ユートピアとディストピアは紙一重。
「ユートピア」は何もかもが完璧な理想郷のはずですが、フィクションの世界には「そんなところには絶対住みたくない!」と思わせるような奇妙なユートピアもたくさん登場します。
そこで今回は「io9」に掲載された、映画や文学作品に描かれてきた、9つのどこか歪んだユートピアをご紹介します。
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1. 古典文学『ユートピア』のユートピア
「ユートピア」という言葉の発祥となったのが、イギリスの思想家トマス・モアが1516年に著した本、『ユートピア』。土地の所有権も犯罪も存在せず、誰もが信仰の自由や離婚の自由、無償の医療サービスを約束されて、野菜や穀物を育てながら暮らす世界です。
あ、「誰もが」は間違いでしたね。「奴隷以外の誰もが」です。外の世界から来た人間や、外で罪を犯した者は奴隷となり、住民がやりたくない仕事をすべて背負わされるのでした。
さらに婚前交渉は禁止されており、婚した女性は月に1回、夫に罪を懺悔しなければなりません。500年近く前に書かれた話なので無理もないですが、現代ならいろんな団体から抗議が来そう...。
2. 映画『2300年未来への旅』のドーム型居住区
2300年代、人々は巨大ドーム内に作られた街に住み、食べ物や寝るところの心配もなく、いつも誰かと気軽にSEX(わぉ!)しながら暮らしています。仕事も結婚も、面倒なことは一切ナシ。生活はすべて巨大コンピューターがまかなってくれるのです―30歳になるまでは。
30歳になった人々は、全員ドーム内の人口を一定に保つために殺処分されます。逃げ出そうとしても追跡者たちに見つかって殺されるだけです。
普通の世界と、好き勝手に暮らして30歳で殺される世界。どちらがいいですか?
3. 映画『ウォーリー』の宇宙船アクシオム
ゴミの山と化した地球を捨てて、人類がのんびり楽しく暮らす巨大宇宙船アクシオム。ふかふかの椅子に赤ちゃんのように座っているだけで、生活の何から何までを船の中央コンピューターが世話してくれます。
移動にも歩く必要が一切無いので、アクシオムの人間はみんなコロンコロンに太ってしまいました。万が一、椅子から転げ落ちても自分で起き上がることもできません。そんな超メタボ状態では、健康の問題もたくさんありそう。もし船の医療サービスが病気を治してくれるとしても、痩せない限りすぐにまた別の病気になりそうです。
あと、考えたくないことですが、みなさんトイレはどうしてるんでしょう。椅子にソレがついてるのだとしたら、つまりトイレに座ったまま一生を過ごすということに...。
4. 映画『デモリションマン』のサン・アンゼルス
1993年の映画『デモリションマン』の舞台は、ロサンゼルスからサン・アンゼルスへと成長した巨大未来都市。犯罪がなくなったこの街に、過去に冷凍刑になっていた極悪犯(ウェズリー・スナイプス)が蘇り、未来の警察では手に負えないので、これまた冷凍されていた刑事(シルベスター・スタローン)が解凍され、任務にあたるというストーリーです。
犯罪がないのはいいことだとしても、レストランはファーストフード・チェーンの「タコベル」だけ、トイレでは紙の代わりに3つの貝殻を使うのが当たり前。それのどこがユートピアなの? と思いますが、この世界に住んでいる人たちはそう思っているようです。
映画の中で、貝殻でどうやってお尻を拭くのかは最後まで説明されません。それを知った時、「そりゃーほんとにユートピアだわ」と思えるのかもしれませんが...ごめんなさい、知りたくないです。
5. 海外絵本シリーズ『ダイノトピア』のダイノトピア
アメリカの画家、ジェームズ・ガーニーが創作したダイノトピアは、恐竜と人間が幸せに共存する世界。ほかのユートピアものと同様に、お金も所有権も犯罪もなく、みんな仲良く暮らしています。恐竜と一緒に。
人間の文明と恐竜が同時に存在した時代はないので、不可能だと決めつけることもできませんが、ダイノトピアには草食恐竜だけでなく、肉食のヤツもいるんですよ? 仮に人間以外の動物の肉がたくさん食べられるとしても、恐竜が群れで移動したり互いにケンカしたりするだけで、生活は十分メチャクチャになりそう。
ついでに、シモの話ばかりで申し訳ありませんが、ダイノトピアには恐竜たちが落としていったソレを一日中掃除している人もいます。いくら恐竜好きでも、そこまでして一緒に住みたいでしょうか?
6. 古典文学『ガリバー旅行記』のフウイヌムの国
スウィフトの『ガリバー旅行記』でガリバーが最後に訪れるのが、フウイヌムの国。フウイヌムは人間をも超える知性を持った、ウマの種族です。彼らは完全に理性に基づいた社会を築き、そこには感情も、政治や宗教も存在しません。
彼らにはたとえば、一組の男女につき、男女一人ずつの子どもを持つことのみが許され、もし2人の子どもが同じ性別になってしまった場合、一方をよその家に渡す、という決まりがあります。
私たちの住む世界なら「オニ! 悪魔!」と非難されるところですが、文句を言うフウイヌムはいません。それは、子孫を残すという目的に基づいた合理的なルールであって、酷いことではないのです。
悪は被害者がいて初めて悪となります。誰もが感情を持たずに、合理性だけに従って生きることができれば、悪は存在しない。でもそんな世界に生きていて、幸せなんでしょうか?
7. アメコミ『シルバーサーファー』の惑星ゼン・ラ
惑星ゼン・ラはマーベルのスーパーヒーロー、シルバーサーファーの故郷。貧困も戦争もなく、科学が高度に発達した文明社会で、人々は仲良く幸せに暮らしていました。
...しかしこの星、攻撃されることが多すぎる! それもちょっとやそっとの攻撃じゃなく、50年に1回くらいの頻度で全滅に近いやられかたをするんです。
最初はジ・アザーと呼ばれる敵が、惑星のすべての生命を殺して文明を破壊しつくします。この時は本来の敵だったギャラクタスがなぜか温情を見せて、全員を生き返らせてくれました。しかしその後、シルバーサーファーがギャラクタスを怒らせてしまい、ゼン・ラの人々はまた殺されるハメに。辛くも生き残った500人ほどでまた幸せな生活を築こうとしますが、次はザ・グレート・ワンがやってきて、結局全員殺してしまうのでした。
中身がどんなに良くても、こんな星には絶対に住みたくありません。
8. 映画『未来惑星ザルドス』のボルテックス
ショーン・コネリーの胸毛がユートピア......じゃなくて。
カルトファンには堪らないジョン・ブアマン監督のこの作品。「未来惑星」なんてタイトルがついていますが、舞台は2293年の地球です。人類は不老不死の超上流層である「エターナル」と、超下流層の「ブルータル(獣人)」に分かれ、エターナルたちはボルテックスと呼ばれる世界に暮らしています。
必要な物は何でも揃っていて、やることといえば一日中座っているか、パンを焼くぐらい。もう住人たち自身があまりのつまらなさにウンザリして、男性は全員が不能になってしまうほどです。
そんな所に赤パンツひとつで飛び込んでくる、ブルータル代表のショーン・コネリー。不能の男性に飽き飽きしていた女性たちは大喜びで彼を捕まえ、イケナイ実験を始めるのですが...そんなこと以外に楽しみもなく、自分のことしか考えていない嫌な人間たちに囲まれて、不老不死のまま過ごす。拷問のようなユートピアです。
9. 映画『アバター』の惑星パンドラ
本作を見た多くの人が、パンドラの素晴らしさに感動したことでしょう。青々と茂る美しいジャングル、空に浮く岩山、白くしぶきをあげる滝、そしてすべてを守るかのようにそびえ立つ大樹。ああ、私もこんなところに住み......たい?
パンドラには恐ろしい猛獣、と言うよりRPGのモンスターのようなのがうじゃうじゃいることを忘れてはいけません。自然と共に生きていくなら、ヴァイパーウルフにあっさり食い殺されて、土に還るのもまた自然の摂理です。
また、地球人の体が適応できないパンドラに住む、ということはナヴィ族になるわけで、そうすると頭から出ているアノ触角のようなものを、自分が乗る動物の体の穴に入れなきゃいけません。人間が馬に乗る時に、自分の指を馬の鼻の穴に(または体の他の部分を別の穴に)入れなければ乗れないとしたら......ちょっとためらいませんか?
「富◯サファリパークでOK!」な人は、きっとたくさんいると思います。
[io9]
(さんみやゆうな)
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