家族再会の晩餐をアニマルマスク軍団が突然襲う、ホームインベージョン(家侵入)映画『サプライズ』。本作は良質なスリラー映画として絶賛されているだけでなく、女性から高い支持を得ています。
そこで今回は、斬新かつ爽快なショック描写と圧巻の女子力(じょしぢから)が魅力の本作を手がけた、アダム・ウィンガード監督へインタビューして参りました。木曜洋画風予告では(いい意味で)全くわからなかった、本編の内容に踏み込んでいます。
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ーー登場するトラップや殺人はどれも新鮮で、楽しい驚きを与えてくれますが、暴力表現の数々はどのように発想、演出していったのでしょうか?
アダム・ウィンガード(以降、アダム):トラップや殺人のアイデアやデザインは脚本の段階から入っていたものがほとんどです。そこで監督として心がけたのは、どの死も突然かつ凶悪であること。そして、作品にあるユーモラスな面を損なわないために、暴力がダークになりすぎないよう強く意識しました。そのために、一つ一つの死を少しユーモアのあるシーンで挟んだんです。
例えば、とあるキャラクターが死ぬシーンでは「明らかにこれは何か起きるぞ......」と観客にわかるような前振りをしています。そこで、「こう来たか!」という意外な死にざまを見せるわけです。このようにダークすぎず、でも暴力的に感じられるように作りました。
これは、アレクサンドル・アジャ監督の『ハイテンション』やルチオ・フルチ監督の作品などからインスピレーションを得ています。どれも恐ろしいけれどユーモラスな作品、そしてエフェクトは後付のCGではなく、撮影時に実際作る特殊効果をメインにしている作品です。
ーー本作は低予算なものの、それを全く感じさせません。製作にあたってさまざまな工夫が必要だったかと思うのですが、監督はどういった信念やモットー、こだわりを持って映画を作っているのでしょうか?
アダム:作品、企画によってアプローチや考え方は違いますね。これまでの自分の作品を振り返ると実験的な作りのものが多く、前作の『ビューティフル・ダイ』(11月30日日本公開)もダウナーでインディーな作りの映画でした。それに対して、本作はよりメインストリームに近いルールに則った映画にしたかったんです。
いわゆるハリウッド系の映画が作りたかったわけではありませんが、本作は既存のハリウッド的なルールに寄せてどんなものが作れるのか? という挑戦でもありました。もちろん本作にかけられる予算は大してなかったので、それをどういう風に使うかが肝心だったわけです。そこで、リサーチのためにいわゆるハリウッド大作をたくさん見ました。
例えば、自分が好きな『フェイス/オフ』などの作品がそうですが、明らかにお金がかかってるシーンではない部分、例えば爆発などではないシーンを見た時でも、「この作品はお金がかかっている」と感じられます。それはなぜだろうか? というのを考え、研究し、応用しました。あとは長年培ってきた経験で、安く見えないような作り方ができているんでしょうね。
ーー映画監督として影響を受けた作品、そして本作を作るにあたって影響受けた作品はなんでしょうか?
アダム:好きな映画に挙げる作品はいくつか決まっていて、『エイリアン』、『シャイニング』、『ブレード・ランナー』などがそうです。日本映画だと、『キュア』、『HANABI』が好きですね。
『サプライズ』を作るにあたっては、前述の『ハイ・テンション』以外にも、『ホワイト・アイズ/隠れた狂気』(日本未公開、VHSのみ)、『エイリアン』に影響を受けました。
直接的に模倣しているわけではありませんが、具体的に言うと、『エイリアン』に関してはホラー的なシーンのペース配分やカメラワーク、そして『ホワイト・アイズ』は暴力的な、グロテスクなシーンに抽象的なスローモーションが突然入ってきたりする演出から、インスピレーションを得ています。
それらへ80年代のB級イタリアホラー映画の持つ、少しゆるく、色んなことが同時に起きている、ある種アヴァンギャルドな暴力描写を合わせてみたいと思い、出来上がったのが『サプライズ』なんです。
ーーシャーニ・ヴィンソン演じる主人公のエリンは美人なものの、セレブリティタイプの華やかな美女でもなければ、パッと見戦えそうなほど屈強にも見えない、いわゆる普通の女性として描かれています。彼女を本作の主人公に起用した理由はなんでしょうか?
アダム・ウィンガード:やはり前半ではやり返さない、まさかこの人が? と感じるような、『エイリアン』でいえばリプリー(シガーニー・ウィーバー)のようなキャラクターにしたかったからです。
エリンを演じてもらうにあたって、女優もいわゆるモデル風の見た目で選ぶのではなく、実際にこの人だったらやり返せる、キック・アスできる、ヤバくなれる子がふさわしいと思い、シャーニを選びました。彼女にはダンスと振付のバックグラウンドがあるので、元々肉体的表現に長けていて、この役にはぴったりだったわけです。
ーーアメリカでの評判を見ていると、本作は女性受けが大変良いです。女性にエールを送ろうといった意図が作っている段階からあったのでしょうか? それとも、たまたま結果的にそのような評価が得られたのでしょうか?
アダム:他の女性主人公のホラー映画を見ていると、例えば『ハロウィン』や『スクリーム』などのいわゆる「ファイナルガール」ものはたくさんありますが、基本的に彼女たちは逃げまわって、叫んで、ラッキーで生き残っているというケースがほとんどだと思うんですね。なので、主人公をもっとアクティブな、やり返すキャラクターにしたいという思いがありました。
もちろん、これまでのホラー映画でもそういうキャラクターは描かれています。本作を作るにあたって頭に浮かんでいたのは、『悪魔のいけにえ』のリメイク版『テキサス・チェーンソー』です。この作品では、ジェシカ・ビール演じる主人公が持っているスキルを駆使してやり返します。しかし、彼女は自分が生涯見た中で最も浅いローカットのジーンズを履いていたり、コスプレ的な要素があったりと、フェティッシュでセクシャルな描写にあまりにも時間をかけすぎていると感じました。そこがリアルじゃないと気になったんです。
シャーニはとてもセクシーな女性なので、『サプライズ』でも主人公をセクシャルに、フェティッシュに撮ろうと思えばできました。しかし、エリンのキャラクターには合っていないので、過剰ではない女性としてのリアルな部分を見せつつも、やり返すときには男性的とも感じられるフィジカルな部分を見せるように撮りました。
こういった意識がたぶん伝わって、女性の観客からの好評価が得られたんだと思います。あとは、それを作った監督である自分が男性であることも大きいかもしれませんね。
ーー個人的には女性版ジョン・マクレーンが誕生したと思いました。そして、すでに「またエリンに会いたい」と感じているのですが、続編の可能性はあるでしょうか?
アダム:シャーニも含めて、作れるなら作りたいとみんな思っていますが、今のところ予定はないです。DVDの売れ行きなどによっては話が出てくるかもしれません。
それこそ『ダイ・ハード』ではありませんが、一生懸命同じようなシチュエーションを作って、そこへ同じキャラクターを放り込んで~という続編の作り方が必ずしも良いとは思えないので、どうしようかなあと迷いますね。ちなみに、『ダイ・ハード』は1が一番好きで、次に好きなのは3です。あとの作品は......うーん(笑)。
興味深かったのは、アダム・ウィンガード監督が『キャビン』のドリュー・ゴダード監督、『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』のジョン・ラッセンホップ監督も影響を受けたと語っていた、アレクサンドル・アジャ監督の傑作『ハイテンション』の名前を挙げた点。これだけ多くの作り手を刺激したとなると、昨今のアメリカのホラーブームにも『ハイテンション』は大きな影響を与えているのかもしれません。
一方、エリンの「やり返す」意志の強さ、そしてそれを可能とする肉体と精神の強さが「強い女性主人公もの」の魅力を強烈に再確認させてくれる『サプライズ』は、まさに最高の女子力(じょしぢから)映画。今後本作をきっかけに、強い女性主人公ブームが訪れることに期待です(少しきている気配も?)。
映画『サプライズ』は、11月14日(木)TOHOシネマズ六本木ヒルズ他、全国ロードショー。
配給:アスミック・エース
(C)2011 SNOOT ENTERTAINMENT, LLC
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(スタナー松井)
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