スーパーマン・ミュージカル1


スーパーマンがブロードウェイでミュージカルになっていた? 今回は、アメコミ界屈指のキャラクター『スーパーマン』の、あまり知られていない歴史をご紹介します。

ことの起こりは1966年3月、ブロードウェイのアルビン劇場で計129公演にわたって上演された『It's a Bird, It's a Plane, It's SUPERMAN(鳥だ、飛行機だ、スーパーマンだ)』というミュージカル。先日の『スーパーマンの「S」マーク75年の歴史』と併せてお読み頂けると、興味深いかもしれません。
 


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スーパーマンが初めて人々の前に登場したのは、ディテクティブ・コミックス(現在のDCコミック)から刊行された『アクション・コミックス』誌の創刊号。1938年4月18日のことでした。ジェシー・シーゲル原作、ジョー・ジャスターの作画により颯爽と登場した、鋼鉄の男・スーパーマンは「アメコミ初のスーパーヒーロー」であり、まさにアメリカン・コミックを代表する最強のアイコンといえます。

では、スーパーマンが初めて映像化されたのはいつのことなのでしょうか?

それは1941年から1943年にかけて製作された、アニメーション映画『スーパーマン』でした。放送終了から5年後の1948年にはカーク・アレンの主演で初実写化された活劇映画『スーパーマン』が製作され、1951年にはジョージ・リーヴズ主演による映画『スーパーマンと地底人』が公開。同じくジョージ・リーヴズ主演のテレビシリーズ『スーパーマンの冒険』が1952年から約6年にわたって放映されることとなります。

その後、6分間のアニメシリーズとして『The New Adventures of Superman(原題)』が1966年から1970年にかけて放映され、ついにクリストファー・リーヴ主演の映画『スーパーマン』シリーズが1978年に登場することになります。

いくつかのテレビシリーズを経て、映画としては2006年公開の『スーパーマン リターンズ』で復活を果たすことになりますが、1996年に放映が開始されたトム・ウェリング主演のテレビシリーズ『ヤング・スーパーマン』を覚えている方もいらっしゃるかもしれませんね。

そしてついに、新たなスーパーマン俳優ヘンリー・カヴィルを迎えて、『マン・オブ・スティール』が製作されることとなるわけです。


スーパーマン・ミュージカル2

ヘンリー・カヴィル主演『マン・オブ・スティール』


駆け足でスーパーマンの映像史を振り返ってみましたが、ブロードウェイ・ミュージカル『It's a Bird, It's a Plane, It's SUPERMAN』が上演された1966年がどのような時代に当たるかというと、1958年にジョージ・リーヴス主演のテレビドラマ『スーパーマンの冒険』が終了し、1978年にクリストファー・リーヴ主演の映画『スーパーマン』が公開されるまでの、おおよそ半ばあたりの年に当たっています。

実写映像作品としては、ドラマの終了と映画の製作の間には20年というブランクがあったわけですが、この空白期間には制作側の事情もありまして、実は『スーパーマンの冒険』に主演したジョージ・リーヴスが、ロサンゼルスの自宅でショットガンによる自殺を図るという痛ましい事件が発生しています。


スーパーマン・ミュージカル3

(ジョージ・リーヴス。画像:Wikipedia


一説には他殺説もささやかれるリーヴスさんの自殺は、スーパーマンという強烈なキャラクターを長期にわたって演じたことで、イメージの定着をぬぐい去ることができず、俳優として伸び悩んだことが原因とされています。この悲劇的な出来事が起こったのが、1959年6月。テレビドラマ『スーパーマンの冒険』が終了してから、1年あまりが経過した頃でした。

DCコミックはもちろん、リーヴスさんの死は制作者にとって痛手であったようで、スーパーマンがブロードウェイでミュージカル化された頃には、ようやく新たなスーパーマン像を作ろうという機運が高まってきた背景があったのかもしれません。

余談ですが、スーパーマンの関係者や俳優には不幸が訪れるという都市伝説が存在していて、それを称してスーパーマンの呪い』と呼ばれていたりもします。


スーパーマン・ミュージカル4

『It's a Bird, It's a Plane, It's SUPERMAN』でスーパーマンを演じた、ボブ・ホリデー。
前列左から、パトリシア・マランド、ジャック・キャシディ、マイケル・オサリバン、リンダ・ラヴィン、ドン・チャスティンら主要なキャスト。


さて、そんなミュージカル版『スーパーマン』でスーパーマンことクラーク・ケントを演じたのは、ボブ・ホリデーという俳優さん。190センチを超える長身を誇る俳優で、バリトンの素晴らしい声を持っていました。

もっとも、ミュージカルの主演俳優としてクレジットされていたのは、デイリープラネット社のコラムニストであるマックス・メンケンを演じたジャック・キャシディでした。

ジャック・キャシディはブロードウェイのミュージカルスターとしての知名度があった一方、ドラマや数多くの映画にも出演していた人物で、当時のプログラムでもクレジットのトップにはジャック・キャシディの名前を確認することができます。


スーパーマン・ミュージカル5

当時のプログラムより。


その他のキャスティングは、ロイス・レーン役にパトリシア・マランド、編集長ペリー・ホワイトにエリック・メイソン、ヴィラン(悪役)であるセグイック博士にマイケル・オサリバン、博士の助手ジム・モーガンにドン・チャステイン等などといった面々。音楽をチャールズ・ストラウス、歌詞をリー・アダムス、脚本をデビッド・ニューマンとロバート・ベントンが担当しています。

脚本は、ヴィラン(悪玉)であるアブナー・セグイック博士とスーパーマンの戦い、またケントの同僚であるマックス・メンケンとロイス・レーンとの三角関係などを軸に描かれるコメディ・ミュージカルというプロットであったようです。



ドン・チャステインとパトリシア・マランドの歌う「We Don't Matter」


残念ながら、スーパーヒーローのブロードウェイ・ミュージカルという試みは192回の公演にとどまり、決して成功とはいえない結果に終わりました。

しかしホリデーさんは世界初の「歌うスーパーマン」としてブロードウェイでの公演を務めあげた、影の功労者といえるでしょう。そしてボブ・ホリデーさんは、DCコミックの公認した「もう1人のスーパーマン」でした。

ホリデーさんの存在は、一般にはあまり知られていないもう一つのスーパーマン史として、今も熱心なファンの間では語り継がれています。



『ミュージカル・スーパーマン』より、フィナーレ。


"It's A Bird, It's A Plane, It's SUPERMAN", the 1966 Broadway Musical[D R E W • F R I E D M A N]
It's a Bird...It's a Plane...It's Superman[wikipedia]
Bob Holiday[wikipedia]

(キネコ)

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