重圧と戦う選手たち
 対局を終え、選手やスタッフの打ち上げの席で、阿部孝則は非常に饒舌だった。男子プロ代表決定戦・因縁の対決を制し、ファイナルへの切符を掴んだことを喜んでいるのは間違いない。が、それ以上に対局前に受けていた重圧から解放されたことも大きかったはずだ。

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 今回の代表決定戦は日本プロ麻雀連盟vsRMUという対立構図でマッチメイクされた。プロ連盟所属のトップ選手の一部が団体を脱退し、新たにRMUという団体を設立したのが今から10年前。以降、この2団体間は断絶状態となり、選手同士の対局も実現しなかった。
 だが、一昨年、阿部が全日本プロ代表決定戦のベスト16に勝ち進んだことからその潮目が変わる。阿部は準決勝で敗れたものの、久々に見る元・鳳凰位3連覇の麻雀にニコ生のコメントは大いに沸いた。
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 そして翌年、ついに男子プロ代表決定戦にRMUの選手がノミネートされ、阿部は代表・多井隆晴とともに出場。その決勝では、久々に瀬戸熊直樹と多井隆晴というライバル同士の対決が実現したのである。
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 このような経緯をふまえ、今年は両団体4人ずつ出場という形になったのだ。もちろんこの流れを作ったのは、阿部の活躍に一因があったのは間違いない。ただ、今回の対決には阿部自身も重圧を受けていたようである。

阿部「最強戦というステージの大きさに緊張したこともあります。さらに、あくまで個人戦とはいえ、古巣との対決という構図でしたので、普段と多少違う意識にはなっていましたね」

 予選A卓は、河野高志・阿部・瀬戸熊・藤崎智という組み合わせとなった。
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 10年ぶりとはいえ、お互いの麻雀は十分知っている間柄。お互いが致命的な放銃を避けつつ、拮抗した状態でオーラスまで進む。オーラスは3着目の阿部が速攻を決め、瀬戸熊と共に決勝に進んだ。
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 一方、B卓は多井・谷井茂文・前原雄大・古川孝次という組み合わせ。
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 こちらもA卓同様、接戦のままゲームが進んでいく。終盤まで手牌に恵まれず我慢の麻雀を余儀なくされていた谷井がラス前の親でトップ目に抜け出してそのままゴール。
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 もう1人はオーラスのアガリ競争を制した前原が決勝進出を決めた。
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阿部、冷静な判断で逆転勝利

  決勝は前原・瀬戸熊・谷井・阿部の並びで始まった。
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 東1局に4000オールを決めた前原が先行。これを阿部・瀬戸熊が追うという展開でゲームが進む。
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 大きく動いたのは東4局。親の阿部がドラのpai_s_5m.jpgトイツのピンフリーチに対し、南家の前原が追っかけ。
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 このロン牌を阿部が一発で掴む。
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 暗刻のpai_s_chun.jpgが丸ごと裏ドラとなりハネ満。これで一気に前原のリードが広がった。前原は続く親でさらに畳みかけていく。
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 前原はペンpai_s_7p.jpg待ちで得意のガラクタリーチをかける。途中瀬戸熊に押し返されるが、瀬戸熊のリーチ宣言牌のpai_s_7p.jpgを捕えて連荘に成功する。
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 が、このリーチのみのアガリを見た阿部は、前原に隙ありと思ったという。
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阿部「リードの大きな状況でもそのガラクタ戦略に頼るのか、と。この時点で3万点以上の差はありますが、前原さんがこの打ち方なら逆転の可能性は十分あると思いました」

 ちなみに阿部が前原の立場なら、先ほどの手はペンpai_s_7p.jpgもペンpai_s_3p.jpgでもテンパイを崩し、手なりでタンピン三色になったところで勝負のリーチに出るそうである。
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 ただ、阿部にもなかなかチャンス手がこず、ラス親を迎えた。この時点では親の倍満ツモでも前原に届かない。
阿部「僕にとっては前原さんと瀬戸熊の点差が大きかったので、逆に良い展開だと思いました」
 つまり谷井・瀬戸熊の条件がかなり厳しいので、事実上前原との一騎打ち状態。この展開が阿部にとっては大きな追い風となった。

 南4局。阿部は5巡目にドラ2枚のチートイツでテンパイ。
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 前原がすでに1枚捨てているpai_s_haku.jpg単騎でリーチをかけた。すぐに前原がpai_s_haku.jpgを掴んだが、ここは踏みとどまって放銃を回避。
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 だが、終盤に阿部がラスト1枚のpai_s_haku.jpgを引いて6000オール。これで親満で逆転するところまで詰め寄った。
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 その1本場。14巡目に阿部は条件を満たすテンパイを入れる。
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 ここで、阿部は前原直撃かツモに賭けてヤミを選択。ところが、前原が終盤にpai_s_1m.jpgpai_s_4m.jpg待ちでテンパイ。ヤミだとpai_s_1m.jpgで出アガリできないので、ここでケリをつけるべくリーチに踏み切る。
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 すると、これに対し四暗刻イーシャンテンの谷井が、前原の無筋のpai_s_8p.jpgを押す。
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 これをみて、阿部もカンpai_s_3m.jpg待ちのまま追っかけリーチ。谷井の手も煮詰まっているようなので、谷井から出アガっても逆転できるように追っかけたのである。
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 すると、前原が一発でpai_s_3m.jpgを掴んで、阿部がロン。オーラスの2局で逆転勝利を飾った。
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 一昨年からの活躍を機に、ついにファイナルまで駒を進めた阿部は、意気込みをこう語った。
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阿部「ファイナルでも阿部らしい麻雀で、見る人の心に残るような一局一打を打って勝ちたいと思います」



pai_s_4p.jpgの功罪

 予選B卓の多井にはpai_s_4p.jpg絡みの2局に功罪があった。
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 功は東1局の手牌。親でタンヤオのテンパイを入れた多井。
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 普通はピンズの単騎待ちの仮テンを入れ、タンピンの変化を待つ人が多いだろう。だが、「さすがにこの材料で、安手にしたくない。pai_s_4p.jpg受けも良くみえたので、『どうすればカンpai_s_4p.jpgでタンヤオ三色のテンパイになるか』」を考えた多井はpai_s_6s.jpgを切る。pai_s_4s.jpgpai_s_5s.jpgpai_s_7s.jpgpai_s_8s.jpgpai_s_4p.jpgツモで345の三色テンパイに復活。特にツモpai_s_4p.jpgの場合は文句なしに即リーチだ。他家が序盤にソーズの上を捨てており、pai_s_7s.jpgpai_s_8s.jpgの重なりが期待できることもこの決断を後押しした。また、pai_s_3p.jpgpai_s_5p.jpgツモで雀頭ができたら、イーペーコー含みのpai_s_3s.jpgpai_s_6s.jpgpai_s_9s.jpg待ちフリテンリーチを敢行するつもりだったという。
 結果はpai_s_4s.jpgツモで構想通りの三色テンパイ果たした多井はヤミテンに構え、谷井から出たpai_s_4p.jpgで7700をゲットした。
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 だが、このリードが多井の決断に悪い影響を与えてしまう。罪は東2局の手牌。
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 ここで多井はドラ切りでヤミに構える。この時点でアガリ牌のpai_s_9m.jpgは場に2枚切れ。役が無いので出アガリはできない。なぜ多井はリーチをかけなかったのだろう?

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多井「僕のドラ切りで、まわりがドラを合わせて場が安くなったり、僕を警戒するようであればリーチにいく選択もあった」

 つまり、追っかけられて致命傷になる可能性が低い、あるいは相手が引き気味で追っかけられないと踏んだらリーチをかけよう、という構想だったのだ。
 ところが同巡にpai_s_9m.jpgが立て続けに切られ、場に4枚切れ。これではリーチもかけられない。

多井「ただ、この局の反省点は、リーチをかけなかったことではなく、その後に楽をしてオリてしまったことです」

 この後、前原・古川のリーチに抗しきれず、テンパイを崩しノーテン罰符を支払った多井。
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 多井の敗因は、2着まで勝ち上がれるシステムに過敏になりすぎたことだろう。仮に頭取りの決勝戦なら即リーチをかけるか、ヤミテンでも「楽をしないで」粘り強くテンパイ料をもぎ取っていたに違いない。