様々な環境の変化により時代のターニングポイントになるであろう2013年を、テクノロジー、ユーザーエクスペリエンス、モバイル、オンラインマーケティングのそれぞれのカテゴリーにおいて、それぞれ3つのポイントからやや大胆ではあるが、トレンドを予測してみたい。
テクノロジー:
1. デジタルデバイスがより人間に近づく
ここ数年”コンピューター”というもの自体が特別なものでは無くなり、”デジタル”デバイスがより多くの人の日常生活に受け入れられている。 パソコンやスマートフォン、タブレット等のデバイスは2012年の時点で性能面においてはユーザーが必要としているレベルまで到達しきった思われる。それらのデバイスに対して、早さ、薄さ、軽さを求める時代は終焉を告げ、今年はより直感に訴えるヒューマン・セントリックなデジタルデバイスの発表が期待される。数字で表す事の出来る性能値よりも、その存在を感じさせない程の使い易さがキーとなり、より生活の一部としてのナチュラルな存在となる。
そして、NestやSiriに代表される人工知能を搭載したデバイスがより発達し、使い込む程にデバイス自体がユーザーの行動パターンに合わせて常に進化し続ける。2013年はついにターミネーター誕生元年になるかもしれない。
2. 自動車に関連するテクノロジーが急激に進化する
テクノロジーと言うと、インターネット、パソコン、モバイル等のIT系を連想する事が多いが、車大国のアメリカでは自動車におけるテクノロジーの進歩が国民の生活に大きな影響を与える。衝突安全性や事故回避等の人命に関わる性能から、燃費やメンテナンス性等の経済面までテクノロジーが自動車に与えるメリットは大きい。2013年は自動車に対するテクノロジーの進化にも注目したい。
Googleは2017年までに完全自動で動く車を開発すると発表し現在開発中である。シリコンバレー界隈でも稀にだがGoogleカーの目撃談もある。実際、現自動車オーナーの三分の一以上が購入に前向きだと答えたリサーチ結果も出ている。これでも分かる通り、テクノロジーが売りのGoogleが自動車を開発する時代が近づいている。一方で、BMW, GM, Volvo, Volkswagen, Mercedes-Benz, Cadillac等の既存自動車メーカーもこのレースに参加し、自動運転テクノロジーの開発を進めている。
おそらく2013年時点ではまだそこまでは行かないが、自動車とテクノロジーの融合がより進む事が予想される。既に現時点で自動衝突回避システムや自動縦列駐車が実装されている車もあり、自動車産業がネットとの融合、最新テクノロジーの導入を進める事で、車のスマホ化が進む。例えばダッシュボードの計器類は全てタブレットデバイスで表示。エンジン、タイヤ、バッテリー等の各パーツの調子も知らせてくれる。デバイスを随時ネットに接続する事で、GPSナビゲーションはおろか、FacebookやYelp等のサービスを利用し近くにあるお店や友達を見つける事が出来る。また、ネットを介したソフトウェアアップデートで自動車自体がバージョンアップする。自動車は鉄の塊からテクノロジーの塊にシフトし、まるで大きなスマートフォンになるだろう。
上記のGoogleや同じシリコンバレーでEVを開発するTesla社に代表される様に、2013年は自動車におけるテクノロジーの占める比重が非常に大きくなり、自動車産業にとっても大きなターニングポイントになる事が予想される。
3. イノベーションにおけるハードウェアの重要性がアップする
2013年のテクノロジー面で最も注目しているのはハードウェアである。それも既存のハードウェアの進化ではなく、新しいハードウェアの誕生によるイノベーションに期待が寄せられる。その理由は大きく2つある。まずソフトウェアやネットサービス等、画面で表現/体験出来るサービスが出きってしまっている感があり、これ以上の大きなイノベーションが考えにくい事。そして、ハードウェア開発を取り巻く環境の充実である。
恐らくこれまでの環境では、画期的なハードウェアを開発、展開出来たのはAppleに代表される比較的規模の大きな企業が主流であった。しかしながら,各パーツのモジュール化や、製作プロセスの簡易化で比較的小さな企業でもハードウェアプロダクトの開発が可能になってきている。そして、今年2013年はより小さな資本/規模でも気軽にハードウェアプロダクトの製作が出来るようになると考えられる。
去年まではシリコンバレーの投資家の多くが、次のGoogleやFacebookになる企業を探し求めていた。しかし、ふと見渡してみるとPCでもモバイルでも画面上だけで全く新しいプロダクトを提供する事には無理がある事に気づき、ハードウェアの助け無しでは今後画期的なプロダクトは生まれない事を確信した。そして、Square, Lytroなどのハードウェアとネットを融合させたスタートアップに彼らの注目が集まり始めた。
2012年サンフランシスコ界隈のスタートアップコミュニティでは、ハードウェアの開発を行うチームが徐々に増え始め、Startup Weekend Bay Areaでは、初のハードウェアを作る”Make”と呼ばれるイベントが開催された。このイベントはTechShopと呼ばれるハードウェア製作の機器が備わったCoworkingで行われた。この施設は、月額費用でメンバーが利用可能。このような設備の普及もより気軽にハードウェア開発環境の充実を象徴している。
そのTechShopにも備えられている3Dプリンターは、6年前は300万円以上したが今では1/10近い値段で手に入れる事が可能。その事からも分かる通り、現在は小ロットでのハードウェアプロダクションが可能になってきており、低コスト化が急激に進んでいる。また、Shapeways, Ponoko, Sculpteo, i.materialiseの様なサービスを利用する事で、自分のデザインしたハードウェアプロダクトがネットを介して製作を発注し、製品化してもらう事も出来る。サーバーやサービス開発インフラがクラウド化して行ったと同様に、今後ハードウェアプロダクションが、このようにどんどんクラウド化する事が予想される。また、ハードウェアを取り巻くテクノロジーとインフラの進化により、経験の少ないデザイナーでも既存のハードウェア設計図からのコピーペーストを活用する事で、それなりのプロダクトが創り出せる様になるだろう。
2013年はより小さなスタートアップや個人がどんどん画期的なハードウェアを創り出し、もしかしたら近いうちにハードウェアデバイスも購入するユーザー一人一人がデザインや仕様をある程度カスタマズ可能になるかもしれない。
ユーザーエクスペリエンス (UX):
1. スペックやデザインの時代からUXの時代へ
2012年に引き続き、今年はよりユーザーエクスペリエンスの重要性が上がると考えられる。数値で表現出来る性能や見た目の美しさだけではユーザーの心を動かす事は難しく、商品やサービスにおける総合的な体験がヒットするプロダクトを生み出す最も重要なファクターとなる。言い換えると、「どのようなものか」や「どう見えるか」よりも「どんな体験が出来るか」が重要になり、似通ったプロダクトが多いこの時代に差別化出来るのはユーザーエクスペリエンスだけといっても過言ではないと思われる。
そして、このユーザーエクスペリエンス (UX)の概念はテクノロジーとの関係の薄い業界でも重要なファクターとなり、商品の企画、製作、運営、プロモーションの各プロセスにおいて成功を握る大きなカギとなるであろう。現にアメリカのMcCann-Erickson社ではこのユーザーエクスペリエンスを司る、Chief Experience Officers (CXO)という役職が存在する。
2013年はよりシンプルで分かりやすく、それでいてナチュラルで心地よいユーザー経験を提供する商品、サービス、店舗、企画が成功を収める年となるだろう。
2. インターフェイスの概念が消える
ユーザーエクスペリエンス (UX)と併せてよく語られるのがユーザーインターフェイス (UI)である。パソコンの画面やスマートフォンの画面、自動車のダッシュボード、テレビのリモコン等のユーザーとデバイスの接点がそれにあたるが、2013年はこのインターフェイスが急激に進化を遂げ、そして最終的にはその存在概念自体が消えてしまうだろう。しかし、実は消えてしまうわけでは無く、ユーザーがその存在に気づかない程ナチュラルな存在になる。以前にこちらのポストでも説明した通り、最も優れたインターフェイスはその存在をユーザーに感じさせない。
これまでのテクノロジーの進化により、より日常生活で人間が接触する多くの箇所がインターフェイスになり、ユーザーの生活におけるあらゆる箇所でよりナチュラルなインタラクションが行われる。そしてそれは今までマウスやキーボード、タッチデバイスからのインプット操作よりも遥かに直感的なものとなる。例えばアメリカのとある小売店ではジェスチャーによるユーザー体験を会計の際に提供している。
2013年は既存のインターフェイスの概念が書き換えられ、5感+αを利用した”目に見えない”インターフェイスが提供するエクスペリエンスが発達するだろう。各種センサーを駆使し、音、声、動き、タッチ、ジェスチャー、場所,温度、目の動き、そして匂い等のユーザーから得られるあらゆる情報をデバイスが感知し、ユーザーからの能動的アクションを極力抑える事で、無意識のうちにユーザーが求める最適なアウトプットを準備する。こんな時代がついに実現する。
3. 生活の一部から体の一部へ
時代と共にコンピューターの存在がどんどん目に見えにくくなってきてる。テクノロジーにおけるクラウド化が進み、日常生活にとけ込んできている。日々の生活でユーザーが気づかない所で様々なテクノロジーが動き、便利機能を提供する。そんなナチュラルなユーザーエクスペリエンスの次のトレンドは体の一部となる事。テクノロジーが体にとけ込む事で、究極のエクスペリエンスが実現される。
体に装着出来るウェアラブルコンピューターは以前より話題なっており、Googleが提供する顔認識テクノロジーを活用したゴーグルや、バイオセンサーを利用したセキュリティーシステム、ユーザー毎の認識で最適なエクスペリエンスを提供するデバイスの開発も進む。2013年はデジタルデバイスが体の一部になるであろう。人間と機械の融合と聞くとSFホラーのようで少し怖いが、2013年はそんな年になるかもしれない。
モバイル:
1. iOS vs Android: 勝者は両者
これまで随分と長い間、iPhoneやiPadに代表されるAppleのiOSデバイスとGoogleが提供するAndroidを搭載したデバイスの戦いが語られてきた。毎年それぞれのシェア率が発表され、マーケットがそれに反応した。しかしながら、冷静に考えてみると2013年も恐らく両社ともに繁栄するだろう。全世界のスマートデバイスユーザーの実に85%以上が上記のどちらかのデバイスを使っている。それに加え、最近は両方のデバイスを複数保持するユーザーが増え、単純にスマホやタブレット等のデバイスの普及がより進む。それによりiOSもAndroidもよりユーザーが増えるだろう。両者が勝者である。
ここにきて少し気になるのはWindows 8搭載のモバイルデバイスの存在である。かなりの後発ではあるが、UI/UXがかなり卓越でPCデバイスとの統一性を考えると、2013年にはかなりの巻き返しが行われる可能性も低く無い。その一方で、RIMが提供するBlack Berryは終焉を迎える気配が強い。
2. モバイルコマースが普及し始める
Eコマース業界において今だモバイルからの売り上げは大きくはない。しかしながら、2013年を機にモバイルコマースへの注目が一層高まるであろう。理由としては、今までパソコンとモバイルを併用していたユーザーに加え、モバイルのみ、もしくはモバイルがメインのデバイスとして利用しているユーザーの増加と、その平均年齢の上昇が考えられる。多くのEコマースサイトはクレジットカードをメインの決済方法として採用しており、18歳以下のユーザーからの売り上げ見込みが非常に低かった。その一方でティーンエイジャー達の多くはパソコンよりもモバイルデバイスの利用時間が長く、自ずとオンラインショッピングもモバイルデバイスから行う事が想像できる。数年前まではクレジットカードを持てなかった消費者が2013年頃よりモバイルからオーダーをするケースがより増えると思われる。そのトレンドにあわせる様にしてFab, eBay, Etsy, Amazon等の人気オンラインストアがこぞってモバイル向けアプリやサイトの充実を図っている。
3. ARやバーチャルスクリーン等のギミックサービスが衰退する
スマートデバイスにおけるアプリはその充実した機能を活用して、AR (仮想現実)や投影型のバーチャルスクリーンを利用したサービスがここ数年注目されてきた。その一方で、そのコンセプトやインパクトの大きさに対して意外と普及しない、儲からないとの声も多い。実際の所ARを実装した実用系、遊び系、広告系アプリを利用しているユーザーは少ないし、ビジネスとしてもあまり成り立っていないケースの方が多い。また、バーチャルスクリーンを活用した Zeebox, GetGlue, Miso, IntoNow等に代表されるソーシャルTV系スタートアップも当初の話題性から考えると勢いが随分と衰えた。
2013年にモバイル関係でヒットするのはより実用性の高いサービスで、インパクト重視の奇抜なギミックはそろそろ通用しなくなってきていると思って良いだろう。
オンラインマーケティング:
1. 視覚的要素がより重要になる
オンラインにおけるユーザーアクティビティの2012年一番のトレンドは、”写真共有”だったと思われる。InstagramやPinterestの普及に加え、ソーシャルメディアを利用しているユーザーの約半数が画像の共有を頻繁に行っている。それまでは他のサイトやユーザーが掲載している画像を転載するケースは少なかったが、上記のようなサービスの普及で写真共有が急速に普及した。
その一方で、ネット上に存在するブログを始めとした文字コンテンツも増え、ユーザーが読む事の出来る許容範囲を遥かに超える洪水状態になってしまっている。
その問題に対し、アメリカの多くの企業ではオンラインマーケティングにおける視覚的要素の重要性を再認識している。Pinterestをブランドマーケティングの柱として利用している会社も増え、マーケティングにおいては、より伝える事よりも見せる事が必要とされる。2013年のトレンドとしては、ディスプレイ広告よりもインフォグラッフィックのようなよりソフトなアプローチでの知名度アップや、トラフィックの獲得、ユーザー主体での画像共有、そして様々な国籍/文化を持つユーザーに訴える事の出来る言葉を超えたヴィジュアルコミニュケーションが人気となると思われる。優れたクリエイターの腕の見せ所といった所か。
2. 効果測定の精度がアップする
オンラインマーケティングではキャンペーンに対しての効果測定が非常に重要な位置を占める。それぞれの施策に対してどのような結果が導きだされるかを出来るだけ詳細に理解する事で、より求める結果に近づく事ができる。2013年はその効果測定技術の飛躍的な進歩が見込まれる。具体的にはリアルタイムでの計測とソーシャルメディアキャンペーンに対する計測である。キャンペーン施策を行った場合、その結果が出るまで数日、もしくは数時間ですら待つ必要が無くなる。Twitterに代表されるリアルタイムコミニュケーションプラットフォームと、それに対する詳細な計測ツールがより一層普及し、ユーザーの反応が即座に手に取るように分かる様になる。また、これまで曖昧だったソーシャルメディアマーケティングに対しても、その施策結果が各コンバージョンの数字を含む詳細データとして獲得する事が可能になるだろう。
3. キーワードはSoLoMoCo
企業のマーケティングやブランディングは今後よりユーザー主体で進んで行くと考えられる。それもより細分化されたセグメントをターゲットとしたコミュニティが重要となる。アメリカのマーケターの間では、”SoLoMoCo”というキーワードが最近バズワードとなっている。これはSocial, Local, Mobile, Communityを合わせた造語で、オンラインマーケティングにおけるそれぞれの重要性を表現している。
- Social – ユーザー主体型ソーシャルメディアキャンペーン
- Local – それぞれの地域に合致したキャンペーンやブランディング
- Mobile – モバイルデバイスを主なターゲット
- Community – 商品やサービスのファンを巻き込んだコミュニティ形成型マーケティング
今後は消費者を主体として商品やサービスのプロモーションが行われる事が常識となり、広告やマーケティングキャンペーンの仕事は彼らを支える”黒子”的役割となる。
さて、皆さんは2013年、どのような年になると思われますか?
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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