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  • ファム・ファタール バーチャル背景

    2020-06-14 19:003
    100pt
    麻宮騎亜先生がZOOMに使えるバーチャル背景を作ってくださいました。
    有料会員の皆さんに一足お先に配布します。 
  • ファム・ファタール:アルテミスの祝福(作:雅や)

    2020-05-30 19:15

     ハリ・パパスはこのところその明晰な頭脳をフル稼働させていた。

     これまでの経緯を考えれば、「そう」なることは想像に難くない。「それ」だけは、なんとしても避けなければ。

    「……やっぱり確実なのは、先手必勝、かな……」

     幾度となく繰り返した脳内シミュレーションで、最善の一手を導き出す。

    「よし……この手なら」

     このところ「それ」を考えている間中、ずっと渋面だったハリ・パパスの顔にようやく笑みが浮かぶ。

    「チェックメイトだ」

     あとは、「それ」を実行に移すだけだった。


     カノン
    J.草薙は、「その日」を目前に悩んでいた。

     だって「彼」は、「食」にそれなりの「こだわり」があるように見えるのだ。

    (だから、私の作ったものじゃ満足させられないような気が……するのよねぇ)

     肥えまくったハリ・パパスの「舌」は。

     そりゃあ、心はもう「めいっぱい」込めるけれども。

    (そもそも、ハリくんの好きな食べものってなんだっけ……?)

     悩みながら廊下を歩くカノンの足元を、ピコポコと軽快な音を立てながらポーとコレがついてくる。その音に気を取られ、正面の通路を曲がって「彼」が姿を現したのに気付くのが遅れた。

    「どうかしたんですか、カノンさん?」

    「ハ、ハリくんっ!」

    「すみません、驚かせました?」

    「ううん、大丈夫……って、私、何か悩んでるように見えた?」

    「ええ。こう、眉間にシワを寄せて……すごく考え込んでいるように思いましたけど……僕で良ければ、相談に乗りますよ?」

    「ありがと、でも大丈……」

    「あ、すみません。そうですよね。僕じゃあ、カノンさんのお悩み相談の相手なんて務まらないですよね……」

     シュン、と顔を伏せてしまったハリ・パパスに、カノンが焦る。

    「あ! ち、違うのっ! ハリくんが頼りにならないとか、そういう事じゃなくて……あのね、えーっと……」

    (でも、本人に誕生日プレゼントは何がいいか聞くのって……うーーーん……)

    「……無理に話してくれなくて大丈夫ですよ……?」

    「そ、そうじゃないの! あー、もういいやっ! あのね、ハリくん! 明日のお誕生日、何か食べたいものない? 簡単に作れるものでっ!」

    「え?」

    「ほ、ほら、ハリくんグルメだし、あんまり手の込んだものは作れないけど、せっかくのお誕生日だし、お祝いしたいなーって思って……」

    「カノンさんが、僕のために手作り料理を……?」

    「イ、イヤじゃなければ、なんだけど……」

    「イヤなわけないじゃないですか! すっごく、すっごく嬉しいです!」

    「……ほんと?」

    「ええ! そうだ、僕カノンさんお手製のハニーケーキが食べたいです!」

    「ハニーケーキって、はちみつのケーキのこと?」

    「そうです。僕の故郷では誕生日のお祝いはハニーケーキが定番なんですよ」

    「へえ、そうなんだ! うん、任せて! 腕によりをかけてがんばるから……って、でも、私、ハニーケーキは作ったことないなぁ」

    「大丈夫です! 混ぜて焼くだけっていうとってもお手軽ケーキだし、それに……僕も一緒に作りますから!」

    「え?」

    「嬉しいなぁ~僕、姉がいないから、昔から『お姉ちゃんと料理する』のが夢だったんですよ」

    「そうなんだ? あ、じゃあ一緒のエプロン付けて作ろう、私、用意しとくね!」

    「ありがとうございます! じゃあ、僕はレシピの材料準備しておきますね」

    「え、それは私が……」

    「いえいえ。僕のために作ってくださるんですから、そのくらいは僕が」

    (あ、そっか。お気に入りの材料とかがあるのかな……?)

    「じゃ、じゃあ……よろしく」

    「ええ。さっそく調達に行ってきます」

     なんだかウキウキと食物倉庫の方へ歩き出すハリに、ピコポコと音を立ててポーとコレがあとを追う。

    「あ、こら。ポー、コレ、ついてくるなよ」

     追い払われて、ポーとコレはコロコロとカノンの足元に戻ってきた。

     なんだかやけに足取り軽く、ハリは去って行く。

    (ハリくん……そんなに『お姉ちゃんと料理』したかったんだ)

     その後ろ姿に、どことなく自身の弟の姿を重ね……

    (あの子は、こんなに可愛げないわ)

     自分の手料理を食べるのをなんとしてでも回避していた実弟を思い出し、カノンはふ~っと溜息をついた。


     そして翌日、ハリ・パパスの誕生日当日。

    ふたりは仲睦まじくおそろいのエプロンをつけ、(主にハリの手によって)つやつやふっくらしっとりの、まるで月のように真ん丸なハニーケーキを見事に焼き上げた。


    そう。この日を目前に、ハリ・パパスはその明晰な頭脳をフル稼働させたのだ。

     これまでの経緯を考えれば、カノンが誕生日に手料理を振る舞おうとすることは想像に難くない。「それ」だけは、なんとしても避けなければ。いや決して、祝ってくれようとする彼女の気持ちが嬉しくないというわけではないのだけれど、断じて。

    「でも……ごめんなさい、カノンさん。僕は……僕は、貴女の手作り料理を口にする勇気がどうしても出ないんです……えへっ」

    見えない角度で、ハリがペロッと舌を出していたことに、カノンはまったく気付かなかった。


    Happy,HappyBirthday Hali Pappas.0530

  • ファム・ファタール アルファ誕生日スペシャル 3月の贈りもの(作:雅や)

    2020-03-05 23:34
     カノン J.草薙は迷っていた。
     目の前には大量の白い粉がどどん!と山盛りになっている。
    (でもこれは……)
     “彼”の好みとは違う、という情報はあるのだ。
    (どう考えても、甘いのよねぇ)
    けれど。地球の古いしきたりで、「3月の贈りものには絶対に飴の菓子だ!」と聞いたのだ。仕方ないではないか。航行中の戦艦の中では、既製品を買いに行くこともできない。たまたま覗いたキッチンに、これまたたまたま粉雪のように真っ白な大量の砂糖を見つけてしまったら。
    「まぁ、とりあえず作るか!」
     己のお料理レベルは(略)、こーゆーのは気持ちが大事、なのだから。
     検索したレシピの中で、一番簡単――そうに見えた――べっこう飴。
     砂糖と水を合わせて火にかけ溶かし、形作って固めるだけだ。固める前に各種果物と絡めれば、ちょっとオシャレに、お手軽フルーツ飴のできあがり。
    (そうよ、これなら私にだって!)
     エプロンを着け腕まくりをすると、カノンは大量の粉砂糖が入った鍋に水を注ぎ、火にかけて……
    「ふぬぬぬぬぬ~~~っ!」
    木べらを小刀よろしく握りしめ、トロトロに溶け出した甘い香りのする鍋の中身を、気合いを入れてかき混ぜた。

     アルファ N.デヴォは覚悟を決めていた。
     ファム・ファタール、運命の女である少女と出会ってからこれまで周囲の者たちに聞かされてきた、数限りない彼女の“独創的”な手料理伝説……
     先月には、その餌食となった者をついに目の当たりにしたのだ。さらにその男が力尽きる寸前、お前は来月の、今日この日を楽しみにしていろと不穏な言葉を残してくれたのだから。
     3月5日。そう、今日はアルファの誕生日だった。そして今、目の前には……見るからに悪魔の食卓を思い起こさせる、ぐろぐろしい物体が。
    「カノン……これは?」
    「リンゴ飴、たぶん」
    「……では、こっちは」
    「……ぶどう飴……だったはず」
     見事なまでに真っ黒い塊と化しているソレの、中身をうかがい知ることは、外見からは到底できない。
     異臭を放ち、黒煙を吐く居住区のキッチンルームに、すわ火災かと駆けつけた面々が遠巻きに見守る中、カチコチのドス黒い塊を見つめながらアルファが小さなソレをひとつ手で摘まみ……躊躇なく自分の口に放り込む。周囲からどよめきが起こった。
     固唾を呑んで見守るカノンにアルファは、奥歯でかみ砕いて咀嚼し飲み込んだのちに、にっこりと笑みを浮かべて告げた。
    「美味しいですよ」
     その言葉に、再び周囲からどよめきが起こる。
    「ホ、ホント、アルファ!?」
    「ええ」
     さらにもう一欠片を摘まんで、口に含む。
    「あ、あの、無理はしないでね?」
    「いえ、本当に、これはなかなか……美味ですよ」
     焦げた砂糖の苦みと果物の酸味が合わさって、えもいわれぬ風味となっている。あまりに周囲に脅されていたせいか、相当の覚悟を持って今日この日を迎えたというのに。口の中に広がる味は、実にアルファ好みだったのだ。
    「よかったぁぁぁぁ! 遠慮しないで、どんどん食べてね!」
    「ありがとうカノン」

    「……えー……嘘だろ~?」
     そんな和やかな雰囲気のふたりの間に、端で見ていた以前の犠牲者が我慢しきれず割って入る。恐る恐るといった体で横から手を伸ばし、つまみ食いをした。
    ひょいパクッと黒炭のような塊を口に含んだ、その瞬間……
    「むぐぐぐぐぐっ!!!???」
     咄嗟に吐き出したにも関わらず、後味に呻いて口を押さえのたうち回る。
    「うげええええ……お前っ、正気か!? 良く食えるなっ!?」
     その様を見て、周囲からは「あ、やっぱり?」といったどよめきが起こった。
    「えええええー……そ、そんなに?」
     とんでもない無理をさせたのかと、カノンが不安気にアルファを見つめる。
    「いや、美味しいですって……苦みがこう、なんだかクセになるアクセントになっていて」
     嘘偽りのない証拠に、アルファは何の躊躇もなくもう一粒を口に入れた。
     結局どっちが本当なのかと、興味を引かれた周囲の怖いもの知らずたちが次々に黒い塊に手を伸ばし……高く高く築かれていく死屍累々。
    「わかったぞお前……極度の味覚音痴だなっ!? グルメの国の人なのに!!」
    阿鼻叫喚の轟く中、恨めしそうな阿萬の叫びが響く。
     それを涼しい顔で横目に見ながら、アルファはさらにひとつ平然と食べてのけたのだった。