このような経緯をふまえ、今年は両団体4人ずつ出場という形になったのだ。もちろんこの流れを作ったのは、阿部の活躍に一因があったのは間違いない。ただ、今回の対決には阿部自身も重圧を受けていたようである。
予選A卓は、河野高志・阿部・瀬戸熊・藤崎智という組み合わせとなった。
10年ぶりとはいえ、お互いの麻雀は十分知っている間柄。お互いが致命的な放銃を避けつつ、拮抗した状態でオーラスまで進む。オーラスは3着目の阿部が速攻を決め、瀬戸熊と共に決勝に進んだ。
一方、B卓は多井・谷井茂文・前原雄大・古川孝次という組み合わせ。
こちらもA卓同様、接戦のままゲームが進んでいく。終盤まで手牌に恵まれず我慢の麻雀を余儀なくされていた谷井がラス前の親でトップ目に抜け出してそのままゴール。
もう1人はオーラスのアガリ競争を制した前原が決勝進出を決めた。
阿部、冷静な判断で逆転勝利
東1局に4000オールを決めた前原が先行。これを阿部・瀬戸熊が追うという展開でゲームが進む。
このロン牌を阿部が一発で掴む。
前原はペン待ちで得意のガラクタリーチをかける。途中瀬戸熊に押し返されるが、瀬戸熊のリーチ宣言牌のを捕えて連荘に成功する。
阿部「リードの大きな状況でもそのガラクタ戦略に頼るのか、と。この時点で3万点以上の差はありますが、前原さんがこの打ち方なら逆転の可能性は十分あると思いました」
ちなみに阿部が前原の立場なら、先ほどの手はペンもペンでもテンパイを崩し、手なりでタンピン三色になったところで勝負のリーチに出るそうである。
南4局。阿部は5巡目にドラ2枚のチートイツでテンパイ。
前原がすでに1枚捨てている単騎でリーチをかけた。すぐに前原がを掴んだが、ここは踏みとどまって放銃を回避。
だが、終盤に阿部がラスト1枚のを引いて6000オール。これで親満で逆転するところまで詰め寄った。
その1本場。14巡目に阿部は条件を満たすテンパイを入れる。
すると、これに対し四暗刻イーシャンテンの谷井が、前原の無筋のを押す。
これをみて、阿部もカン待ちのまま追っかけリーチ。谷井の手も煮詰まっているようなので、谷井から出アガっても逆転できるように追っかけたのである。
すると、前原が一発でを掴んで、阿部がロン。オーラスの2局で逆転勝利を飾った。
一昨年からの活躍を機に、ついにファイナルまで駒を進めた阿部は、意気込みをこう語った。
の功罪
功は東1局の手牌。親でタンヤオのテンパイを入れた多井。
普通はピンズの単騎待ちの仮テンを入れ、タンピンの変化を待つ人が多いだろう。だが、「さすがにこの材料で、安手にしたくない。受けも良くみえたので、『どうすればカンでタンヤオ三色のテンパイになるか』」を考えた多井はを切る。ツモで345の三色テンパイに復活。特にツモの場合は文句なしに即リーチだ。他家が序盤にソーズの上を捨てており、の重なりが期待できることもこの決断を後押しした。また、ツモで雀頭ができたら、イーペーコー含みの待ちフリテンリーチを敢行するつもりだったという。
だが、このリードが多井の決断に悪い影響を与えてしまう。罪は東2局の手牌。
ここで多井はドラ切りでヤミに構える。この時点でアガリ牌のは場に2枚切れ。役が無いので出アガリはできない。なぜ多井はリーチをかけなかったのだろう?
つまり、追っかけられて致命傷になる可能性が低い、あるいは相手が引き気味で追っかけられないと踏んだらリーチをかけよう、という構想だったのだ。
多井「ただ、この局の反省点は、リーチをかけなかったことではなく、その後に楽をしてオリてしまったことです」
この後、前原・古川のリーチに抗しきれず、テンパイを崩しノーテン罰符を支払った多井。
多井の敗因は、2着まで勝ち上がれるシステムに過敏になりすぎたことだろう。仮に頭取りの決勝戦なら即リーチをかけるか、ヤミテンでも「楽をしないで」粘り強くテンパイ料をもぎ取っていたに違いない。