【平直行「東方武術見聞録」】その13 テラズアポレスで驚いた。（後半）

その13　テラズアポレスで驚いた。（後半）

師範は日本でも試合をしたことがある人物で、なかなか強い選手だった。寝技のスパーリングをすると、とても強い。でも寝技だけでも何とか動きについて行くことは出来た。極めることは出来ない。極められることはあった。でも圧倒的に数秒でやられるわけじゃない。何度もスパーリングをすると何度か取られるくらい。僕は立ち技から打撃ありでやってみたかったな。軽くでいいから打撃を入れてやってみたかった。

でもそれは失礼だって知っていたから言わなかった。カーリーも極められる僕を見て笑ってた。違うことをやってるからなんだろうな。ただ笑ってた。もしも打撃ありでやったとしたら、ボクシングの強いボクサーとキックをいれてスパーリングするみたいになったような気がする。

現在の柔術の主流はブラジリアン柔術。寝技に特化した技術は圧倒的な強さを誇る。特にブラジル人の柔術は組み技におけるムエタイ的な位置にある。ところが、ブラジリアン柔術の世界王者でも総合格闘技では通用しない。ムエタイの王者も総合格闘技では通用しない。

あの時ブラジルで感じた違和感は、現在のブラジリアン柔術を暗示してたのかもしれない。アカデミーを出るとカーリーが僕に言った。

「あれも柔術なんだ。これからはあのスタイルが広がるかもしれない。でも俺は好きじゃない。あれではストリートでは使えない。それは柔術という名の別の競技になる。自分を守ることが出来ないものを柔術とは呼ばない。でもやがてあのスタイルが柔術と呼ばれる気がする」

あの時カーリーの言ったように、現在の世界の柔術はブラジリアン柔術となった。振り返ると不思議な気がする。柔術とは自分を守れるもの。あの時カーリーが言った言葉。その言葉をより深めた柔術に僕はやがて出合うことになる。

柔術の母国は日本。日本の柔術は自分を守るための存在。それは護身術だけではない。本当に殺しに来た相手からも守る。身体を守る知恵は活法にもある。自分を守る知恵は人との接し方にもある。柔術は本来、命を守るために必要な全てを持っていた。闘争術だけが柔術ではない。医術や軍術もあるし、人の生理反応や行動学を統計したデータを元にした人の心理を操る術さえもある。命をかけた時代の知恵の結晶が柔術なのだ、本当は。

グレイシー柔術があっという間にブラジリアン柔術に取って代わったように、新しい柔術が取って代わるかもしれない。新しい柔術とは実は一番古い柔術でもあるのだ。妄想で暴走が大爆発だ！

テラズアポレスにカーリーの家があるという。一緒に行こうって誘われた。ドライブしながら、カーリーの家に向かう。途中に樹が生えている。樹には果物が実っている。日本だと柿とか実っているのだが、テラズアポレスではマンゴーとかが実っているのだ。凄いな、テラズアポレスとか思っていたら向こうのほうに山が見えてきた。カーリーが言った。