後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第15回:【政策】現代日本の中絶問題

シリーズものでない単発の記事ですが、今回は妊娠中絶問題を採り上げたいと思います。なぜ中絶なのかというと、朝日新聞にこのような記事が掲載されたからです。

「少子化対策は妊娠中絶問題から」 自民・野田総務会長
http://digital.asahi.com/articles/TKY201302230191.html

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年間20万人が妊娠中絶しているとされるが、少子化対策をやるのであればそこからやっていかないと。参院選後に党内の人口減少社会対策特別委員会で検討してもらうつもりだ。堕胎を禁止するだけじゃなくて、禁止する代わりに例えば養子縁組(をあっせんするため)の法律をつくって、生まれた子供を社会で育てていける環境整備をしなきゃいけない。(佐賀県武雄市で記者団に)
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さて、このような単純な「中絶」への見方に対して、私はあるエピソードを思い出しました。それは、映画化もされた、レヴィットとダブナーの『ヤバい経済学』(望月衛:訳、東洋経済新報社、2007年(改訂版))で、アメリカで犯罪が減少した原因として中絶が合法化されたことを採り上げていたことです。貧困層の女性が望まない妊娠に対して中絶をするようになったことにより、犯罪が生まれやすい環境の人が減ったことなのだという。

野田聖子のこの発言に触れたとき、堕胎・中絶の禁止というのを「少子化対策」として打ち出してしまうのはどうかと思いました。後のほうで申し訳程度に《堕胎を禁止するだけじゃなくて、禁止する代わりに例えば養子縁組(をあっせんするため)の法律をつくって、生まれた子供を社会で育てていける環境整備をしなきゃいけない》と書いていますけど、そもそも自民党の人って「子供を社会で育てる」という物言いに嫌悪感を示していなかったっけ?とか、そもそもそんなに容易に養子縁組を受け入れる人がいるんだろうか、とか、いろいろと突っ込みどころはあります。

さて、それでは、我が国において妊娠中絶はどのような状況にあるのだろうか、ということを考えてみたいと思います。厚生労働省の「平成23年衛生行政報告例」(e-statから取得できます。http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001031469)によると、人工妊娠中絶の実行件数と実施率は1953年からほぼ一貫して減少傾向を続け、2010年現在では件数212,665件、実施率は7.9パーミル程度になっています(なお、このデータの2010年は、福島県の相双保健福祉事務所のデータを含まない)。そのため、まず事実として、中絶は件数自体は減少傾向にあるということを認識しなければなりません。次に実施率(注)はどうなっているでしょうか。こちらも減少傾向にあります。しかし一方で10代の中絶は、件数・実施率共に2000年代半ば頃まで増加傾向にありました。ただしこれについても2000年代後半は減少傾向にあります。

北村邦夫は中絶件数・実施率の減少についていくつかの仮説を立てていますが、有力な仮説として、「確実な避妊法の普及」と「性交頻度の減少」を挙げています(北村邦夫[2009])。特に前者については、低用量経口避妊薬の使用率が増加していることに触れています。

ただこの中でも気になるデータがあり、それは中絶の件数全体に占める25歳以下割合が増加傾向にあることです。20歳未満は、1955年には1.2%だったのが2011年には10.3%、20~24歳は同15.8%から21.8%と増加しています。10代の中絶は、アメリカでは大きな問題となっており、「Health People 2010」においては次のように書かれているとのことです。

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身体的、精神的な問題として、自己のアイデンティティが未確立で、セクシュアリティアイデンティティが十分に確立していないこともあり、身体面の性成熟度は増す時期ではあるが精神面では未だ未成熟であり、バランスが悪い、社会経済的には、中高生である場合も多く経済的に自立していない、10代の妊娠は望んだ妊娠ではないことである。(木戸久美子ほか[2004]p.25)
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特に精神的ダメージに与える影響が重視されており、抑鬱などの傾向が現れる可能性もあるとされています。ただ我が国では若年妊娠中絶の精神的影響に関する研究は乏しいのが現状です。なお外国の文献では、10代で中絶したあとの4週間後に抑鬱の心理尺度が最大値になることが示されています(木戸ほか前掲)。

以上のことから我々が確認すべきなのは、まずは一貫して中絶は減少傾向にあるということです。特に25歳以上の年齢での減少が著しい。しかし10代に関しては、2000年代半ば頃まで増加傾向にあった。現在は減少傾向にあるとしても、中絶全体に占める割合ではやや高止まりの感がある。そしてそれに関する研究は追いついていない。このことをまず事実として理解すべきだと思います。

(注)ただし、20歳未満については、分子に20歳未満の中絶件数全体、分母に15~19歳の女性人口を用いて計算しており、また全体の実施率については、分子に50歳未満の中絶件数全体、分母に15~49歳の女性人口を用いて計算している。

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引用文献
木戸久美子、中村仁志、林隆[2004]「10代の人工妊娠中絶および出産と抑うつとの関連」、『山口県立大学看護学部紀要』第8号、pp.25-32、2003年3月、http://ci.nii.ac.jp/naid/110004226570
北村邦夫[2009]「日本人の性意識・性行動――中絶減少から読み解く」、『母体衛生』第50巻1号pp.20-24、2009年4月、http://ci.nii.ac.jp/naid/110007162453

【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第16回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読み解くために(第3回)(2013年4月5日更新予定)
第17回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(第3回:クラスター分析)(2013年4月15日配信予定)
第18回:【政策】若者雇用戦略を総括する(第4回)(2013年4月25日配信予定)

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(2013年3月25日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第15回「【政策】現代日本の中絶問題」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
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発行日:2013(平成25)年3月25日
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