15年目に訪れた最大のチャンス

 さる9月11日。前日から全国200名弱の麻雀プロが集まり、全日本プロ代表決定戦が行われた。その決勝まで勝ち上がったのは、吾妻さおり・東谷達矢・中村庸人・近藤千雄の4名。

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 南4局2本場を迎え、優勝争いは東谷・近藤の2名に絞られた。両者の点差は僅か700点。先にテンパイを入れたのは近藤である。
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 これに対し、トップ目・東谷の手牌はイーシャンテン。
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 789の三色かpai_s_chun.jpgを目指す形だが、pai_s_chun.jpgだと余り牌がpai_s_9s.jpgとなり近藤に捕まってしまう。ところが、この時点でpai_s_7s.jpgが山に残っていなかった。つまりテンパイしても放銃か、良くて空テン。将棋でいう「詰めろ」の状態だ。直後、pai_s_6m.jpgチーでpai_s_chun.jpgバックのテンパイに取った東谷がpai_s_9s.jpgを捨て、近藤が全日本プロの頂点に立ったのである。

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近藤「全日本プロ予選には毎年参加していて、五度目くらいだと思う。それ以前はアマチュアの方にまじって店舗予選などにも参加していました。最強位は本当に取りたいタイトルなので、まずはファイナルに進めて本当に嬉しい」

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 近藤はプロ歴15年の37歳。日本プロ麻雀協会のB2リーグに所属している。苦節10年というが、麻雀プロ・近藤の歴史はまさにその言葉通りだ。近藤はプロ入り9年目までCリーグをうろうろしている打ち手だった。ところが10年目に入って3期連続昇級を果たし、それ以降B1への昇級を目指している。ただ、その間にもビッグチャンスも二度あった。2012年度の第11回日本オープン。一次予選から出場した近藤は、一次予選・二次予選・本戦・ベスト48・準決勝と勝ち上がっての決勝進出。半荘5回の決勝戦でも3戦目まで2位と50p離してトップに立っていた。が、ここで手に恵まれず痛恨の2ラス。RMUの北島路久プロに優勝をさらわれてしまう。

近藤「翌年はこの時の決勝シードがあって上から出られたのですが、即敗退。ですからもう日本オープンを取るチャンスはないと思っていました」

 だが、さらに翌年、再び一次予選から挑んだ近藤は決勝まで勝ち進んだ。ここでも初戦トップを決めたものの、そこから後退。二度目のビッグチャンスも物にすることはできなかった。
 だが、その近藤に三度目がやってきた。今回の全日本プロ代表決定戦も過去2回の日本オープン同様、数多くの参加者の中からの勝ち上がりである。

近藤「自分にとっては今回が最初で最後のチャンスかもしれないので、今回こそ絶対に優勝したいと思っています。そのために万全の準備をして臨みます」



鬼打ちで身につけた技術

 名古屋生まれ、男3人兄弟の末っ子として育った近藤。兄2人とは少し年が離れており、小学生の頃から家族麻雀をしていたという。慶応大学に入学した近藤はテニスサークルに所属。サークル内でのセット麻雀に誘われ、本格的に打つようになる。テニスと麻雀に没頭する学生生活を送っていたがだったが、麻雀熱の加速は止まらず、ついにはプロテスト受験を決意した。

近藤「テニスはこれからどんなに頑張ってもプロになれないけど、麻雀ならプロになれるんじゃないか。そう思って、当時仲間内で強かった自分と友人一人でプロテストを受験。が、残念ながら友人は落ちました」

 その後、フリー雀荘で腕を磨く日々が続く。月に東風戦800ゲーム打つ時期もあったという。だが、先述したようにリーグ戦ではなかなか上に上がれない。プロとして実績もなく、周囲の評価も低い。そんな現状を打破するために近藤が選んだのが天鳳だった。後に天鳳十段まで登りつめるID「どんよく」の誕生である。

近藤「フリー・協会ルール育ちの攻撃型として貪欲にアガリを目指す姿勢がどこまで天鳳で通用するのか試したかった。その打ち方をアピールする名前にしようと思った」

 以降、鬼打ちの場をフリー雀荘から天鳳に移し、多いときで月間1500G打った近藤は天鳳十段まで登りつめる。もちろんただ打つだけではなく、成績向上への努力にも余念がない。

近藤「天鳳では成績が完全に記録されますし、牌譜もすぐ見ることができるので、打った後すぐ検討できるのが大きなメリットでした。また、ツイッターのコミュニティで何切るなどの活発な議論がされているので、とても参考になりました」

 だが「放銃率が低い人ほど強い」という価値観に占められている天鳳界において、放銃率14%の近藤の評価は上がらなかった。十段到達までの過程をブログに記しても、単なる自慢話と叩かれ落ち込むこともあった。

 だが、ひたすら打ち続けたことで近藤の雀力は着実にアップしていく。超攻撃型の雀風を維持しつつ、手牌をスリムに構えたり順位戦でのゲーム回しなどの技術を身につけた。

 そういえば今回の対局でもこんなシーンがあった。準決勝B卓(近藤・本田大将・中村・新谷翔平)の南3局。トップ目で西家の近藤の手は役牌でドラのpai_s_sha.jpgがトイツの形だ。

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 7巡目、親の中村からpai_s_sha.jpgが放たれる。多くの人がポンしそうだが、近藤はこれを見送った。

近藤「ポンして圧力をかける手もあるが、手牌がぶくぶくになるのと、親のドラ切りなのでドラポンでも止まらない可能性があったのでスルーしました」

 その後、親リーチを受けるも、近藤は現物のpai_s_sha.jpgを回り、アガり切って親落としに成功。元々、超攻撃型の近藤にとって、この打ち方は天鳳で身につけたものといえるだろう。

 とはいえ、場に7枚切れているpai_s_3s.jpgpai_s_6s.jpg待ちでリーチをかけたり(準決勝東1局1本場)、2軒リーチに無筋を2枚押してアガりきる(決勝南2局1本場)など、随所に攻め屋の片鱗は見せていた近藤。おそらくファイナルでも台風の目になる存在となるのは間違いない。



すげえ一打

2着まで決勝に進める準決勝オーラス。トップ目の近藤はここで何を切ったか?
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中村への放銃を狙ったpai_s_4p.jpg切り

 近藤の手もイーシャンテンだが親がすでに2フーロ。次局に進めば、万が一の予選落ちもありうる。ここは、自力決着より2着勝ち残りを目指す中村にアガってもらうほうが手っ取り早く確実だ。
 では、何を捨てれば良いか? 親に通る牌で中村に当たりそうな牌を選ぶのが基本だが、近藤の手にその牌がない。親の仕掛けが純チャン・三色・一通など様々な可能性が考えられるからだ。
 ここで近藤は打pai_s_4p.jpgを選択。これが見事中村のロン牌となり一発でケリをつけたのである(親の待ちは一通のカンpai_s_5s.jpg)。pai_s_4p.jpgは親にも無筋だが、親満など致命傷になる可能性は極めて低い。中途半端に打ち渋らなかった近藤の決断力が光る一打であった。