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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その1
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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その1

2018-04-01 20:45
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    [本号の目次]
    1. ダイオウイカ研究のスタートライン
    2. 宿命の糸
    3. 日本産ダイオウイカのルーツを探る
    4. ダイオウイカ標本の入手
    5. 特別展にダイオウイカを展示する


    ダイオウイカ研究のスタートライン

     2013年1月にオンエアーされたNHKスペシャル「世界初撮影!深海の巨大イカ」は、海洋生物ドキュメンタリーの番組としては破格の16%台の視聴率を記録した。小笠原父島沖でアメリカ人のイディー・ウイダー博士、ニュージーランド人のスティーブ・オーシェ博士、それに日本人の私の3人の海洋生物学者が、水深1000mの深海まで潜れる有人潜水艇に乗り込み、各々の経験と学識を基に創意工夫を凝らして、今までに誰も見たことのない自然環境下でのダイオウイカの生きている姿を撮影するというプロジェクトであった。内容はともかく、潜水艇に搭載されたハイビジョンカメラで撮影された、輝くように美しいダイオウイカの姿は、日本のみならず世界中の人々に永く記憶されることになった。その映像を見た多くの人々から驚嘆の声とともに、何故そこまでしてダイオウイカを追い続けたのか?モチベーションは?といった質問が私のもとに寄せられた。

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    2012年の調査に用いられた3名が乗船可能な有人潜水艇トライトンと私

    宿命の糸

     私とダイオウイカは、1984年4月に私が国立科学博物館・動物研究部の研究官に採用されて頭足類(イカ・タコ類)の調査・研究を任されたことにより、宿命の糸で繋がれた。当初、
    本近海にダイオウイカが生息していることは知っていたが、研究の対象とは考えられなかった。なぜなら、ダイオウイカを捕らえる方策がなかったからである。その後15年近くが経ち、科博の創立120周年にあたる1998年に開催された特別展「海に生きる―くうか・くわれるか」の際に、展示の目玉として人間の目にはほとんど触れることのない深海の巨大生物「ダイオウイカ」をなんとか展示できないものかと考えた。それが、私のダイオウイカ研究・探索のスタートラインとなった。


    日本産ダイオウイカのルーツを探る

     そこで日本のみならず世界各地のダイオウイカに関する論文・報告書などを調べていくと、巨大イカの漂着の記録は昔から比較的多く、特に北大西洋に面した北アメリカ東岸とヨーロッパ諸国、南半球では南アフリカ南端喜望峰やニュージーランド沿岸から報告されていることがわかった。最初のころは発見されるたびに新種として名前が付けられたので、17種を超える種名があった。日本近海からは、1880年に幕府のお抱え研究者ヒルゲンドルフ博士によるMegateuthis martensiiが最初の報告である。江戸博覧会に出品されていた巨大イカと魚河岸で見つけた長大な軟甲が基になっている。明治になると、ドイツのペッファー博士が M. martensiiは記載不十分の無効名だとして、東京帝国大学の箕作・池田博士が1895年に報告したArchiteuthis sp. を基に1912年にA. japonicaの新種名を与えた。しかしそれら古い研究では、種名を担保するタイプ標本がほとんど残されていなかったため、分類はまったく混乱していた。その中では、大西洋のA. duxと日本近海のA. japonica、そして南太平洋のA. kirkiiの三種が分類学的な有効名と考えられていた。

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    箕作・池田博士が東京湾で採取された標本を基に描いたダイオウイカ原図 Architeuthis sp. この図をもとにPeffer博士が A. japonica を命名した。

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    大西洋産のダイオウイカ Architeuthis dux

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    南太平洋ニュージーランド産ダイオウイカ  Architeuthis kirkii

    ダイオウイカ標本の入手

     日本近海では、日本海に面した山陰地方から北陸地方、新潟・佐渡の沿岸に12月から3月の冬季にダイオウイカの漂着・発見の記録が多く、沖山(1993)によると日本海に紛れ込んだ体の弱ったダイオウイカが冬の強い西風により日本海に面した沿岸に吹き寄せられるためだと説明されていた。そこで日本海沿岸の水産試験場や水族館に勤めている大学の先輩や同期の仲間に、ダイオウイカが打ち上げられたら連絡をくれるようにお願いしたところ、1996年最初の連絡が鳥取水産試験場の山本栄一氏から入った。試験場前の砂浜に大きなイカが打ちあがり、大きなタンクにホルマリン固定して保管しているとのこと、早速、現地に赴いた。タンクの中の大イカは窮屈そうに腕を曲げて横たわっていた。ダイオウイカの特徴である長い二本の触腕は両方とも失われていたが、大きさからダイオウイカに間違いない。ただし、外套膜は細長く筋肉質、八本の腕は太く短く大きな吸盤が二列に並んでいる。なんだか箕作・池田博士の報告した典型的なダイオウイカとは見た目も雰囲気も異なった。ひょっとすると、ダイオウイカの新種かもしれない!

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    1996年、最初に手に入れた鳥取県の砂浜に打ち上げられていたダイオウイカ。体は筋肉質で腕が太く短い。


    特別展にダイオウイカを展示する

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    1996年当時、鳥取県立博物館に展示されていたダイオウイカ。典型的なダイオウイカ。

     そのころ既に鳥取県立博物館にダイオウイカの液浸標本が展示されていた。1988年4月鳥取県城原海岸で生きている状態で発見された個体で、触腕の長さをいれた全長は約7m体重80Kg、岩美町田後漁業協同組合から寄贈されたものである。この個体は、腕が外套長とほぼ同じ長さで、腕についている吸盤は気高町のものに比べ小さく数が多い。箕作・池田博士の記載したダイオウイカに形態的に近いと思われる個体であった。そして1996年12月24日に鳥取県羽合町の海岸に打ち上げられた個体が、鳥取県立博物館の田村昭夫氏を通じて冷凍で入手することができた。この個体は外套長171cm、体長約400cmで触腕は二本とも欠落していたが、鳥取博物館に展示されているダイオウイカと同種と判定された。写真撮影や測定したのち、ホルマリン固定して特別展「海に生きる くうか・くわれるか」に新たに設計・発注した三角柱のアクリル水槽に頭腕部を上にして展示したのだが、上下逆との指摘を多くいただいた。でも、イカを立てて展示する場合はこれが正しいポジションなのである。

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     1998年開催された「海に生きる 食うかー食われるか」に展示したダイオウイカ


    ・・・その2へ続く。

    *著者情報
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    【窪寺恒己(くぼでらつねみ)】
    水産学博士 国立科学博物館名誉館員・名誉研究員 日本水中映像・非常勤学術顧問
    ダイオウイカ研究の第一人者。2012年に
    世界で初めて生きたダイオウイカと深海で遭遇。


    専門分野:海洋生物学/イカ・タコ類/ダイオウイカとマッコウクジラ/深海生物
    主な著書:「ダイオウイカ、奇跡の遭遇」新潮社 2013年
         「深海の怪物ダイオウイカを追え!」ポプラ社 2013年 他

    詳しいプロフィールはこちら
    www.juf.co.jp/seminar/kubodera/

    「烏賊解剖学のススメ」を日本水中映像チャンネルにて公開中!是非ご覧くださいhttp://ch.nicovideo.jp/juf25sui



    *頭足類の映像もあります
     日本水中映像YouTube https://www.youtube.com/user/suitube7

    *講演情報などもアップしています
     日本水中映像FaceBook https://www.facebook.com/japanunderwaterfilms




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