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第四話 第四章 依代  

著:古樹佳夜
絵:花篠

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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について

https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929

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◆◆◆◆◆神社◆◆◆◆◆

夕刻、廻り髪結の仕事が終わってから、
阿文は主人の待つ神社へと向かった。

長屋生活で集めた怪異にまつわる情報を報告するためだ。
吽野とは暮れ六に境内の前で待ち合わせている。

阿文 「少し早く着き過ぎたか」

今日は大店の娘たちに話しかけられることもなく、
仕事は早々に終わった。だから、まだ時刻は七つ頃で、
西の空に日が傾き始めたくらいだった。

阿文「吽行が来るまで、社の周りを綺麗に掃除しておくか」

髪結道具を片手に、阿文は境内へ続く石階段を上がっていく。

黒猫 「にゃあん」

ふと、小さな鳴き声に呼び止められた。

阿文 「ああ、なんだ。黒いのか」

阿文は微笑み、身を屈めると、黒猫の頭を撫でる。
黒猫は気持ちよさそうに、ゴロゴロと喉を鳴らした。

阿文 「ふふ。長屋から追いかけてきたのか? 残念ながら、今日は餌は持ってないぞ」
黒猫 「にゃーん」

黒猫は小さく鳴き声をあげると、阿文の少し前を歩き始めた。

阿文 「一緒に主人様のところに行くか?」
黒猫 「にゃあ」

黒猫は振り返って、目を細めて返事をした。


阿文 「さて、箒はどこに置いたかな」


石段を登りきった阿文は、早速自分たちの主人の待つ社に向かった。

ところが、社には奇妙な先客がいた。

何が妙かと言えば、相撲取りのような大きな体に、
大きさの合わない服を着ている。
それが、ひどくうす汚れた風体で、
ぼんやりとした表情で、お参りをするでもなく、
一人で立っている。
その大男は、じっと社を眺めていた。

阿文 (……この異様な気……! まさか)

阿文の横で、黒猫も毛を逆立てた。
けれど大男は、威嚇する猫の声に一瞥もしなかった。

阿文 「もし?」

阿文は声をかけた。しかし、

「……」

男が阿文の言葉に反応を示すことはなかった。
その場でゆらゆらと揺れながら、口をだらんと開けたままだ。
日の落ち始めた神社に、男と阿文は二人きりだった。
大男の影が長く伸びてくる。その様子は一層不気味だ。
しばらくして、男は社殿をぐるぐると回り始めた。
何が目的なのか、検討もつかない。
いよいよ阿文は警戒の色を強め、大声で呼びかけた。