ』(11)が今まで最後のフィルム作品だったんだけれど、その待っている時間がいいんですよ。もっと長くチェンジしていてくれと思うほど。監督や共演者の皆さんとお話しができるんです。独特ですよね。確かに時間はかかります。でもその手間を惜しまないことが大切な気がするんです。

――赤子と老作家の口論するシーンに不思議な魅力がありましたが、どういう意識で演技をしていたのですか?

二階堂:そのシーンは撮影3日目くらいで、一番苦労したシーンでした。言葉が喉を通らないというか、頭で覚えているはずだけれど、なかなかセリフが出てこなかったんです。それは覚えたての言葉を話すという、赤子は言葉に支配されないキャラクターだったから難しかったんです。難しいというよりも、踏ん張ったシーンですね。でも、このシーンを経て、のびのびと演じることができたので、ひとつのきっかけになったかなと思います。


大杉:文語体で難しいことを言い合っているみたいですが、結局は人間のすねた部分をやり取りしているだけなんですね。それを室生犀星さん的に表現すると、あのような面白いやり取りになると思うんです。でもそこを紐解いていていくと、とても人間臭いものが漂っている。堅苦しいことの後に広がる、大切なものを描くシークエンスだったと思いますね。また彼に近づくのではなくて、自分の中で室生犀星さんを生み出すような作業も楽しかったですね。

――そうして生まれた室生犀星像は言葉で説明すると、どういう感じでしょうか?

大杉:室生犀星さんもひとりの男だなって思いましたよ。室生さんは70歳でこれを書いて、僕は今64歳ですが、「ん、わかるな」って思うところがけっこうあるんですよ。赤子にあれほどの想いを寄せていながら、ほかに女がいたじゃないですか。そういう男の二面性が面白くて。僕は、ほかに女はいませんけど。今は(笑)。

彼の言動のひとつひとつ、気にしていないようで気にしていて、赤子のことを見ていないようで見ている。ああいう翻弄のされ方は嫌いじゃないですね。自分の中に男の性というか、そういう要素があるのかもしれないですね。真剣にやればやるほど。おかしみや愛おしさとか、おまぬけな感じが出て、それが"蜜のあわれ"という、老いていく向かい方であると僕は理解しましたけどね。

――また、赤子も室生犀星の理想の女性像の集合体みたいなものだそうで、二階堂さんも室生さんの人物像を想像しましたか?

二階堂:赤子は実体のない役柄なんです。老作家が出会ってきた女性たち、彼の欲望や想いなどが混ざりあって生まれた女性が赤子だと思うので、決して理想だけではないと思うんです。わたしから見ると老作家は、身を削って世に作品を出し続けて、大変な作業をやり続けていて、かっこいいです。その闘い続ける姿は素敵だなと思いましたし、堅い作家に見えるけれど滑稽で愛嬌もあるんです。

人間らしさと作家としての重み、男性としての顔、この映画では、いろいろな老作家の表情が出ているので、そこも見逃せないんです。だから、それが室生犀星さんだとしたら、そういう人だからこそ「蜜のあわれ」が書けたのかなって思います。


映画『蜜のあわれ』は、大ヒット公開中!



■参照リンク
『蜜のあわれ』 公式サイト
http://mitsunoaware.com/

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