結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年5月28日 Vol.061

はじめに - 段取りと想像力

おはようございます。結城浩です。

いつも結城メルマガのご愛読ありがとうございます。 最近は急に暑くなったり、かと思うと朝晩冷えたりと不規則な天候ですね。 薄着で寝たときに限って朝冷えこんで、しかも窓が開いてた!などという 事態が起きて困ってしまいます。ぐすん。みなさんはお元気ですか。

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結城は夜に「明日はどんな仕事をどんな手順でやろうかな」 と考えることがよくあります。 一日にできることには限りがあるので、 うまく段取りを付けておかないと仕事が回らなくなるからです。

それとは別に、朝起きてから「今日はこんな仕事をする一日になるだろうな」 ということもイメージします。あるとき、ふと昨晩メモしておいた 「明日の(つまり今日の)仕事の段取り」を読んでズレを発見しました。

夜、疲れているときに考えた段取りは、 「朝の元気がよいうちに重要な仕事を片付けておき、 午後はゆっくり軽めの仕事をする」というものでした。

でも、朝に考えた段取りは 「重要な仕事は後回しにして、軽めの仕事を先にする」 というものでした。まったく正反対です。

客観的に考えた場合、そのときに正しいのは「夜の疲れているときの段取り」 の方でした。夜つかれているときに、

 「ああ、疲れているとなかなか重要な仕事を進めるのは難しいなあ」

としみじみと思いました。そのため、 朝の元気なうちに大事な仕事を片付けた方がいい!と考えたわけです。

でも朝になって元気になったら、昨晩のそんな思慮はどこへやら、 なぜか軽めの仕事に気持ちが向いてしまったわけですね。

自分は統一的な主体である、とつい思いがちですが、 実際はぜんぜんそんなことはないのかもしれません。 実際には各時点での判断も危うく、矛盾だらけの存在なのかもしれません。

なにしろ、段取りのメモ書きを見るまでは、 異なることを前夜に考えていたことすら忘れていたのですから!

Evernoteでも何でもいいのですが、 自分がある時点で考えたことをメモしておき、それを振り返るだけで、 発見がたくさんあるものかもしれないな、としみじみ思いました。 誰かから言われたことなら、反発したり素直に聞けなかったりしがちですが、 他ならぬ自分が考えたことならば、素直に参考にできるのかも知れません。

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結城は CodeIQ というサイトで、 IT技術者(プログラマ)向けの問題を出しています。 先週は結城が出した《ピッグデータ問題》の採点と 評価フィードバックを行いました。たくさんの解答を読み、 問題の解説文とともに解答者さんに評価を返すというお仕事です。

一つの問題に対してたくさんの解答を読むことになりますから、 おのずと解答の違いに注目することになります。 ほとんどの人が正解しているような場合、解答もだいたい似たようなものになります。 書かれているポイントも(内容としては)同じようなものです。

似ているのですが、その中にふっと目を引く答案があります。

 ・他の人とほんのちょっぴり違った観点で書かれた答案。
 ・他の人よりもずっと読みやすく書かれた答案。
 ・おもわず「なるほど」と膝を打ってしまうような答案。

その違いがどこからくるのかを明文化するのは難しいですが、 確かに何かが違うのです。たくさんの答案の中で「ちょっと違うぞ」と思わせる、 それはいったい何なんだろう、ということを考えさせられました。

単純に文章のうまさとかそういうことではないんですよね…

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先日、こんなツイートをしました。

 若者の多くは、自分が立ち向かう老人が、
 かつて自分のような若者であったことに気づかない。
 老人の多くは、自分に立ち向かう若者が、
 いつか自分のような老人になることを知っている。
 残された時間が多い点では若者に勝ち目があり、
 多くを知る点では老人に勝ち目がある。

まあ若者と老人がいつも戦っているわけではないですが、 ここに書いたようなことをときどき思います。 結城は自分を老人だとも若者だとも思っていないのですが、 子供の「親」ではあるわけです。

親として子供にあれこれ言いたくなることはあるし、実際言います。 子供はきっと親が言うあれこれを「うるさいなあ」と思っているだろうと 想像できます。「なんで親ってこんなにうるさいのかな」と。

どんな親も子供の時代があったはずなのに。 そして親に対してある種の「反抗」や「理解されなさ」に ついて思ったはずなのに。 自分が親になってみると、親としての立場の難しさに驚きます。 どうしても、よかれと思ってあれこれ言いたくなるんですよね。 自分が子供のときは親からあれこれ言われたくなかったくせに。

親になってみて思うのは、 自分は子供に対して何もできてないなということ。それに比べると、 私の親は自分に対していろいろとうまくやってくれたんだな、 と思わざるを得ません。 つくづく「子を持って知る親の恩」という言葉の深さを考えます。

どうして自分は子供のとき、 親も自分のような若い時代があったのだと想像できなかったんだろう。 親も同じように悩んだのだ、とどうして思えなかったんだろう。 そんなことを考えます。

人間の想像力というのはその程度のものなのかもしれません。 実際にその立場になってみないとわからないことはたくさんある。

うん。そうだね。

自分はこれから年齢を加えていくのが楽しみです。 きっと、若い人にはまだまだ理解できない世界を体験し、 理解していくチャンスがやってくるわけですから。

そんなこんなですが、 さあ、今日の一日もていねいに過ごしていきましょう!

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今回の結城メルマガのメインコンテンツは「数学ガールの誕生」(6)です。 早く書籍にまとめたいと思っていますので、今週から何回かこの企画が 連続するかもしれません。どうぞよろしくお願いします。

それでは、お読みください!

目次

  • はじめに - 段取りと想像力
  • 本を書く心がけ - 講演「数学ガールの誕生」(6)
  • 文章を書く心がけ - コミックのコラムを書く
  • 次回予告 - 講演「数学ガールの誕生」(7)