こうこうである!と言い切れれば楽なのですが、一概に言い切れないのが現実です。
このブログ記事では、言い切れない代わりに、SEO対策とPPC広告の予算配分の検討のための5つの参考情報をまとめます。
1.自然検索とPPC広告のクリック割合は「8:2」
検索エンジンの検索結果には、自然検索のエリアとPPC広告のエリアがあります。この2つのエリアがそれぞれどの程度の割合でクリックされるかは、自然検索とPPC広告の予算配分の参考になるはずです。
この調査データは日本のものが見当たらないため、海外の情報を元にまとめます。
SEO in Philadelphiaの調査データ
2011年9月に出されたSEO in Philadelphiaの調査データによると、自然検索の10位までの合計クリック率は52.48%で、PPCのそれは13.01%です。
この合計を100%にして算出し直すと、自然検索のクリック率:PPCのクリック率は80.13%:19.87%となり、約8:2の割合です。
SEO in Philadelphiaの調査レポート(PDF)
ペンシルバニア州立大と豪州クイーンズランド大の調査論文
ペンシルバニア州立大のドクターと豪州クイーンズランド大の教授の共同論文として、2009年に同様の内容が報告されています。
少々古いデータではありますが、その論文によると、自然検索の合計クリック率は54.5%で、PPCのそれは10.2%です。
こちらも、この合計を100%にして算出し直すと、自然検索のクリック率:PPCのクリック率は84.2%:15.8%となります。
これら調査は、色々と前提条件を置いているものの、概ね自然検索のクリック:PPC広告のクリックは約8:2の割合と言えそうです。
※自然検索のクリック率がもっと高い調査結果もありましたが、PPCを考慮に入れていない可能性があることから、自然検索とPPCが同時に調査され、かつ元々の数字に「クリックしない」の数値も考慮されている、上記2つの調査結果のみ紹介します。
2.リード獲得のインパクトは「 自然検索 > PPC広告 」
カリフォルニア州を拠点に活動するウェブマーケティング 123社の調査「2012 State of Digital Marketing Report」によると、BtoBマーケッターの59%、BtoCマーケッターの49%は、リード獲得においてSEOの効果が最も高いと回答しています。
この結果は、BtoBにおいては、SEO(59%)はPPC(20%)の約3倍、BtoCにおいては、SEO(49%)はPPC(26%)の約2倍です。
この調査結果は、リード獲得数そのものの比較ではなく、また注力施策は回答企業によって違うものの、自然検索とPPC広告を比較検討する一つの参考情報にはなるでしょう。
3.自然検索とPPC広告の管理キーワード数の違い
自然検索とPPC広告の管理キーワード数の違いも、予算配分を検討するための材料になるでしょう。
SEOやウェブマーケティング関連のセミナーで話した際、SEO対策で管理するキーワード数と、PPC広告で管理するキーワード数を、参加者の方に挙手の形で伺ったことがあります。
そのときの大体の結果は次のようなものです。(下の数字は挙手した方の割合)
【PPC広告で管理しているキーワード数】
・10000〜キーワード: 6〜7割程度(半分以上)
・1000〜10000キーワード:3〜4割程度
・〜1000キーワード: ほぼゼロ
【SEOで管理しているキーワード数】
・10000〜キーワード: 1割未満〜1割程度
・1000〜10000キーワード:3〜4割程度
・〜1000キーワード: 5〜6割程度(半分以上)
セミナー参加者は数十名であり、また挙手の数を一人一人正確に数えたわけではありませんので、上記数字がどこまで現実を正確に表しているか疑問は残るところはあります。
しかし、この挙手結果に対して率直に感じたのは、PPC広告に比べてSEOは圧倒的に管理されていないことです。「1.自然検索とPPC広告のクリック割合は8:2」、「2.リード獲得のインパクトは 自然検索 > PPC広告 」であることを踏まえると、SEOの機会損失は多そうです。
SEOをPPC広告と近しいレベルで管理している会社は割合としてごく一部ですが、そのような会社では競争の観点から他社と比較して相対的にうまくいっている、もしくは現時点まだ試行錯誤段階でも相応の活用データが蓄積できているのでは、と感じます。
4.自然検索とPPC広告の相乗効果とカニバライズ
検索するユーザーに、適切に情報を表示して自社サイトに呼び込むために、企業としてとりうる手段がSEO施策とPPC広告です。
この2つは、両方行うことで総クリック率が高まるという相乗効果がある一方で、自然検索で獲得できるものをわざわざお金を出して(PPC広告)獲得するというカニバライズが起こっている、という2つの逆説的な主張の両方が存在します。
※ここで言うカニバライズとは、自然検索で上位表示されているキーワードに対してもリスティング広告が上位表示されており、無料で得られるはずの自然検索流入(本当はページ作成などがあり無料ではないですが)に対して、わざわざお金を出して流入を得ること、を指します。
これら主張は、広告サイドの事業者は「相乗効果」寄りの主張をしがちであり、SEOサイドの事業者は「カニバライズ」寄りの主張をしがちです。誰もが自身がやっていることの効果は主張したいものです。
「相乗効果」or「カニバライズ」に対する明確な根拠や、数字ベースの調査結果を持っていないため、私の経験を元に書かせて頂きます。
過去、ウェブサイトのユーザビリティテストを何度か行い、その際にテスト被験者のの検索行動を観察したことがあります。延べ十数人〜二十人程度だと思います。その経験を通じて私が感じたのは、何かしらの属性や経験によりクリック箇所が変わるよりも、検索結果のページでマウスを動かす個々人の”クセ”によりクリック箇所が変わることです。
説明がコンパクトで見やすいと(それを広告と認識せずに)リスティングエリアを探す人、広告は嫌だと自然検索結果を探す人、上には変なのが多いからと7位8位くらいから見始める人、単純に上から見ていき自然検索の1位を4番目と理解している人。
その総体として、記述の「自然検索:PPC広告 = 8:2」というクリック割合に落ち着くのでしょうが、個々人ベースで見ると、クセ以外に感じられませんでした。
その経験を通じて私が感じるのは、カニバライズは言われるほど発生してないのではないか、ということです。Aさんは、Aさんのクセにより自然検索結果をクリックし、Bさんは、Bさんのクセによりリスティングをクリックする、私はそのように理解しています。
SEMに億単位の費用を投じていれば話は別ですが、そうでなければカニバライズの調査に時間とお金を使う方が、費用対効果は悪いような気もします。
※カニバライズに関して、私の感覚は間違っていると判断できる情報や調査結果をご存知の場合、是非ご指摘頂ければ甚大です。
5.増加し続ける検索回数
SEO or PPC広告ではありませんが、SEO/PPC広告両方含めたSEMを検討するにあたっては、検索回数の推移の把握はかかせません。
アメリカの調査会社comScoreの調査によると、検索エンジンの検索回数は、今なお増加傾向にあります。アメリカの数字は次のようなものです。
・2009年7月:136億回
・2010年7月:166億回
・2011年7月:192億回
comScore Releases July 2011 U.S. Search Engine Rankings
インターネット利用時間は、モバイルの広がりとも相まって今でも年々増加しており、ネット利用時間が増えれば検索をするボリュームも増えるという、言われてみれば当たり前の流れです。
検索回数の増加に直接的に触れられているわけではありませんが、昨年Googleが提唱したZMOTは、昨今の消費者の動きをうまく言い表している概念だと思います。
・http://www.zeromomentoftruth.com/
・Googleが提唱するZMOT(Zero Moment of Truth)と消費者の新しいメンタルモデルとは?
まとめ:SEO対策への投資金額を増やせということか!?
ここまで読むと、結局は「PPC広告の投資金額を減らし、SEO対策への投資金額を増やせ」と言いたいのか?と思うかもしれません。
私は、これは基本的には「No」だと考えています。
この記事は、敢えてSEO or PPC広告、にフォーカスを絞って書いており、SEM(SEO+PPC広告)関連予算として使える投資額が固定化されている場合で、かつあまりにPPC広告偏重の予算配分の場合は、SEO対策への投資割合を増やす方が妥当でしょう。
しかし本来的には、もう1段高いレイヤーの判断が先です。
この記事では詳細は割愛しますが、消費者のメディア接触におけるデジタルシフトは着実に進んでおり、それに合わせてマーケティングコミュニケーション投資もデジタルシフトさせることが必要だと考えています。
つまり、SEO or PPC広告だけではなく、次の3点をセットにして検討すべきだと考えます。
・マーケティングコミュニケーション予算のデジタル関連予算を増やす(割合も金額も)
・デジタル関連予算の増加に合わせて、SEM関連予算も増やす
・SEM関連予算の内訳として、SEO関連予算を増やす
【参考情報】
・ついにネットメディア接触時間が4マスを超えた、東京の若者のメディア接触状況
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">by 清水 昌浩