ライムスター宇多丸にインタビュー


日本ヒップホップ界の重鎮であり、ラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル(通称タマフル)』では「シネマハスラー」として独自の映画評論を展開、さらにはアイドル評論家の顔も持つなど、ヒップホップファンのみならず、映画ファンやラジオファン、そしてボンクラを魅了し続けるライムスター宇多丸さん。

今回は、ユーモラスかつ論理的で切れ味の鋭い言語表現で多くの人々から支持され、我々が師匠として尊敬する宇多丸さんにインタビューして参りました。

『96時間/リベンジ』の予告編に登場する「ブライアン・グリーティング」ポーズがバッチリ決まっている、宇多丸さんのタメになる言葉の数々は以下より。
 

 
今回は先日行なわれた「『96時間』シリーズ「イッキ観」試写会 井筒和幸&ライムスター 宇多丸トークショーイベント」の直後に、『96時間』シリーズについて、そして映画全般について宇多丸さんに話を伺いました。

ーー以前「『96時間』はスティーブン・セガールの皮をかぶったリーアム・ニーソン映画」とおっしゃっていましたが、今作『96時間/リベンジ』はどのように見えましたか?

宇多丸:ブライアンが暴れ出してしまうと話が終わってしまうので、今回はいかに彼が手も足も出ない状況を持続させるか? ということに知恵を絞っているんですよね。どのタイミングで彼が心置きなく暴れだすか? という話の作りが上手いなと思いました。

ハッキリ言って、ブライアンが囚われて娘が追いかけるなんて、そんなバカバカしいことあるかよって思ってたんですけど、ちゃんと納得できる作りになってます。娘は決して強くはないから気をつけながら呼び寄せたり、呼び寄せる過程の見せ場が上手くて感心しましたね。

ーー今作はシリーズの2作目ですが、宇多丸さんが「『2』映画らしい」と感じたシーンはありましたか?

宇多丸:作り全体がそうですよね。出だしが前作の続き、しかもそんなの見たくないよっていうシーンから始まります。普通なかなか見られない、ある意味画期的な出だしだと思うんですけど、あれを見るとやっぱり「無闇やたらに人殺しちゃダメだよなあ...」といった気持ちになる。

あとやっぱり一作目で受けたポイント、いわゆるお約束はちゃんと押さえてますよね。例えば、前作は「お前、さらわれる」、今作は「俺、さらわれる」の電話シーン。あと個人的に偉いなと感じたのが。確実に意識的だと思うんですけど、尺90分台というのを守ってます。なおかつ1作目よりも無駄がなくて、いい続編だと思いますね。

ーーすでに3作目の製作が決まっているとのことなのですが、3ではどういったストーリーが展開されることに期待しますか?

宇多丸:2作目でさえ「どうなんだ?」と思うところはちょっとありましたけど、3作目となると......さあ、どうする(笑)。復讐の連鎖はもう限界だと思うので、やっぱりブライアンがもっと本格的に「動けない」状態ですかね。ただ彼が「動かない」と物語が成立しないので、怪我させるわけにもいかないし......。

例えば、もう娘のキムが結婚していて、ブライアンに孫がいる状態で脅迫を受け、図らずも体の自由はきくけど、悪者の命令を受けざるを得ない、といったパターンとか。『コマンドー』みたいな話になっちゃいますけど。パターンは違うかもしれませんが、孫は登場する気がします。すでに今作で擬似家族が出来上がっている印象も受けましたし。あんなに上手くいっていいのか? とは思いましたけど。

僕が『96時間』シリーズに不満があるとしたら、ちょっと家族がブライアンに都合良すぎますよね。何かを失わないとダメだと思うんですけど、彼は全部手に入れちゃう。ただ、前作に対して感じた「全部手に入れるのかい!」に対して、「いやいや殺された側の気持ちがありますよ」っていうのが今作なんだとは思います。となると3作目は、元奥さんの現旦那が「ふざけんな!」っていう展開かもしれませんね。

ーーそれはありそう......ですね(笑)。今作でかなり突き詰めてしまっているので、その先にある3がどうなるのか? というのはなかなか想像がつきません。

宇多丸:ただ話を複雑にしちゃうと90分台の尺が保てないので、そこをどうするかですよね。

ーーやはり尺の短さが美学にもなっている作品だと。

宇多丸:美学ですし、たぶんヨーロッパ・コープ(『96時間』シリーズを製作するリュック・ベッソンの映画スタジオ)は『96時間』のヒットの要因は90分という尺だと考えていて、だから『96時間/リベンジ』でもそれを守ってきたんだと思います。

ーー『96時間』シリーズを通して、宇多丸さんのフェチを刺激したシーンというのはありましたか?

宇多丸:フェチかどうかはわからないんですが......。映画って、基本的に観客というのは見てるしかないじゃないですか。その中でよくできたサスペンスとか、ホラーもそうかもしれないんですけど、けっこう「むざむざ見てるしかない、聞いてるしかない」、起こってる事態に対して手も足も出ないという状況が用意されているんですよね。

『96時間』シリーズはそういうシーンがあるのが良いです。「むざむざ」って最悪でしょう? 「一応見てる」とか「一応いるのに......」といった状況は、観客の視点と一緒なので感情移入しやすいですし。「うわー......でも何もできない」、「むざむざこんなことが......」というシーンにはグッときますね。むざむざ萌えです。

ーー前作での娘が電話越しに誘拐されるといったシーンですよね?

宇多丸:あれは最高ですね。もちろん自分の人生に起きたら悪夢の瞬間ですけど、やっぱり映画というのは絶対に起こってほしくはないことを見に行くメディアでもあると思うので。

ーー他にグッときたシーンはありますか?

宇多丸:主人公の過剰な逆襲っていうのはありますね。前作での拷問シーンは最高に良かったです。そりゃあ敵のお父さんも怒るよ! っていう。最低です(笑)。

ーーシリーズを通してブライアンが悪役にしか見えないシーンは多いと感じます。

宇多丸:まあ元CIAという設定も他の映画だったら悪役でもおかしくないですよね。よろしくない暗殺とかもやってるでしょうし。

ーーもし、宇多丸さんに娘さんが生まれて、誘拐されて、電話がかかってきたら、どうやって逆脅迫しますか?

宇多丸:「お前を追い詰めーーお前を見つけ出す」っていうあれですね。でも、あそこで犯人に逆脅迫なんかしちゃダメですよね(笑)。自分だったら、誘拐の成功率の低さを説きますかね。とりあえず、普通犯人は刺激しませんよ!

身代金での誘拐の話になりますけど、日本では誘拐はすごく成功率低いんです。だから割に合わないよと。銀行強盗とかもっと成功率高いのがあるじゃないかと。

ーー説得すると。

宇多丸:そうですね。比較的誰も傷つかない犯罪のほうが遺恨も残らなくていいと思うんだが、どうかなあ? って言いますかね。誘拐は社会的にも、関係のない人も怒ったりするから良くないし、それは損だと、一生懸命割に合う犯罪をオススメすると思います。

ーー質問が不謹慎で申し訳ありません......。

宇多丸:いやいや、そういう状況になったら藁をも掴みますからね。

ーーでは娘が生まれて『テイクン(96時間の原題、誘拐という意味)』と、息子が生まれて『ダイ・ハード/ラスト・デイ』どっちがいいですか?

宇多丸:それは『ダイ・ハード/ラスト・デイ』でしょう。あれ息子と協力して楽しそうですもん(笑)。

そういえば『ダイ・ハード4.0』は娘がさらわれる話でしたし、『ダイ・ハード』は1作目からして弱味を握られる話なので、『96時間』と似てますよね。


ーー『96時間』のリーアム・ニーソンは60歳、そして『エクスペンダブルズ』などのアクション映画で活躍する俳優の多くも40歳を超えていることが多く、近年「オヤジ最強化」が進んでいると感じるのですが、いかがでしょうか? 若い俳優はアクション映画ではなく、いわゆるアメコミヒーローものへの出演が多い印象があるのですが。

宇多丸:確かにそうですね。アメコミヒーローものでもそこそこみんな年いってますし......。『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールドは若いですけど、強そうには見えない

まず全体に言えることとして、世代を経るごとに、人間はどんどん幼くなっているという問題があると思うんですね。「かつての40代はこうではなかった」、頼れるように見えるのは上の世代、という傾向があると。

例えば『インディ・ジョーンズ』を見てても、ハリソン・フォードの方がシャイア・ラブーフより頼りになるように見えますよね。そして、シルベスター・スタローンとリー・マーヴィンだったら、リー・マーヴィンのほうが頼り甲斐があるように見える。そういうものなんじゃないですかね?

昔のごつい人達、例えばバート・ランカスターとか、すごくガッシリしていて頼れそうに見えますよね。カーク・ダグラスとマイケル・ダグラスだったら、マイケル・ダグラスは負けるじゃないですか。そういう世代の差があって、やはり上の世代ほど頼り甲斐があるように見えるんだと思います。

ーーそういった「頼り甲斐」がアクション映画の起用にもつながっているんでしょうか? 例えば、若くてもトム・ハーディーなどはごつくて頼り甲斐があるように見えるのですが。

宇多丸:なるほど。確かに『マッドマックス』の新作とか、今後の活躍次第かもですね。でもちょっと可愛い顔してるんだよなぁ......あと、彼もそれほど若くはないですよね。

ーー『エクスペンダブルズ』では40代のジェイソン・ステイサムが若手扱いというのに驚きます。

宇多丸:確かに。そう考えると、そもそも映画というものはオヤジ、おじさんが活躍するものとも言える気がします。やっぱり頼り甲斐があると感じさせるには一定の年齢以上ということになるんじゃないですかね。

ーー筋肉量ではないと。

宇多丸:例えば、ウォルター・マッソーとかが主役を演じているわけですよ。見た目ただのおじさんじゃん! っていう人が。三船敏郎とかもそうですし。昔からそうなのかもしれませんね。少なくとも30代以上

ーーやっぱり男はそこからっていうことですかね?

宇多丸:そういうことにしておきます?(笑) 若い男が暴れてるとやっぱりチンピラが暴れてるように見えちゃうんですよね。

ーー例えバカっぽくても年をとってればそれなりに見えるということですかね?

宇多丸:年取ってると、それなりの理由があるように見えるんじゃないですかね。『96時間』も若い人が演じてしまうと乱暴さばかりが際立ってしまうと思いますし。

ーー人情を感じないと。

宇多丸:やっぱり人間味のバックボーンがないとキツイっていうことなのかな。ショーン・コネリーを見てても、年を取るほどいい役者に見えてくるのは、若いと冷酷な印象を受けるというか。ジェームズ・ボンド役も若い頃のほうが冷酷に見えますよね。

うーん......この問題は難しいですね。


ーー近年バイオレンス映画、痛快アクション映画の本数が増加しているように感じるのですが、いかがでしょうか?

宇多丸:やっぱり作りたくなったんだと思います。9・11、アメリカ同時多発テロ事件以降、ずっと難しかったぶん。

ーー事件のほとぼりが冷めてきたからですかね?

ほとぼりが冷めてきたのもあるでしょうけど、ただやっぱり、かつてのチャック・ノリス映画みたいな何も考えずに暴力を振るうような映画を作るのは今も難しいと思いますよ。『96時間』シリーズを見ても、かなり理由付けをしてると感じますし。もしくは『エクスペンダブルズ』みたく、「どこなんだここは?」っていうようなアホらしい話にするしかない。難しいは難しいんだと思います。

ーーそういったバイオレンス、アクション映画が多く製作されることに期待は持っていますか?

宇多丸:もちろん見たいですけど、どこも苦労してますよね。特に今は「誰にも言い分がある時代」なので、どこも悪役に苦労してます。それこそ『96時間/リベンジ』は敵側の言い分を描いているわけで。なかなかすごい時代だなと感じますね。

ーー暴力に理由付けが必要な時代になってるわけですね。

宇多丸:逆に、そこに説得力があれば時代に合ったエンターテイメントになりますよね。『96時間』シリーズはそこをクリアしてるのが良いと思います。

痛快アクションとは違いますけど、例えば『ダークナイト』のように、「こういう悪役なら今見てもアホらしくない」というものを作らないといけない。やっぱり「悪役がアホらしくないかどうか?」ですよ。

そこへ行くと『ダークナイト ライジング』は結果的にやっぱり悪役がちょっとアホらしく見えちゃってた気がします。「何それ?」、「それが理由なの?」という風に感じられてしまうとダメです。そこが勝負なんだと思います。それこそベインは正体不明のままでも良かったとすら思うんですよね。最後まで恐く描かれていたとしたら、全然印象が違ったはずです。やっぱりそこが難しいんだと思いますね。

ーーそれだったら『アベンジャーズ』のような悪役のほうが良いと。

宇多丸:そう思います。『アベンジャーズ』の場合、敵の存在感がほとんどゼロですよね。

ーーロキのキャラクターだけですね。

宇多丸:しかもロキはやられ役、完全にボケ役、いじめられ役っていうキャラクター。あのくらい戯画化するのも一つの手だと思います。怒られてショボンみたいな(笑)。あれだと後味も悪くないですし。

『96時間』は、娘がさらわれた、その身は人身売買組織にある、という誰も反論のしようのない大義名分ですよね。『96時間/リベンジ』は、復讐にやってきた、降りかかった火の粉は払わなければならない、というのは理由としてごもっともだと。となると、やっぱり3でどういう理由をつけてくるのか? ですよね。

ーー理由付けがちゃんとしていると、アクションの説得力も増すと。

宇多丸:と言うか、昔からアクション映画というのは、そういう説得力があるかどうかが名作かB級かの分かれ目になってたんでしょうね。

例えば一作目の『ランボー』は、もう暴力を振るうしかないところまで追い込まれてるからグッとくるわけです。そういった理由付けがちゃんとしたものこそが、いい映画になるんだと思います。

ーー最後に、今までの話とは全く関係がなくなってしまうのですが、今年見た映画の台詞で宇多丸さんの中で一番流行したものはなんでしょうか? ラジオでは『桐島、部活やめるってよ』の「おっまた~」をよく言っていた印象があるのですが。

宇多丸:「これだ!」っていうのがありそうなんですが、なんですかね......。

映画には出てきてないですけど、『バトルシップ』評の時の「祭りでい、祭りでーい!」は流行りましたねぇ(笑)。でもこれは映画の台詞じゃない......。あと、「レンターネコネコ~♪」って連呼して人をイライラさせたりとか(笑)。あとは「ぶちょお!」とか。こんなのばっかりだな(笑)。

他はなんですかねぇ......。これ! というのが思いつかないですね......ごめんなさい。

ーーいえいえ。本日はお忙しい中、ありがとうございました!

宇多丸:ありがとうございました。



RHYMESTER オフィシャルウェブサイト
TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル
映画「96時間 リベンジ」公式サイト

(スタナー松井)

関連記事

RSS情報:http://www.kotaku.jp/2013/01/rhymester_utamaru_interview.html