第16回 シュートボクサー空手に挑む。
タイでの修行から帰ってきて、僕はメインを張るようになっていた。シーザーさんも身体がきつかったんだろうなあ。シーザーさんがメインだったり、僕がメインの興行をやるようになった。憧れの後楽園ホールでプロ興行のメインを僕は務めるまでになっていた。普通はそこから団体を引っ張ろうとするものだ。でも、僕は違った。メインを張るようになるとなぜかむなしくなったのだ。
もともと僕は総合格闘技がやりたかった。当時、総合格闘技のプロはまだ存在していない。その頃の修斗はまだシューティングと呼ばれ、興行を打ってはいたけれど、まだ世間に届くプロとして認められるまでには至ってはいなかった。新生UWFは社会現象とまで呼ばれるほどになっていたが、僕にとっては別世界だった。
総合格闘技のプロとしての舞台は当時まだなかった。プロとしてリングに上がることを夢見て、それが総合格闘技じゃなくてもプロになりたいという想いが僕をシュートボクシングへと向かわせた。デビューしても周りには熱心に練習する仲間がいて、それに引っ張られて毎日考える暇もないくらい練習した。そして僕はメインを務める選手になった。ところが、メインイベンターになるという目標が叶うと、そこから先が見えなくなったのだ。
メインを張るようになったとはいえ、相変わらず昼はアルバイトをしていた。そうしないとファイトマネーだけでは生活が出来ないのだ。当時の格闘技の規模はその程度だった。ある日ふと考えてみた。このままずっと続けて引退したらどうなるのかなって。あんまり良い未来が見えない気がした。僕はしばらく考えて、とりあえずアルバイトじゃない、ちゃんとした仕事をやろうって考えた。きちんと考えたというよりも何となく浮かんで来た。ここから不思議な流れがまた始まるのだ。
僕は福祉関係の会社に就職した。しばらくはプロを休業しようと決めて就職した。ところが僕は若い頃から馬鹿なのだった。しかもプロのリングで更に磨きがかかった馬鹿になっていた。格闘技が大好きな馬鹿なのだ。就職をしてプロを休業するなら、アマチュアの試合に出なきゃ……。誰もそんなことは一言も言ってはいない。馬鹿の考えることは理解不能なのだ。