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第五話第三章 鏡

著:古樹佳夜
絵:花篠

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◆◆◆◆◆骨董闇市◆◆◆◆◆
吽野 「この茶碗……! 不思議堂から盗まれたものじゃないか!」

吽野の大声に驚いたのは阿文だけではなかった。
茶碗を並べていた露天商は腰を浮かせて後ろに後ずさる。

?? 「この店の人は泥棒さんってこと、ですかね?」

さっき会ったばかりの、奇妙な男も、
目の前でしどろもどろになっている露天商に視線を注ぐ。

阿文 「ええ。うちは骨董屋なんですが、今朝店内の品物がごっそり無くなっていたんです」
?? 「そうか、だからですね。この子達が騒がしかったのは」

露天商 「えーと、あの……し、失礼!」
吽野 「こら! 待たないか!」

露天商は商品を置いたまま一目散に逃げていく。
吽野は懸命に追いかけようとするのだが、
向かう先は人波で、揉まれるだけでうまく先へは進めなかった。
その間にも、露天商は人を蹴散らしながら、
どんどん先へ行ってしまう。

吽野に追いつこうと、駆け出そうとした阿文だが、
隣にいた男が咄嗟に手首を掴んだ。

?? 「待って。『また置いていくのか』と、この子達が言ってます」

男は露店に並んだまま、置き去りにされた茶碗を指さし示す。
なんの変哲もないように見えるのだが、口調は至って真面目だ。

?? 「目を離すとまた盗まれちゃいますよ。ここ、無法地帯ですからね」
阿文 「でも……!」
?? 「まあまあ、任せてくださいな」

仮面の下で余裕の笑みを浮かべているようだ。

男は立ち上がり、ジーンズのポケットから紙らしきものを取り出した。

阿文 「そんなものどうするんですか」

よく見れば、それは丁寧に折り畳まれた折り紙だった。

?? 「とりあえず、足止めだけでいいですよね?」
阿文 「え?」

訳もわからず、素っ頓狂な声を出す阿文の返事を待たず、
男は折り紙に向かって呟いた。

?? 「急急如律令」

手の中で折り紙がむくむくと起き上がり、羽根を伸ばす。
阿文が「あ!」と声を上げた時には、それは鶴の形になっていた。

?? 「いけ」