第12回 シューティングからシュートボクシングへ。
毎日8時間以上練習したのはやっぱり凄く良い時間だった。格闘技以外に何かをやればそんなに時間を取ることは難しい。思い返すとあの頃ジムで過ごした時間はやっぱり素晴らしかったんだと感じる。20歳そこそこだった僕の身体に一本芯が入った。プロの世界で通用する体力がそこでついた気がする。
ところがプロで通用する体力がついても肝心のプロの場がないのだ。当時のシューティングにプロはなかった。周りの生徒が育ってプロの舞台が整うのを待つには長すぎる。そもそも生徒はまだ素人同然だったのだ。その時の僕にはシューティングでプロの世界は見えなかった。実際シューティングが修斗と名前を変えてブレイクするまでに、10年以上かかったことになる。僕はその時間を待つのをやめることにした。
総合格闘技に憧れた僕には、当時2つの選択肢しかなかった。このままシューティングで、本当の総合格闘技を教えながら強くなること。それを選べばプロとしての舞台、リングは遠くなる。もう1つは旧UWFに入団すること。それを選べばリングに立てるし、リングで総合格闘技の技術を見せることが出来る。道場での練習は旧UWFの方があの当時だったらレベルが高い。僕はシーザーさんに相談した。実はシーザーさんに連れられて一緒に旧UWFの道場に行ったことがある。その時は藤原さんと前田さんがいた。
藤原さんも前田さんもシーザーさんからの紹介だから、僕をテストしたりはしなかった。前田さんが「これから新日本プロレスへ出ることになる。生きるためにそこで必死にやる」と言った。さらに「強くなりたいならここに来れば良い。新日本に出て仕事をする。ここでは強くなることだけをやる。ここに来るのが一番強くなる。強くなりたいならここが一番だ。プロレスをやって、ここで強くなる練習をやるんだ」と言ってくれた。藤原さんは、前田さんの話が終わると笑顔で「ちゃんこ食うかい。ここのは美味いぞ」と言って優しく微笑んでくれた。