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第39回:【年頭所感】「無視」が先鋭化を生む
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第39回:【年頭所感】「無視」が先鋭化を生む

2014-01-06 22:00
    後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
    第39回:【年頭所感】「無視」が先鋭化を生む
    「SUPER ADVENTURES 70」(2014年1月5日、ビッグパレットふくしま)で配布したサークルペーパーです。

    さて、今回は、今年最初の即売会ということで、年頭所感でも書いてみようと思います。

    昨年10月、私は『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)という本を出しました。同書で私が取り扱ったのは、「若者」に対するイメージの変遷から見る、我が国における社会学的な言説の変遷でした。

    1970年代の「しらけ世代」論から現在に至るまでの若者論の流れは、若い世代をメディアや若者研究の側が、そして若い世代自身が社会から切り離していく過程でした。1970年代における「モラトリアム人間」言説の受容をはじめとする若い世代の心性の「異常さ」を問題視する言説に始まり、一方1980年代は若い世代自身が消費文化のもとで他者との「差異化」でもって見下すという傾向が生まれました(おそらくこれが現在の「意識高い系」にも繋がるものでしょう)。

    そして1990年代、1980年代的な言論文化の中で伸張し、そしてサブカルチャー(あるいはその批評)にベースを持つ論客が、若者論の論客として活躍しました。リベラルと言われる側においては宮台真司や香山リカ、保守派においては『宝島30』周辺の論客(浅羽通明、切通理作など)や小林よしのりなどが、1994年代以降の「援助交際」論争、1995年代のオウム論争、1997年代の「酒鬼薔薇聖斗」事件論争などにおいて、若い世代の支持を集めてきて、またメディアの側においても彼らを通じて若い世代を見るようになりました。

    そして1990年代終わり頃から2000年代にかけて、日本社会全体が「劣化」したという言説が流行するようになりました。このような言説の流行には、当時の論客やメディアが、特に若い世代を「異化」して取り扱ったことと不可分ではないでしょう。それによって若い世代など「自分たちとは違った存在」を「脅威」として煽るようになりましたが、このような「異化」の態度は、(元々若者擁護論の文脈で生まれたということもあり)若い世代自身の言説においても広がってきました。

    典型的なのが「ロスジェネ」言説でしょう。2000年代半ば頃に(私も無視できない程度には関わっている)若年労働言説の広がりの中で、1970年代半ば~1980年代初頭頃に生まれた世代が、バブルの文化の恩恵を受けることができず、また大学卒業時に就職率が低く、割を食った「ロストジェネレーション」として採り上げられたり、それ以前からも自分たちが上の世代から不利益を押しつけられているということを主張しました。彼らは中高年の正社員層のみならず、同世代、そして下の世代に対しても、自分たちの「被害者性」を主張して、相手が「強者」であるということを主張し、バッシングするようになりました。彼らの言説における「正社員」「バブル世代」「ゆとり世代」などは、実態を伴わないバーチャルなものとしての色彩がだんだん強くなって行きました。またロスジェネ論の少し前に流行した「非モテ」論もまた、自分たちは所謂「恋愛資本主義」に毒された現代人とは違って、本来のあり方を追求しているのだという議論が生まれました。

    近年においてこのような傾向は、「働き方」について述べられた言説にも見られます。「サンシャインクリエイション60」において弊サークルで刊行し、電子版と併せると昨年の同人誌で『紅魔館の統計学なティータイム』に次ぐ売上を誇った『「働き方」を変えれば幸せになれる?』においては、谷本真由美や田村耕太郎などといった「グローバル」系の論客と、phaなどの「ローカル」系の論客、そして古市憲寿を採り上げました。彼らに共通しているのは、彼らの言説のベースにあるのが、グローバル化などに関する宿命論的な捉え方と、若い世代の「特殊性」をベースにしており、社会に対する認識に対してはニヒリズムに陥っているというものでした。

    これらの言説は、「自分」と「他者」を分断し、アドホックな(そして客観的根拠のない)「先進性」あるいは「本質」でもって優位に立とうとするものです。

    そしてこのような言説が若い世代の「主張」として流通してしまうと、世代間対立などの対立が煽られ、他の社会集団などに対して訴求力を失ってしまうのではないかという懸念が生じます。自らの主張の正当性を裏付けるものが脆弱であったり、あるいは正確さよりも「対立」「扇動」「闘争」が優先されていたりすると、自らの言説に対する自省を欠いてしまい、閉鎖的になっていくものです。

    現在の言論は、異なる社会階層や考え方を持つ人たちを徹底的に「無視」することにより正当性を仲間内で肥大化させるという戦略を取っているように見えます。そして相手を「無視」していると、断片的な情報や言説から相手のイメージや特徴を肥大化させてしまい、過剰に攻撃的になっていくという様を、昨年は何度も見てきました。自分の気に入らないものはとにかく「特権」と叫ぶようなロスジェネ論客や在特会・反原発などの「運動」、何度も反論が提示されているのに「解雇規制が若者を救う」と言ってはばからない城繁幸などの解雇規制緩和論客、インターネット上の「匿名」を挑発しつつ、他方で「匿名」をバッシングしてきた論客、そして「アート」という隠れ蓑に隠れて、福島をおもちゃにしているという(被災地からの実名によるものを含む)批判を罵倒する東浩紀。

    現在の議論の特徴は、「分断」「嘲笑」「先鋭化」の3段階を踏んで堕落していくものが数多く見られます。自分こそが優れている、相手は莫迦だと決めつける「分断」、過激な言葉で相手の反応を見て楽しむ「嘲笑」、そしてイメージだけを肥大化させて相手、そして外部全体への敵愾心を高めていくというループに陥る「先鋭化」。これらの議論は、議論の発展よりも、自らの心情的な優位性を優先した議論でこそ起こるものだと思います。そしてその背景には、専門知や情報量よりも、メディアやインターネットなどにおける「振る舞い」を優先し、そしてアドホックな立ち位置を得ることが目的になっているというものが挙げられているでしょう。

    さらにそのような態度は、決して一朝一夕に生まれたものではなく、ここ40年ほどの議論、特に若者論の流れの上で生まれたものです。だからこそ一筋縄ではいきません。必要なのは、「無視」によって次々と壁を作り出してしまうことではなく、間違った議論にも、また解決すべき課題にも、何はともあれ正面から対峙する、ということです。

    私及び弊サークルは、そのような状況の中で、前年に引き続き、世代論の批判的な視座の構築と、専門性の高いコンテンツの提供に努めて参ります。


    【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
    第40回:【政策】PISA2011年調査を読む(2014年1月15日配信予定:「仙台コミケ214」のサークルペーパーとして配信します。)
    第41回:【思潮/科学・統計】2014年成人の日社説分析速報(2014年1月25日配信予定:「こみっく☆トレジャー23」のサークルペーパーとして配信します。)
    第42回:【思潮】「若者の右傾化」はなぜ問題視されるようになったのか(2014年2月5日配信予定:「海ゆかば2」「コミティア107」のサークルペーパーとして配信します。)

    【近況】
    ・「コミックマーケット85」新刊の『統計同人誌をつくろう!――調べて、分析して、書きたい人のために』『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special2』が、メロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて委託販売中です。詳細は各同人誌の情報ページをご覧ください。
    『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717450615.html
    『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717449750.html

    ・「仙台コミケ214」にサークル参加予定です。
    開催日:2014年1月12日(日)
    開催場所:夢メッセみやぎ(宮城県仙台市宮城野区)
    アクセス:宮城交通バス「仙台港フェリーターミナル」行きバス停「夢メッセみやぎ前」下車すぐ/JR仙石線「中野栄」駅より徒歩20分程度/仙台東部道路「仙台港」インターチェンジより車で5分程度
    スペース:「D」ブロック18

    ・「こみっく☆トレジャー23」にサークル参加予定です。
    開催日:2014年1月19日(日)
    開催場所:インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)
    アクセス:大阪市交通局南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩3分程度
    スペース:「ケ」ブロック14a

    ・「海ゆかば2」(艦隊これくしょんオンリーイベント)にサークル参加予定です。
    開催日:2014年1月26日(日)
    開催場所:大田区産業プラザPiO(東京都大田区)
    アクセス:京急本線・空港線「京急蒲田」駅より徒歩3分程度
    スペース:未定
    備考:新刊『提督のための統計学――艦隊決戦統計解析論序説』(仮題)刊行予定です。

    ・「コミティア107」にサークル参加予定です。
    開催日:2014年2月2日(日)
    開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
    アクセス:前掲
    スペース:「S」ブロック26b
    備考:二次創作関係作品を頒布しません。また、商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)を頒布予定です。

    ・「東方紅楼夢9.5 遠野物語」にサークル参加予定です。
    開催日:2014年3月2日(日)
    開催場所:あえりあ遠野(岩手県遠野市)
    アクセス:JR釜石線「遠野」駅から徒歩10分程度/釜石自動車道「宮守」インターチェンジから車で30分程度
    スペース:未定
    ※JR釜石線「遠野」駅は、東北新幹線「新花巻」駅から快速列車で40分程度、普通列車で1時間程度。

    ・「幻想郷フォーラム2014」(東方Project情報・評論系オンリーイベント)にサークル参加予定です。
    開催日:2014年3月30日(日)
    開催場所:名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)(愛知県名古屋市港区)
    アクセス:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「金城ふ頭」駅より徒歩5分程度/伊勢湾岸自動車道「名港中央」インターチェンジより車で5分程度
    スペース:未定

    ・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
    Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
    楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/

    (2014年1月6日)

    奥付
    後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第39回:【年頭所感】「無視」してはいけない
    著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
    発行者:後藤和智事務所OffLine
    発行日:2014(平成26)年1月6日
    連絡先:kgoto1984@nifty.com
    チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
    著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

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