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これからのアーティストコミュニティ構築に必要な3つのこと
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これからのアーティストコミュニティ構築に必要な3つのこと

2013-03-21 09:04
     

    コミュニティから生まれる消費 

    前回は、エンターテイメントに消費を生み出すために必要な要素を考えてみたが、今回は特にアーティストに焦点を絞って、アーティストコミィニティについて考えてみたい。

     

    エンターテイメントに消費を生む3つの心理(2013/2/28)

     

    消費を生み出す仕掛けとしての“ストーリー”、“支える心理”、“再創造”といったものを下支えするのは、ユーザーとの継続的な関係性であり、継続的な関係性を構築するのはコミュニティである。アーティストコミュニティとしては、これまでファンクラブがその役割を担っていたが、これまでのファンクラブよりも一層敷居を低く、また、FacebookやTwitterといったオープンなプラットフォームもコミュニティの一つの要素として含めることで、より広くコミュニティを捉えていくことになるだろう。

     

    コミュニティが機能する前提として、ソーシャルメディアの存在は大きな意味を持っている。ソーシャルメディアの存在が、オンライン上で情報や感情の共有を、即時にまた広域に発生させ、無数の小規模なコミュニティを作りうるインフラを整えている。アーティストにとっては、そのバリュー(認知度やライブ動員規模)に関わらず、コミュニティを形成することは一層容易となった。

     

    “リリースタイミング”という死語

    コミュニティを考える上で、認識を変えるべきなのは、“リリースタイミング”という概念だ。これまでアーティストとユーザーの接点は、CD(音源)のリリースというタイミングで初めて生まれていた。CD(音源)のリリースタイミングを起点に、プロモーション素材(アーティスト写真、ジャケット写真、ミュージックビデオ)が作られ、リリースタイミングに合わせて各素材やコメントがメディアに露出し、リリース後にライブ(ツアー)を行うといった一連の流れが確立されていた。アーティストにとっての“活動”の起点は音源のリリースであり、リリースタイミングに長い間隔があくことは“活動感”が薄れるということで一つのリスクでもあった。

     

    もちろん今後も音源は、あるタイミングで“リリース”されていくであろうが、アーティストとファンの接点はリリースに関係なく継続的に存在し、関係を構築していかざるを得ない状況になっている。そして、継続的な関係を下支えするコミュニティにおいて、音源やグッズ、ライブといったコンテンツがコミュニティに参加しているユーザーによって消費される。ジャニーズやAKB48のように、大きな “コミュニティ”を持つアーティストが、継続的にファンとの関係を構築して行く中で、結果として音源、ライブ、イベントといったコンテンツの消費を増やしている。ある特定のタイミングで「アーティスト→メディア→個人」という1本の線の上で発生するのではなく、コミュニティという“面”の中で、継続的に消費されるようになる。

      

    アーティストコミュニティを考えたとき、必要なことは階層、参加、メッセージの3つがある。一つは、コミュニティが階層のある構造として各階層に適したコンテンツが提供される事、ユーザーがアーティストと対等な関係性で”参加”する機会が提供される事、そして、メッセージと価値観が共有されているという事だ。

     

     

     

     

     

    ① 階層 〜フリーコンテンツとプレミアムコンテンツ〜

     

    ・ ソーシャルメディアから会員制部分までの階層化

    ・ 誰もがフリーで視聴出来るコンテンツ、参加出来るイベントの存在 

    ・ 上層の会員のみがアクセス出来るコンテンツや提供される情報の存在

     

    ファンクラブというコミュニティはこれまで、一部のロイヤリティの高いファンに対して特典を提供する場という意味合いが強かった。しかし今後は、誰もがアクセス可能なソーシャルメディアと、登録制のオリジナルなプラットフォームを両方含め、より広くて階層的な組織として、各層に合ったコンテンツが提供される場となる。Facebookを始めとするソーシャルメディアに非公式に形成されるアーティストコミュニティには、 “フリー”なコンテンツが求められる。フリーに視聴可能なコンテンツをUPすることは、より多くの層に“体験”を提供して将来的に発生する価値を見込むという意味で、全く見合っている投資と考えて良いだろう。また投げ銭ライブといった機会の提供も同様に考えられる。

     

    AK48のファンクラブ“二本柱の会”が、その年会費を480円としたことが象徴的なように、会員制の部分に関しても、これまで4,000円が相場であったファンクラブの敷居は一層低いものとなっていくだろう。一方で、ロイヤリティの高いファンに対するインセンティブの存在は大切であり、フリーでアクセス出来るコンテンツの存在と同様に、上位の階層のファンのみがアクセス出来るコンテンツの存在は不可欠だ。

    小西圭介氏の「ブランドコミュニティ戦略」の中では“創造者”、“編集者”、“評価者”、“閲覧者”という層の存在が指摘されているように、ある商品やブランドのファンの中には、そのロイヤリティの高低以外にも、アクションする内容によっても階層が存在する。アーティストファンに関しては、一部Creator層が存在することは感覚的にも認識出来るところである。音源緒リミックスや画像のマッシュアップ、コスプレなどの創作をモチベーション高く行う層が確実に存在しており、そういったファンに対して、“音源”や“映像”の素材を提供することと同時に、それに対する2次創作のオフィシャルな許可を提供することも重要になる。

     

     

    ② 参加 〜平等に参加し、承認される喜び〜

     

    ・ オープンなプラットフォームへの投稿物に対する公認

    ・ ユーザーが画像、映像、コメントの投稿といったアクションをとれる仕組み

    ・ イベントやライブといったリアルな場の存在

     

    Lady Gaga のオリジナルコミュニティ“LittleMonsters .com”は当初、Pinterest的と評されたが、そこではユーザーが画像を投稿し、お互い評価が出来るという行為が可能で、そのアクションを通じてコミュニティへの“参加体験”を得られるようになっている。これまでのファンクラブは、アーティストサイドからメッセージや特典をユーザーサイドに与えるためのものであった。しかし、新しいアーティストコミュニティは、アーティストもユーザーも対等な立場で参加するのであり、ユーザーサイドからのアクションの機会無しには存在しえない。

     

    ファンによるアーティストの似顔絵などが事務所に送られてきたり、ネットにUPされることはこれまでも良くあるものだったが、それをコミュニティ内で共有出来ることの価値は、ファンにとっても大きい。LitteleMonsters.comでは上記のように “Fan Art”という項目があり、ファンによるGagaの似顔絵をUPし共有する事が出来る。またそれに対する評価の要素があることで、ユーザーは“承認”を得られた気分になれる。

     

    また、Lady Gagaは、ファンの女の子が自らGagaの楽曲を歌唱してYouTubeにUPした動画に対して、Twitterを通じて“感動した”とコメントし、実際にその女の子とライブで共演するに至っている。YouTubeやTwitter、FacebookなどのオープンなプラットフォームにUPされたコンテンツに対してアーティストサイドから“公認”や“承認”を与えることはファンにとって大きな価値であり、そうすることでユーザーは例え会員制のファンクラブに登録していなくても、高いロイヤリティをもったコミュニティへの参加者となってくれるであろう。

     

    最後に、オンラインコミュニティには両軸としてオフラインの場が提供されなければ行けない。ほとんどのアーティストに関してはライブやイベントという場が存在するかと思うが、場への“参加”という体験もユーザーにとって重要な価値創造の瞬間である。

     

    ③ メッセージ 〜共有される価値観〜

     

    ・ そのアーティストから発信されるメッセージの存在

    ・ メッセージを通じた価値観の共有

    ・ 行動を促すモチベーションの存在 

     

    企業活動においても、CSRからCSV(Creating Shared Value)が大事だという価値観がマイケルポーター氏にとって提唱され、企業は社会と共有する価値を創造していくべきだという視点に中も注目が集まっている。従来のように、企業イメージ向上のために行う社会貢献活動(CSR)ではなく、より社会に対して大きな価値を生みうる活動、またその前提として企業と顧客が価値観を共有し、企業活動を通じて “社会”への価値提供が大切ということだ。

     

    企業とその顧客という大きなコミュニティ同様、アーティストコミュニティにおいてでも、アーティストから発信されるメッセージを通じて、アーティストとユーザーが価値観を共有し、そして時にコミュニティ参加者全体が行動に移すようなモチベーションを持つ、そういったことが大事になってきている。アーティストから発信されるメッセージとは、アーティストがアーティストたり得るものであり、この曲には“みんなを勇気づけたい”という想いがこめられていますといった、単一のコンテンツに込められた想いとは異なるものだ。

     

    Michael Jackson、Madonna、そしてLadyGagaと、アーティストが発信してきたメッセージは、個別の作品のセールスを押し上げるだけではなく、時に文化的なムーブメントを生み出すパワーを持つ。Lady Gagaは、これまでの歌姫のステレオタイプとは異なるものを持ち合わせ、“ありのままの自分を愛して表現する事がかっこいい”といった本人の信念が、そのアーティスト活動に表れている。だからこそ、Little Monsters(Lady Gagaファンの呼称)はその価値観を共有し、繋がりを感じて強い絆で結ばれたコミュニティを形成するに至っている。

     

    また、例えば“apbank”というフェスは、『Artists Power』もしくは『Alternative Power』の略をそのフェス名に冠するように、アーティストのパワーを活用して環境プロジェクトへの融資をはじめ、持続可能な社会を創るための様々な活動を行う組織と定義されている。そのため、イベントの収益は環境をはじめとするさまざまなプロジェクトの支援や推進のための資金となる。

     

    フェスというコミュニティへ参加するユーザーは、もちろん音楽を聴き、アーティストを観に行くことに価値を見出すが、その自分の行動が何かしら社会と結びつき、また価値を生み出すものに繋がっていると実感出来る事が非常に重要だ。それはコミュニティに参加する意味ともなる。apbankも他のフェス同様に様々な飲食ブースが並ぶが、持続可能な社会を創るという理念を掲げていることで、参加者にはマイ箸の持参や、ゴミはゴミ袋に入れて会場に残さないといった行動が推奨される。ユーザーは、そういった行動もapbankフェスの体験の一部と感じて行動をする。参加者同士が理念を共有して、行動するからこそ、一層そのコミュニティへのロイヤリティは高まり、また継続性が生まれるのだ。

     

     

    今回は、新しいアーティストコミュニティについて考えてみたが、次回はアーティストコミュニティが生み出すムーブメントについて考えてみたい。

     

    Photo:「Community」By planeta


    by 矢野 悠貴
    RSSブログ情報:http://media.looops.net/yano/2013/03/21/artistcommunity/
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