結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2014年7月8日 Vol.119
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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台風が近づいているということで、 関東近郊はとてもどよんとした天気です。 いかがお過ごしですか。
結城は相変わらず本を書く仕事をしています。 佳境に入っているのは、
『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』
『数学文章作法 推敲編』
の二冊ですね。毎日のようにそれぞれの原稿を読み、 加筆したり削除したり……いつもの生活といえばそうなのですが。
「数列の広場」はまだ第3章と奮闘中です。 読み返すとどうしても荒いところが見つかるので、 やすりを掛けたり磨いたりと奮闘中。
文章を読んでいるときに大敵なのは眠気です。 特に、曇天の日の食後というのはとても眠くなってしまいます。 どうしても眠いときにはアイマスクを付けて十分くらい仮眠を取ることもあります。
それからよく体験するのは、 文章を読んでいてどうも調子がでないときには、 別の種類の作業(たとえば図版を整理する作業)をすると、 うまく頭が切り替わるということです。 時間が効率的に使え、しかも疲れも少なくなるようです。
天気の「どよん」に負けずにがんばろう!
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言葉が登場するところでは、ときどきおもしろい工夫が見られます。 先日「感想.zip」という言葉を見かけました。
◆言いたいことを一言に圧縮する「感想.zip」とは…?
http://togech.jp/2014/07/02/99400
言いたいことがありすぎてしょうがないときに、 「おもしろかったです.zip」のように表現するというもの。 .zip というのは圧縮ファイルに使う拡張子で、このファイルを展開すると、 もっと大きなファイルが出てきますよというニュアンスでしょうね。
「おもしろかったです」だけじゃなくて、 もっとたくさん感想言いたいんだけど、もうおもしろすぎて、 わあああっとなってしまって、表現しきれないときに「.zip」をつけて、 「もっと言いたいことはたくさんあるんですが、言葉になりません!」 というニュアンスを付け加えるとのこと。
なるほどな、と思いました。
もちろん、「どう」おもしろかったのか、「どんなところが」おもしろかったのか はまったく伝わらないわけですが、 「おもしろかったです」の背後にたくさんの気持ちがあるんだよ!という熱意は ちょっぴり伝わるかもしれませんね。
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もう一つ言語表現上の工夫の話。
複数人が同時に同じ発言をする様子を、 カギ括弧を重ねて表現する技法があります。 主にライトノベルで使われているものですが、 それについてTwitterで話題になっていました。
◆ラノベでカギ括弧を重ねて使うのはズルなのか技法なのか
http://togetter.com/li/686586
どういう技法かというと、たとえば複数人が同時に「はい!」と返事をするのを、
「「「はい!」」」
と表記するというものです。
結城はこれを初めて見たとき「すごい!」と思ったのを覚えています。 すごい発明ですよね。何がすごいって、何が起こっているか説明不要なところ。 新しい記号を使うのではなく既存の「 」という記号を利用して、 新しい表現を作り出したんだなあと思いました。
どんな場合にも使えるかというと難しいですし、 自分で使うかというとよくわかりませんが、 少なくとも一つの技法ではある、と思いましたね。
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先日、立教大学公認フリーペーパーSt.Paul's Campus(セントポールズキャンパス) さんからインタビューを受けました。二ページほどの短いインタビューですが、 学ぶことや「謎」を中心に答えたものがこのフリーペーパーの105号に掲載されています。 残念ながらWebからは読めないようですね。
このフリーペーパーは、 基本的には立教大学キャンパスでの配布と池袋で配布されるものです。 もしも希望する方には送料を負担していただく形で郵送もできるということなので、 ご興味のある方は、 @spc_rikkyo さんか、以下のアドレスからコンタクトを取ってください。
◆立教大学公認フリーペーパーSt.Paul's Campus(セントポールズキャンパス)
http://spc-rikkyo.wix.com/st-pauls-campus
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毎日本を書く仕事をしていると、「継続性」についてよく思う。
現代流行の何かに振り回されそうになったとき、 私はよくこんなシンプルな問いかけをする。
「昨年流行していたもの、今年はどうなった?」
とっても流行っていて、いかにもすごいという多くのものが、 あっというまに見えなくなってしまう。諸行無常である。
自分の時間を何に投資しようか。 来年消え去るものに投資するか、三年もつものに投資するか、永遠に投資するか。
答えは単純ではないし、予想が外れることもある。 でも、現代の何かに振り回されそうになったとき、
「昨年流行していたもの、今年はどうなった?」
と問いかけるのはそれほど悪い習慣ではない。 今年流行したものも、来年はほぼ同じ運命をたどるだろうから。
『ナルニア国物語』の作者C.S.ルイスが言ったこんな言葉が好きだ。
「永遠につながっていないものは、永遠に時代遅れである」
そして、永遠につながるためには現在につながっていなければならない。 現在こそが永遠に通じているゲイトウエイである。
過去に縛られている人は多い。 現在をないがしろにして未来だけを夢見ている人も多い。 もちろん、過去に学ばないのは愚かであり、未来を夢見ないのは虚しい。 でも、リアルな行動は現在にしか起こせない。 一歩を進められるのは今しかない。
過去に縛られている人は現在の自分を殺している。 未来だけを見ている人は現在の自分を無視している。 そして、現在の自分を殺し、現在の自分を無視してなにができるというのか。
毎日本を書く仕事をしていると、「継続性」についてよく思う…… それはきっと亡き父の口癖が「継続は力なり」だったからだろう。
今日も、現在の、目の前の小さな仕事に向かおう。 過去に学びつつも。未来を夢見つつも。
ささやかな、今日の一歩を進めよう。
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ではそろそろ、結城メルマガを始めます。
今回は「フロー・ライティング」のコーナーで、「深く潜る」という読み物をお届けします。
また「Q&A」のコーナーでは「息子さんから「文章を書く仕事がしたい」といわれたら?」 というユニークな質問に答えます。
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目次
- はじめに
- フロー・ライティング - 深く潜る
- フリーランスで働くということ
- Q&A - 息子さんから「文章を書く仕事がしたい」といわれたら?
- おわりに