その4 明治前後の日本、武術~武道。(前半)
明治維新前後の日本は全く別の国と考えたほうが良い。そうしなければ武術と武道の違いを理解することは難しい。明治維新前の日本は侍の国で丁髷を結 い、着物を着て腰には刀を差した侍が往来を闊歩していた。現在の日本でそんな人が道を歩いていたら……テレビか映画の撮影としか思えない。実際、本当に日 本刀を腰に差して歩いていたら、すぐに警察が飛んでくるんだろうな(笑)。だけど、そんな姿が日常だった時代が武術の時代だったのだ。倒幕による政権交代は平成に生きる人たちにとっては理解し難いだろう。明治維新時の政権 交代による社会制度変革の際に、世界史上でも稀な大きな変化があった。それはそれまでの価値観や日本的な価値観を一切捨て去るという大胆な変換だったの だ。
敗戦により強引な他民族の干渉による生活の変化というのは実在する。だが、同一民族による政権交代でそれまでの習慣を180度変換したというのは世 界史においても実は稀な例だったりするのだ。丁髷を切ったり、廃刀令にしてもなぜそれが必要だったんだろうか? それまでの文化を一切捨て去る決意の表れ だったのだろうか。刀や丁髷は武士の魂みたいなもので、それを禁止するというのは、新しい価値観の元で裸一貫になってやり直すという決意表明みたいな感じ だったのかもしれないなぁ。
とにかく明治維新によって日本はそれまでの生活や価値観が変わり、一気に西洋化を推し進め欧米の列強に遅れを取らないことに精魂を込めた。その結 果、日本の国力と軍事力は共に圧倒的な増力に成功した。圧倒的に増力した国力で、日本は日清戦争と日露戦争において勝利を収めた。黒船に恐れ驚いていた時 代からさほど時間は経っていない。それなのに2大国に戦争で勝利を収めた日本の政策は結果として間違ってはなかったのだろう。
短期間で国力を増大するには新しい物を一気に取り入れる必要があり、そのためには、それまでの価値観や風習を完全に一度捨て去ったほうが良い。一度 器を空っぽにしたからこそ、一気に新しい物が器に入ったのだから。もし、明治維新で行った西洋化を現代の西洋化や機械文明化が進んだ日本において、反対の 考えでやってみるとしたら……。西洋化ならぬ、江戸時代化というか、“逆明治維新”を現代でやってみたとしたら……。丁髷の廃止や廃刀例と同じように色ん な現代の物を廃止して江戸時代に追いつき追い越せだ。まあ、そんなことをやる必要もないのですが(笑)。あくまでも想像で、武術の時代を知るためにやって みましょう!
まずは、電気、ガス、水道は廃止。夜は蝋燭の明かり、火は薪や炭。だからお風呂とかスイッチを入れても沸かない。水道もないから水は汲みに行くしか ない。今ならスイッチ一つで温かいシャワーを浴びられるし、お風呂も勝手に沸く。ご飯もスイッチどころかタイマーを使えば、朝ご飯は炊きたてだったりする ところだが、電気は使えないので早朝から準備をしないとご飯は食べられない。だから昔は夜ご飯を多めに炊き、残った分を朝に食べていた。もちろん、テレビ も無いし、パソコンとかもない。インターネットは見られない。メールも出来ない。SNSなんてとんでもない。まあ出てくるわ、出てくるわ。