結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2021年12月28日 Vol.509
目次
- 「文章を読んで理解する」ことをめぐって
- 数学を学んでいきたい社会人、学習をどう進めればいいかのヒントがほしい - 学ぶときの心がけ
- 表現に対する不快さと寛容
- ミスをリカバーするまで悩んでしまう
はじめに
結城浩です。
いつもご愛読ありがとうございます。もう年末ですね!
年末年始で電子書籍のセールが行われています。この機会をぜひご利用ください!
◆『数学ガールの秘密ノート』『暗号技術入門』『プログラマの数学』(2022年1月6日まで)
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今年2021年は以下の3冊を上梓することができました。継続的な応援を心から感謝します!
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◆『Java言語で学ぶデザインパターン入門 第3版』(2021年11月)
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では、2021年最後の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。
「文章を読んで理解する」ことをめぐって
あまりまとまっていませんが「文章を読んで理解する」ことをめぐって思ったことを書きます。
* * *
ふと、こんなことを思いました。
もしかしたら世の中には「文章は一回読むだけで理解できなければならないものだ」と考えている人がいるかもしれない。
もしかしたら世の中には「文章を一回読むだけで理解できない自分は、理解力が不足している」と考えている人がいるかもしれない。
そんなことを思いました。
何かの統計を調べたわけではなく、あくまでも結城の想像に過ぎません。
文章を一回読む。理解できない。そのときに「数行だけ戻って読み返したり、数ページだけ戻って定義を確かめたり」という行動を取らない人がいるかもしれない。私はそんな想像をしていたのです。
文章を一回読む。理解できない。そのときに「ああ、やっぱり自分は駄目なんだ。わーん!」というモードになってしまう人がいるかもしれない。
文章を読みながら、自分の理解度をていねいにアップしようとする人は、意外に少ないんじゃないでしょうか。
* * *
文章を一回読む。理解できない。そのときに以下のような行動を取るためには練習が必要です。
- 自分は理解してないことに気付く。
- 自分はどこまでは理解できているのかと《理解の最前線》を探す。
- 理解できない語句はどれかを識別する。
- 文章やネットから理解を助けるための情報を得ようとする。
- 実は今までの理解も怪しかったのではないかと再確認する。
結城はしばしば《自分の理解に関心を持つ》ことが学ぶ上でとても大事な態度であるという話をします。でも、《自分の理解に関心を持つ》ことの先、具体的にどう行動すればいいのかは難しいことかもしれません。
自分の現在の理解を、より良い理解に結びつけるにはどうするのか。自分の理解を適切に育てて行くにはどうするのか。それはなかなか難しい話だと思います。
文章に書かれている情報を得る。ネットで検索して情報を得る。人の話を聞いて情報を得る。それは自分が理解する上で大事なことです。しかし、「情報を得ること」と「理解を得ること」とはイコールではありません。理解を得るためには、自分の個人的で内面的なプロセスを経る必要があるからです。
情報を得ることは、理解を得ることの必要条件ですが、十分条件ではありません。情報を得さえすれば理解が得られるわけではないのです。
* * *
何かを学ぶときには、情報を得るだけではなく、理解を得ることが必要になりますが、どのようにして理解を得るかということ自体も情報の一種です。「学び方を学ぶ」と表現してもいいでしょう。
学ぶときに直接的な情報だけを得て、情報をどう理解に結びつけるかという情報を学ばない場合、それは「学び方を学ばない」行動といえます。
「自分は学び方を学んでいるか」を判定する方法があります。それは、自分が学んでいるときに、次のようなセリフが心に浮かぶかどうかでわかります。
- なるほど。こんなふうに学べば、これをよく理解できるんだな。
- なるほど。こんなふうに学べば、自分はよく理解できるんだな。
そして、《自分の理解に関心を持つ》態度がなければ、このようなセリフが心に浮かぶことはありません。
* * *
「文章を一回読んで理解できなかったら、繰り返し読みましょう」という行動をアドバイスすることはできます。それは悪くありません。繰り返し読むことで理解はできるようになるかもしれません。でも、このアドバイスを聞いた人が、《自分の理解に関心を持つ》態度を持たなかったなら、いくら繰り返して読んでも効率は悪いでしょう。
文章を読み返すときに頭の中でやっていることをいくつか挙げてみます。
- 文章に書かれていることの具体例を自分で作りながら読み返す。
- 文章に書かれていることを一般化しながら読み返す。
- 自分は本当に理解しているのかを確認しながら読み返す。
- 「ここは理解してる?」「これは理解してる?」とピンポイントで確かめながら読み返す。
- さっき読んだときにはどうして理解できなかったのだろうと考えながら読み返す。
- 《自分の理解の最前線》を求めながら読み返す。
そのように、頭の中で「あれこれ」考えながら読み返す必要があるけれど、その「あれこれ」を教えることはとても難しい。
教えることが難しいのは、頭の中でやっている「あれこれ」はたいてい無自覚だからです。《定義はなに?》や《求めるものは何か》のような問いかけを手がかりにすることはできます。でも、それは手がかりに過ぎません。頭の中の動きまでを手取り足取り教えることはできません。
そしてまた、不十分ながら教えることができたとしても、教えられた側がそれを実践することははるかに難しくなります。
なぜならば、それは学ぶ本人が、個人的で内面的なプロセスとして実行しなければいけないことだからです。
* * *
ここまで書いてきたような「理解」にまつわる話題は「数学ガール」シリーズ全般に登場します。特に「ノナちゃん」が登場する巻では、数学という題材だけではなくて「理解すること」に重きが置かれています。
すでに刊行された『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』と、2022年2月に刊行予定の『数学ガールの秘密ノート/図形の証明』では、「理解すること」がよく描かれていると思います。
「理解することに関心がある人」や「理解に関心を持ってもらいたい人」に届いてほしいですね。
◆『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』(既刊)
https://www.amazon.co.jp/dp/4815603995/?tag=hyuki-22
◆『数学ガールの秘密ノート/図形の証明』(2022年2月刊行)
https://www.amazon.co.jp/dp/4815609764/?tag=hyuki-22