「お寺行き」と聞くと競輪ファンなら、「ああ、お寺ね」と納得するのでありますが、一般の方ならなんの事やらさっぱりわからないと思います。
なので、簡単に説明すると、競輪では、選手が社会的なルール、競走的なルールを大きく外れると、一定期間、強制的にお寺で修行させられます。その内容はかなり厳しいらしく、お寺に行くと相当体力が削がれるのであります(競輪選手に聞いたところ)。
罰則として、お寺に行かされるのですから生易しいところでは罰則にはならないので、ある意味当然だと思います。
しかし、ちょっと待ってくれという事が出てきました。
平成26年1月から、スタートでの牽制や、先頭員から10車身程度以上離れるとつく重大走行注意(重注)を一ヶ月の内に3回、同じ選手がもらうと、お寺行きになるのであります。
この事を皆さんご存知でしたか?
正直申せば、私、別府の全プロ記念競輪まで知りませんでした。
ある事でこの罰則を知ったのですが、え?本当なの?という事で、あちらこちらに裏取りの取材をしていました。
そして、やはり本当であったのでした。
まず非常に疑問だったのは、これが公表されていない事です。
はっきり言うと私が聞いた専門紙の記者さん、日刊紙の記者さん、解説者の方も知りませんでした(6月21日現在、ちょっと前で申し訳ありません)。
車券を購入する上で、皆さん何を考えます?
私は、誰が先行するのか?誰が捲るのか?をまず考え、その上で展開を考えます。
展開を考える上で、周回中の並びがどのようになるかを考えます。↓
え!考えないで車券を検討している! そういう方は、この先はお読みにならなくても構いません(笑)。ただスタート牽制、先頭員から10車身以上離れる重注が一ヶ月の内3回ついたら、お寺行きと覚えておいてください。
ここからは考える方へ(笑)。
上記の続き
↑これは周回中に選手がどのように並んで、どこから仕掛けるのかを考える方は、どの選手が先頭員の後ろを取って周回中のライン形成を考えます。
A、B、Cという三つのラインで戦う場合、抑えタイプの徹底先行ラインがA、中団取って自力がB、カマシか捲り狙いがCとすると、予想では、先頭員の後ろがC、中団にB、後方にAというラインが並ぶと想像できるでしょう。
これは分かり易い例です。
では、Aラインは徹底先行タイプ、Bも徹底先行タイプ、さらにCも徹底先行タイプとしたらどうなるでしょう。
周回中に後方から攻めたいラインばかりとしたら、スタートで牽制しますよね。
勝つためには後方から攻めたい。しかし、誰かは前に行かなくてはならない。
ギリギリまで我慢しよう。
これがスタート牽制であり、スタートした後も位置取りで牽制し、少しでもラインにとって、良い位置取りから戦いを仕掛けたい選手の思いでもあります。
ちなみに、競輪ファンはこのポイントを予想しているはずです。
展開を考える上で、周回中の並びは重要ですから。
専門紙、スポーツ紙の予想でもこれが重要視されているはずです。
しかし、知らない間に(選手は当然知っています)重要な予想ポイントが今年の1月から変わっていたのです。
また、この重注は非常に面倒で、カウントされるのが1ヶ月間で3回なのですが、一ヶ月とは月の始まり開催から月の終わり開催までです。
例えると7月中に3回やるとお寺行きとなるのですが、
7月後半の開催に2回やったとして、8月頭の開催では7月の2回はクリアになっていることになります。(非常に大雑把な説明です。厳密に書くと長くなるので省略します)
ただし、重注としてはカウントされるので、事故点の累積にはかかってきます。
(この辺りの制度は複雑なので、説明の足りないところがあるかもしれませんがご容赦ください)
私は、20年以上競輪を取材してきました。
その中で感じたことは、競輪界はあまりにもファンを見ず、ルールを変えることです。
ファンのためにより面白くするためにルール改正をするなら分かりますが、そのような改革は知りません。結果として競輪が面白くなったのは、ギア規制です。これは例外ですが。
業界内の都合でルールを変えてきた結果が、売上を下げた原因でもあると感じます。
また同じことを繰り返すのでしょうか?
それとこの制度で疑問なのは、スタート牽制をして、何が悪いのだということです。
競輪を含めた自転車競技全般は、位置取りが重要です。その位置取りのために選手はいろいろ考えるわけです。ファンも。
余談ですが、位置取りをさせず、速やかに発走させるというのであれば、UCIルールと同様に1番車にスタート義務を課せば良いなど意見など上がるとおもいます。
しかしながら全くファンを見ていないことになるでしょう。ライン競走を壊すなら別ですが。
重要な変更をファンに告知せず、実施するというのはこれもまたファン軽視の姿勢だとおもいます。
どのような理由でファンに知らせないのでしょうか?
また、罰則が「お寺」であるのなら、そのダメージが少なくとも選手にはあるはず。これまでもファンに伝えないのでしょうか?
ダメージを負ったままの選手を何も告知せず走らせるのであれば、業界自体が公正安全を軽視することになりかねません。
競輪界を発展させたいのなら、ファン軽視をせず、売り上げに繋がることをしっかりやっていただきたいですね。
若生武則
KEIRIN MAGAZINE