1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜
この10年間、格闘技は未曾有の盛り上がりを見せたが、結果的にそれを盛り上げたK-1もPRIDEも崩壊してしまった。そこには様々な原因があるが、良くも悪くも一番の原因は大晦日イベントにあった。テレビ局も含めて当事者の谷川貞治(元K-1イベントプロデューサー)が『平謝り』にも書いていない内幕を綴って、検証する。
●第14回 2005年(後編) 勝負に出たPRIDEの「小川vs吉田戦」が実現!!
中量級が日本の格闘技界の主流になってきた2000年代後半。2005年の大晦日はまさにその象徴のような大会でしたが、ここで触れなければならないのが、PRIDEの小川直也vs吉田秀彦の一戦についてです。
この年の秋頃から、僕の耳にもPRIDEが小川vs吉田をやろうとしていることはちょくちょく入ってきました。PRIDEにとっては、小川vs吉田こそ大晦日的な切り札カード。というより、競技路線を強調するPRIDEは、PRIDEグランプリのように、トーナメントの流れの中で試合を見ていくのはかなり面白いし、袂を分かってからも「バラさん(榊原信行社長)、やるなぁ」と思っていましたが、大晦日のような単独イベントはあまりうまくないと思っていました。正直、ひとつ一つのマッチメイクや、全体のパッケージ感に印象が全く残らないのです。
大晦日は「K-1 vs 猪木軍」のようなテーマのある闘いをやるか、曙vsボブ・サップ、魔裟斗vs KIDのような強烈なインパクトのあるカードをやるに限ります。そこに、ボビーやチェ・ホンマンのような分かりやすいキャラを散りばめるのが、僕のスタイルでしたが、PRIDEは通常のメンバーの中で組み替えてマッチメイクしているような印象しかなく、その意味で試合前に驚異だと感じたことはないのです。でも、試合内容に関しては、別の話です。インパクトのあるカードがいい試合にならないこともあれば、平凡なカードがスイングした試合になることもあります。
そんな中でPRIDEで、小川vs吉田が行われるのは脅威でした。これを上回るインパクトのあるカードは、2005年の秋の時点で全く用意する自信がなかったからです。
「PRIDEが遂に勝負に出たな。もしかしたら、視聴率で初めて負けるかも?」。
そんな焦りは正直ありました。その一方で、吉田も小川もかなり手強いプロダクションがマネージメントしているし、2人ともそれなりに厄介なタイプで、特にオーちゃんが受けるんだろうかという思いもありました。果たして、本当に成立するのか? そして、この一戦が仮に実現したとしても、PRIDEは金銭的に大きなダメージを被るだろう、と。
しかし、バラさんはなんとかこの一戦を無理矢理実現。あとから聞いた話ですが、僕が知っている限り、この試合こそがワンマッチとして歴史上一番ファイトマネーがかかった一戦なのは間違いありません。それほどまでして、バラさんはK-1に勝ちたかったし、夢のカードを実現するためにお金を切った。こういうプロデューサーは厄介です。バラさんの怖さを見た気がしました。
さぁ、これに対抗するにはどうするか? でも、考えても平均点を上げることはできても、突き抜けたワンマッチは、小川vs吉田を上回るものはありません。それならば、小川vs吉田に何で勝つかと考え、もう視聴率で勝つしかないと割り切って、全く逆の発想に切り替えることにしたのです。つまり、瞬間最高視聴率で小川vs吉田を上回ってやろうと。そのカードこそが曙 vs ボビー・オロゴンの究極のモンスター対決でした。ちょっといやらしいですげとね。
小川 vs吉田に対抗するために選んだのが、曙 vsボビー。もちろん、格闘技的に曙 vs ボビーはなんの意味もありませんが、視聴率で考えると知名度抜群の二人。しかも、負け続けている曙と、勝ち続けているボビーなら、勝負論も立派に成立するのです。