この中から決勝卓に進んだのは、A卓から白鳥と古橋である。
だが、その勝ち上がりは対照的だった。南2局まで誰も3万点を超えず、かつ2万点も割らず(古橋が一瞬18200になったが)という超僅差の展開だった。ただ、常にトップ目で余裕を持ちながらゲームを進めたのが白鳥で、逆に序盤からずっとラス目でオーラスの一局で2着に滑り込んだ古橋。言葉は悪いが「エリートと雑草」、そのぐらいの違いを感じた。
余談だが、この2人は控室でこんなやりとりをしていた。
古橋は無言で笑うだけ。白鳥の軽口をサラっと流す。これだけだが、私にとっては面白い応酬だった。古橋は門前タイプだということ、砕けた口調でもお互いの麻雀に対する自負は強いのだ、ということが分かったからだ。実際古橋はこの対局でも全く仕掛けを入れなかった。
古橋「高校生の時にモンドを見ていて、好きだったのが森山茂和プロ。また、プロとして麻雀を教わったのが望月聖継プロだったので、自然と門前手役派になったのかなと思います」
古橋にとって、白鳥は倒したいライバルの筆頭だ。年は2つ下だが、プロ連盟の同世代で実力も実績も一番。まさにエリートだ。しかも雀風は自分と全く異なるタイプ。その白鳥と一緒に勝ち上がったことで、古橋の気持ちは一層高ぶっただろう。
一方、B卓から勝ち上がったのが石井と水口である。
こちらもA卓同様、僅差のままゲームが進む。その中から南2局、石井が小三元・ドラ1の満貫をツモって当確ランプを点けた。オーラス、ラス目の内川が7巡目に逆転のメンホンリーチをかけるも流局。2着の水口がそのまま勝ち上がりを決めた。
トップ目の水口が3万点前後を維持し、その間誰も2万点を割らずに耐えている。守りの麻雀というよりは「見切りの麻雀」とでも言うべきか。序盤は大きく狙いつつ、相手の動向を探りながら手牌に溺れず適当なところで安手やテンパイで妥協する。だから決定打となるアガリも致命傷となる放銃も出なかった。
そんな均衡を破ったのが古橋だ。南2局の親で先手を取る。
ひとまずテンパイ。打での待ちは決して良い待ちとはいえないが、点数差が小さいだけに親リーチによる子の足止め効果は絶大だ。だが、古橋はその誘惑を振り払う。せっかくのチャンス手なのに、三色もイーペーコーも消え、かつ不安の残る待ちで形を決めたくなかったからだ。
次局、古橋の親が落ち、優勝まで残り2局。白鳥と水口の親を蹴れば優勝となる古橋。だが、ここで親の白鳥が立ちはだかる。門前派の古橋が珍しく仕掛けるやいなや、すぐに白鳥も仕掛けで応戦し局を流させない。そして南3局1本場では古橋より先にテンパイを入れてリーチ。これに対し、古橋の手が完全に手詰まりになったのだ(すっげぇ一打参照)。
古橋「この局が一番苦しかったですね」
安全牌ゼロの状態だったが、古橋は焦らずじっくりと読みを入れて放銃を免れた。最大のピンチを凌いだ古橋に今度は逆に幸運が訪れたのだろうか。粘る白鳥の親を、オーラスの逆転に賭けた石井がアガって落としてくれた。古橋にとっては望外の進局である。
さらに、オーラス。ラス親・水口のリーチを受けながら、古橋もテンパイを入れるべく粘っていた。すると何と4枚目のを引き入れてテンパイ。
山にが残っていなかっただけに正に奇跡のテンパイである。これをアガって古橋がサイバーカップを制し、新たなスターになる権利を得た。プロ入り11年目にして初めて掴んだビッグチャンスだ。
いや、正確に言えば二度目か。実は古橋は以前にもチャンスを掴みかけていたのだ。それが第12回野口賞である。この舞台で古橋は決勝戦まで駒を進めていた。だが、決勝では井出康平プロの前に敗れてしまう。
古橋「井出さんは1つ年上ですがプロ連盟同期でプロテストの時からライバル視してました」
井出は野口賞受賞後、最強戦・モンド杯にも出場し、昨年はモンド杯優勝も果たしている。もしあのとき井出に勝っていれば…、古橋がそんな想像をしたのは一度や二度ではないはずだ。
古橋「人生最大の大舞台。リーグ戦もお休み(前期にA2昇級を果たし後期は対局なし)なのでファイナルだけに集中してトレーニングし、さらなる門前手役派麻雀で優勝目指します!」
古橋「まずの後の切りリーチなので付近が何らかに関連していることが1つ。加えて、白鳥の捨て牌が、との後の字牌の手出しなのでがシャンポンやカンチャンで当たる可能性は低いからです」