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NYタイムズにして「センセーショナルな才能」と言わしめた北欧の新鋭監督ヨアキム・トリアー。鬼才ラース・フォン・トリアーを叔父に持つ新たな才能が撮り上げた初めての英語作品『母の残像』は、第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され話題となった。
謎の死を遂げたある女性戦争写真家と、遺された家族たち。彼女の死の真実に直面したその時、夫、息子たちの交錯する想いが浮き彫りになり...。家族4人の心の動きと葛藤を、繊細かつ豊かな映画的表現を駆使し、美しく、そしてサスペンスフルに描き出す本作で、イザベル・リード、ガブリエル・バーンらとともに豪華キャストとして名を連ねたのが、ハリウッドを代表する若手演技派俳優ジェシー・アイゼンバーグだ。この度、AOLニュースでは、アイゼンバーグに電話インタビューを実施。「本作のようなおいしいキャラクターにはなかなかありつけない」と表現する役柄について、そして「美的感覚的にもとても面白い文化」と語る日本への気持ちを語ってくれた。
--完成した作品はご覧になりましたか?
実は自分の出る映画を観るのがあまり好きじゃないから観ていないんです。でも、ヨアキム・トリアーさんとの仕事は、本当に楽しくやらせていただきました。観ていないのでわからないですが、おそらく、脚本とは違う仕上がりになっているんじゃないかと思います。彼のスタイルだと思いますが、脚本通りにキッチリ撮るわけではなく、流れに任せたやり方で、コラージュを編成するように編集していく監督なので、脚本通りにはなっていないと思います。
--本作では、あるひとつの家族の崩壊と再生が描かれていますね。
この映画で描こうとしているポイントは、"秘密を抱えた家族"ですよね。この家族は、環境こそは安定していますけど、秘密を抱えた家族にとって最悪の事態が起きて崩壊していきます。崩壊していくもともとの原因は、お互いに率直に話すことができない、それぞれが抱えている秘密や思いを打ち明けることができない、そこにあるんだと思います。
--ご自身が演じたジョナは劇中、母の秘密に触れ、徐々に気持ちが不安定になっていきます。今回の役柄について詳しく教えてください。
ジョナというキャラクターは、ゆるく監督自身に基づいていると思います。もちろんジョナの状況と監督の状況は違いますけど。このキャラクターのポイントというか、描きたかったことは、困難な状況の中で人が幼児返りする様です。自分に子供が生まれたけど、ちょっと時期尚早に感じている、いささか受け入れられずにいる。だからジョナは10代の青年に幼児返りしてしまう。監督とは「そういう心理ってどういうものなんだろうね?」という話をしました。本当にしょうもなく無責任だけれど、共感せずにはいられないようなキャラクターを目指して、監督と話し合いながらやっていきました。
--キャスト陣には絶妙なバランス感覚の演技が必要とされる作品だと思うのですが、イザベル・ユペール、ガブリエル・バーンといったベテラン俳優陣や、新鋭デヴィン・ドルイドとの共演はいかがでしたか?
イザベル・ユペールとの共演は数日程度でした。あまり長々と一緒に演じることはなかったのですが、彼女の演じるキャラクターには謎めいたところがあって、亡くなった後もなおその存在感を漂わせる、そういうキャラクターを演じています。イザベルさん自身にも素晴らしく謎めいた資質があって、彼女との共演は僕にとっても非常に刺激になりました。毎回斬新で、期待していないような面白いアプローチをとってくれました。
ガブリエル・バーンは、演じているキャラクターも親しみやすいキャラクターですが、素の彼も非常に親しみやすく温かい方です。彼との共演シーンは本当にやりやすくて、自由に泳ぎながらやることができました。
次男コンラッド役のデヴィンも素晴らしかったです。彼の演じたコンラッドは非常に寡黙なんだれど、教室の中で一番頭が切れるのは実は彼だったりする、そういう役どころですが、彼自身にも似たところがあると思います。彼は16歳という非常に若い俳優です。僕も若い頃からやってますけど、彼と同い年だった頃は「コミカルにやりたい」、そのぐらいの考えしかなかった。でも彼は非常に芯があって、役に対してもアーティスティックな卓越した視点を持っている。非常に大した役者ですね。
--ご自身は演出家としての一面もお持ちですが、本作のトリアー監督の演出法で気になることなどはありましたか?
彼の、キャラクターの構築の仕方が非常に面白いと思ってます。普通はいろんな瞬間瞬間を見せることで、「恐らくこの人はこういう人物だろう」って想像させますよね。でも、この映画でもそうですけど、ヨアキム・トリアーのやり方は完全な人物像をまずは構築するんです。でもその人物像のほんの一部しか見せない。非常に労力もかかるし、繊細なやり方なんです。そこにインスパイアされたというか、驚きもしましたし、非常に感化されました。
僕自身も戯曲を描いていて、自ら出演もしますが、僕のアプローチの仕方は監督と似ている部分があるんです。役者と戯曲家としての両方の視点で役を描いていて、「このキャラクターはこの出来事に対してどう反応するだろう、どう反射するだろう」ということをいちいち考えながら戯曲を描いていきます。自分が演じるキャラクターの瞬間瞬間を見せて、願わくばそれが観客の中で想像力が膨らむような瞬間であって欲しいなと思います。戯曲では描かれていないけれど、舞台の外ではこのキャラクターはこういう人だろうなということが容易に想像できるような演出というか、舞台を目指しています。
--劇中では、母の孤独が浮き彫りに描かれています。ご自身にとって孤独を感じる瞬間はどんなときですか?
僕の育った環境の話をすると、僕の家族はとても賑やかでありながら、イヤに考え込む人たちなんです。だからそういう家族、そういう文化の中で育つと、考え込むあまり、ちょっとメランコリーに陥ったりすることがあります。ただ、そういう瞬間って何かを想像したり作り出そうとしている時や、人生の一大決心をする時に訪れるものだと思います。そういうのって否が応でもやってくるものだから、そういう局面に対する心構えを持っておかないといけない、ということを今までの人生で学びました。
--20年近く俳優としてのキャリアを重ね、今回のような繊細さが前面に出た役柄だけでなく、『ソーシャル・ネットワーク』での"傲慢な天才"、『エージェント・ウルトラ』での"情けないヘタレ男"という役柄など本当に様々な作品で様々な役柄を演じてきたと思うのですが、ご自身はどういう役を演じるのが好きですか?
役柄を演じる時には、感情的に揺さぶるものがあるものにやりがいを感じます。例えば『エージェント・ウルトラ』のようなアクション映画でも、役柄は「俺は何者なのか」っていう実存的な、根源的な悩みを抱えているキャラクターですよね。今回はもう少し抑えた感じの映画になってますが、それでも今回のキャラクターも実存的な淵に立たされますよね。だから、役者としてやりがいがある。
今は舞台に取り組んでいて、演じているキャラクターについて毎晩毎晩考えさせられるんです。そういうのってやっぱり面白くて。逆に、「あんまり面白くないな」と思うのが、キャラクターの特徴が一個あってそれを繰り返しやっていくっていうもの。
でも、仕事を続ける上で、『母の残像』のようなおいしいキャラクターにはなかなかありつけないものです。難しさはありましたが、今回のジョナというキャラクターはやりがいのあるキャラクターでした。
--『ソーシャル・ネットワーク』などで来日もされていますが、日本に対してはどんなイメージをお持ちですか?
何度か日本を訪れましたが、お招きいただく度に本当にありがたいと思っております。僕はニューヨークに住んでいるのですが、日本の食品店などがあるリトル・ジャパンと呼ばれているエリアがあって、よくそこで買い物をするんです。 日本は美的感覚的にもとても面白い文化だと思っています。過去には箱根に行ったり広島に行ったり...。もちろん東京にも行ったのですが、また行くチャンスがあればもっといろんな都市を訪れてみたいと思っています。
大都会であるという部分ではニューヨークとすごく似ているところがあると思いますが、やっぱり他にはない特徴ってありますよね。たとえば...細かい思い出で申し訳ないのですが、東京でプレミアをやった時に、カメラマンたちが黙って写真を撮るんです。それがすごくシュールで面白いなと思いました。それだけ礼儀を重んじて、人を敬う文化の一つの象徴かなと思いました。もう一度日本を訪れることができれば、すごく嬉しいです。
--最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします!
本作は、僕の目から見ると非常にアメリカ的な話だと思っています。例えば僕が演じるジョナはいかにもアメリカ的な野心に燃えている男だし、次男にとっては彼の成長物語でもあるわけで、これもすごくアメリカ的。情報やテクノロジーなどに溢れている今の社会の中で、どう成長を遂げていくのかっていうところも見ものだし、そういったアメリカ的な物語をヨーロッパの監督が撮っているっていうのも面白いですよね。それを日本の皆さんが観ることになるので、面白いと思います。
映画『母の残像』は11月26日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショー
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■映画『母の残像』公式サイト
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