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『ブラック・スキャンダル』スコット・クーパー監督に直撃 「彼がどれだけ狂っているか理解してもらうためにも暴力を描くことは重要だった」
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『ブラック・スキャンダル』スコット・クーパー監督に直撃 「彼がどれだけ狂っているか理解してもらうためにも暴力を描くことは重要だった」

2016-01-13 21:00
    ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン、ベネディクト・カンバーバッチ、ダコタ・ジョンソン、ケビン・ベーコンら至極の豪華実力派スター俳優たちが集結し、ギャング+FBI+政治家が密約を結んだ、アメリカ史上最悪の汚職事件=スキャンダルを描くクライム・サスペンス『ブラック・スキャンダル』が1月30日(土)より日本公開となる。あらゆる凶悪犯罪に手を染めボストン裏社会に君臨した伝説のギャングスター、ジェームズ・ホワイティ・バルジャー。ウサマ・ビン・ラディンに次ぐFBI最重要指名手配犯に認定され、賞金2億4000万円にまで膨れ上がった犯罪王の半生を熱演し、「ジョニー・デップ、キャリア史上最高の演技!」と絶賛されている。この度、衝撃的実話の真相を暴く本作の監督をつとめたスコット・クーパー監督にインタビューを行った。


    ――本作でメガホンを取ろうと思った一番の決め手はなんですか?

    ニューヨーク市に住んでいた頃、ホワイティー・バルジャーの驚くべき話がボストンから海岸沿いにニューヨークにまで伝わって来て、彼の悪名高き行動もよく知っていました。そして今まさに私のいる所から数マイルしか離れていない場所で彼は逮捕されたのです。ある男が歴史的に悪名高いギャングである一方、弟は有力な政治家であることはシェークスピア的で惹きつけられました。作り話ではないのです!その上、幼なじみの友人が出世して担当のFBI捜査官になり、FBIの与えた殺しのライセンスを手にしたバルジャーはやりたい放題に権力を拡大していく事になります。たとえ脚本は自分で全て手掛けた訳ではなくても、この作品をやらない理由はないくらいに魅力を感じたのです。


    ――バルジャーの魅力はなんだと思いますか?

    ホワイティー・バルジャーが魅力的だと言えるかどうかはわかりません。彼は暴力を言語としています。彼を怒らせたら怪我どころではすまされず、殺されてしまうかもしれません。彼の魅力は権力なのです。彼にはFBIに隠れた味方がいたということ、そればかりでなく、かなりの権力を持った政治家の弟の存在もあったということを忘れてなりません。

    ただ、彼の事を知っていた人によると彼は魅力的な人間だという声や、地元の人達には良くしていた話を聞きます。私が地元の人にこの作品に出るように頼んだとき、彼らは『ブラックスキャンダル』の映画には関わりたくないと言いました。バルジャー兄弟は二人共、自分達や地元社会にはとても尽くしたからだそうです。

    ――バルジャーの役作りについてはどうされましたか?

    ジョニーと僕は相当時間をかけて、役作りについて話し合いを重ねました。映画の最後にFBIから提供された監視カメラの映像でわかるように、禿げた頭、人を射るような鋭い青い目、そして筋骨たくましい体型をしています。二人で彼の動き、歩き方、アクセント、心理状態などを話し合いました。

    ジョニーの場合、演じる役によって見かけはいつも変化しますが、今回最も大きく変化したのは感情的、心理的な面です。ジョニーはとても優しくて心の温かい人間ですが、スクリーン上で観る彼は正反対。冷酷、冷淡、魅力的な部分はあっても暴力的なでとても恐ろしい人間です。


    ――バルジャーの役作りで特にこだわったのはどこですか?

    できるだけ容赦なく、冷淡に描くことです。ギャング映画に登場するギャングはユーモアがあり、人が羨むような人生を送っていることが多いですが、今回はそんな事はできません。実際に起こった出来事で、被害者とその家族が存在するのです。だから最も重要なことは、本人を冷淡で、悪賢く抜かりのない、計算高い、金目当ての人間としてそのまま描くことでした。それを容赦なく描こうと思いました。彼が本当にどのような人物だったのかを見せたかったのです。英雄として見えたり、魅力のある、好かれるような人間として描いたりするつもりは全くありません。断固として本当の彼を描こうとしました。でも、好かれる役を演じることが多い、世界的大スターのジョニー・ディップがこの役を演じるにあたり、これを成し遂げるのは容易ではありません。しかし、本作品では、画面上の彼の行動は観る人にとって恐ろしく感じると思います。

    ――ジョニー・ディップがこの作品でオスカー候補になる可能性についてどう考えていますか?

    誰が候補にあがるかということを判断するのはいつも難しいです。前回の作品『ファーナス/決別の朝』のクリスチャン・ベール、ケイシー・アフレック、ウディ・ハレルソンの演技は映画俳優としては最高の演技を見せてくれましたが、彼らの演技は(審査員の)目には止まらなかったようです。だから私にはわかりません。

    ただ言えることは、ジェームズ・ホワイティー・バルジャーを知っていてこの映画を見た人は、ジョニーはバルジャーの本質以上のものを表現したと言っていたことです。ジョニー本人がとても心優しい人間なので、映像で観る彼がどれほどかけ離れているかわかると思います。自分たちがやりたかったことは達成できたと思っています。

    ジョニーはアメリカの国宝のような存在です。映画製作に関わる同僚たちが、ジョニーは今回芸歴の転換となりうるほど素晴らしい演技を観せてくれたことを見て取ることを願っています。彼の成功を心から祈ります。


    ――なぜ、ジョニーとベネディクト・カンバーバッチを兄弟として起用したのですか?

    実際のジェームズ・ホワイティー・バルジャーと弟のビリーもあまり似てはいません。僕も兄弟とは似ていないです。似ているかどうかということで役者は選びません。

    ビリー・バルジャーはとても学識のある知的な風貌をしていました。高貴な雰囲気さえあり、兄のブルーカラー的雰囲気とは全く違っていたのです。ホワイティー・バルジャーはアメリカでは極悪犯人が投獄されるアルカトラズ刑務所やレブンワースの刑務所に投獄された一方、ビリー・バルジャーはアメリカでもトップクラスの大学を出て、地域の指導者として任務を果たし、地元に貢献しました。

    ビリー・バルジャーの若い頃の写真の中でベネディクト・カンバーバッチにとても似ているものがあります。ベネディクトはカメレオンのような俳優で、彼のアクセントは、ビリーを知っている人に言わせるとほぼ完璧だったそうです。ボストンだけでも8種類の方言、つまりアクセントがあります。ビリー・バルジャーの声は何時間にわたって録音を聞いたのですが、ホワイティーとは似ても似つかない話し声でした。ベネディクトの描写は非常に正確だったと思います。彼は才能と知性あふれる俳優なので、彼ならきっとビリーの人格をうまく演じきってくれると確信していました。

    ――カンバーバッチの演じたビリーとエドガートンの演じたコノリーについてどう思いますか?

    1970年から80年代当時のボストン市南部では、ジョン・コノリーのような法の執行者とホワイティ―・バルジャーのような犯罪人、そしてビリーがどの位置に立つのかは定かでないですが、この二人の間の線は区別がつけがたいところがありました。

    ビリーは地域社会に貢献しており、ジョン・コノリーはFBI捜査官としてとても良い志を持っていたと思います。でも、ホワイティ―・バルジャーが関わってくると、弟のビリーは立場がとても悪くなります。ジョン・コノリーは彼の中の一番悪い部分が引き出されてしまいます。私たちは皆このような要素を自分達の中に潜ませています。でもある条件がそろっていなければ、その部分が外に出てくる事はありません。残念な事に、この場合その条件がそろってしまったということなのです。


    ――ダコタ・ジョンソンはどういった女優でしたか?

    映画でダコタ・ジョンソンの演技を見た事は一度もありませんでした。実際に会ってみたらとても心のこもった人で、年齢の割にとても賢く敏感な面を持っていると感じました。バルジャーの脆い部分を見せるのはとても重要なことです。「彼女なら他の人の前では出さないバルジャーの脆い部分を引き出せる」と感じ、彼女は完璧だと思いました。

    作品の中で女性達の出番は少ないですがとても重要な役割なのです。私は強い女性が好きですが、この作品に出てくる3人の女性は全員かなり強い女性。彼女たちはホワイティーから異なる形で影響を受けています。

    ――もしジョニーと再度仕事をする機会があったらどういった作品を撮りたいですか?

    もっとユーモアのあるもので、彼がどれほど好かれるような人物なのかがわかるような作品がいいです。彼の演技に嘘や偽りがない事が現れるようなものですね。罪の贖いをしようとしている人物を描いた作品が良いと思います。この作品とは全く違ったようなもので一緒に作れたら嬉しいです。


    ――ジョニーとジャック・ニコルソン(『ディパーテッド』)についてどう思いますか?

    『ディパーテッド』は久しく見ていないけれど、あの作品は全てがバルジャーの人生に基づいているものではないし、コメディー的要素が加わっています。しかし、私の作品は全てホワイティ―・バルジャーの人生の話だからこの二人にはかなり違いがあると思っています。ジャック・ニコルソンは素晴らしい俳優です。私の目的はジョニーを微妙に演出することでした。彼が微細で現実的に描かれれば描かれるほどより、冷淡でもっと怖くなると思いました。動きがない、又は動きが少ない方が、瞬きも少なければ少ないほど身の毛のよだつような怖さを感じます。獲物を巻き込んで、思いもよらない瞬間に一撃で仕留めるようなコブラのようなやり方です。ジャックの演技の方がジョニーに比べてより演劇的な表現です。

    ――今後コラボしたい俳優は誰ですか?

    ケイト・ブランシェット、メリル・ストリープ、マリオン・コーティアール、ダニエル・デイ・ルイス、ホアキン・フィーニックス。そしてすでに仕事を一緒にしているけど、クリスチャン・ベール、ジョニー、ジェフ・ブリッジズ。それから、レオナルド・デカプリオ。ジーン・ハックマンは引退を辞めてもらって一緒に仕事をしたいです。ジーンとは仕事をしたい!


    ――ジャンキーXLの音楽についてはどう思いますか?

    背景音楽は劇的なものが好きです。ホワイティ―・バルジャーの心理にある怒りを感じさせます。物語の進行に伴う恐怖感、少しクラシックの要素もあります。私は楽器の中でも特にチェロの音が好きで、物語の進展と背景にチェロの暗い音が聞こえるのが良いいのです。

    映画によって、伴奏が何かを示唆するように感じられるものがありますが、本作はそうではありません。編集、カメラ、血流など、どんな形においても、観客には監督の存在を感じてほしくないからです。

    撮影監督は日本人の高柳雅暢で、素晴らしいカメラの名人でした。ジャンキーとして知られている音楽担当のトム・ホーケンバーグの力量でボストンの町の全体に常においかぶさるような暗い空気感、脅威を出しています。

    ――撮影監督・高柳氏がかかわる事によって日本の要素が加わりましたか?

    私とマサの大好きな監督の一人が黒沢明監督です。黒沢監督はカメラを通して劇的なストーリーを語る能力がある。レンズの選択やテーマの選択においても、マサや僕にとって魅力的なものがあります。前作『ファーナス』の撮影監督も今回も彼がつとめてくれました。黒沢監督の手が直接かかっているわけではないとしても確かに影響があります。見せなければならないようなエゴは持ち合わせていないからです。腕を見せびらかさなくても巨匠なのです。高柳雅暢は素晴らしいフィルムメーカーであり、彼とは密に仕事をしています。


    ――現場の雰囲気はどうでしたか?

    実際に犯罪の起こった場所でロケをしたので、雰囲気はかなり張りつめていました。犯罪が実際に起こった場所に役者を置いて撮りたかったのです。でもボストン市の人々は撮影の時もプレミアの時もとても歓迎してくれましたよ。たしかに暗く重い雰囲気だけれど、この映画の場合、被害者や被害者の家族の体験を考えれば、それは正確かつ適切な空気だと言えます。

    ――この作品において、暴力を描く事の重要性は何だと思いますか?

    アメリカのテレビ番組、映画にはこの作品よりずっと残虐なものが多くありますが、この映画での暴力の描き方は現実的であるがゆえにより怖く感じます。ホワイティー・バルジャーの映画を正確に作るなら、このような暴力の描き方をする事は避けられません。多くの被害者、家族の心の傷は未だに癒されていないのです。もし彼の暴力をある特定のスタイルで描いてしまったら、被害者、被害者の家族たちが経験した事を軽く見ている事になってしまいます。

    だから暴力を描く事は非常に重要でした。この男がどれほど狂っていたかを理解してもらうためにもです。私は決して暴力を誇張したりロマンティックに描いたりすることはしませんが、そうする監督も多くいます。以前の作品でもそうしたように、できるだけ記録されている通りに作りました。


    ――どのようなリサーチをしましたか?

    脚本を書き直す前に、ボストンのFBIの面々、ロスのFBIでホワイティーを逮捕した人に会いました。ウィンターヒルのギャングを逮捕し、投獄した検察官とも密に話しました。それ以外にはボストンの南部、サウシーで実際ホワイティーを知っていた人達にも会いました。

    何故かといえば、このような場合は真実がとてもつかみにくいからです。犯罪人が関わる時、人は記録に残ってほしい事を話します。でも事実はそうではないことは皆も承知です。だから調査はかなり綿密に行いました。ドキュメンタリーを制作していたら本当の意味での真実を伝えますが、この作品はそうではないので、少しの自由は与えられます。

    たとえば、ホワイティーバルジャーが実際に2階に上がって言ってコノリーの妻、ジュリアン・ニコルソンにあのように攻めよったかどうかはわかりません。でも彼が心理的に人をどこまで追い詰める事ができるかという事を表しています。他にも、食事中にFBIもう一人の捜査官に対してとる行動でもわかるように、バルジャーは武器を使って暴力を振るばかりではなく、心理的な暴力も振るうのです。

    ――どのくらいの期間調査しましたか?

    撮影の前の6ヶ月間、脚本を書き直しながら調査しました。


    ――ボストンのサウシーという社会についての思いを教えてください。

    とても固い絆で繋がれたコミュニティです。今はボストン市の他の地区と同じように高級になってしまいましたが、アイルランド出身のアメリカ人が大半住んでいます。宗教、家族、忠誠心を重んじる、非常に忠実な人たちです。そしてまさにこの忠誠心によって、ジョン・コノリーは身の破滅を導き投獄されてしまいます。とにかく、忠誠心が強く興味深いコミュニティです。


    映画『ブラック・スキャンダル』は、2016年1月30日(土)より、全国ロードショー!

    ■公式サイト:www.black-scandal.jp

    ■ハッシュタグ:#ブラックスキャンダル

    https://youtu.be/jaHqN1eBs-M


    (C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

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