今日はたくさんの方が来られるようです。
 忙しくなりそうですから、お迎えする準備を急ぎましょう。
 
 そんな言葉を聞いて、私たちはみんなでお迎えの準備を始めた。
 ここには老いた者も若き者も、たくさんの人がいる。眠る者もいれば、ゆったりと過ごす者もいる。
 お迎えと言っても、そんなにたいそうなことをする訳じゃない。ただ、お迎えをするだけだ。
 
 しばらくすると、言ってたとおり、たくさんの人が遠くから静かにやってきた。
 大げさな歓待などしないが、みんな控えめに「寒くなかったですか」とか「疲れてませんか」と声を掛け寄り添うように一緒に白く長い一本道の先へ進んでいく。
 
 来た人は遠い道を来たんだろうか、それともそう感じるだけなんだろうか。表情は疲れた感じでもあり、何か考え込んでいるような表情の人もいる。
 わたしたちはそんな人たちのために、頭を整理する時間を歩きながら作っている。
 
 
 たくさんの来た人の中に、女の子が一人いた。
 
 「あっちゃんじゃないか!」
 
 迎える側にいた老婆が、少し驚いたように女の子に声を掛けた。
 
 「おばあちゃんは、だれ?ねえ、ママを知らない?いつの間にかはぐれちゃったの。」
 
 女の子は、そうつぶやいて、小さくくしゃみをした。
 老婆は、女の子のそばに寄り、を静かに抱きかかえるとゆっくり話し始めた。
 
 「そっか、あっちゃんはばあちゃんのこと知らないんだね。でもばあちゃんはね。ずっとあっちゃんのことを見てたんだよ。まさか、こんなに早く会えるとは思わなかったし、ほんとはもっと、あっちゃんの大きくなる姿を見ていたかった。」
 
 話しかけながら、老婆は静かに泣いていた。
 
 「ママのところに帰りたいの。ママはどこにいるの?」
 
 女の子の問いかけに、老婆はしばらくの沈黙の後に答えた。
 
 「あっちゃん、いきなりの話でびっくりしちゃうかもしれないけど、ママはちょっと遠くに行っちゃったんだ。というか、あっちゃんが少し遠くに来ちゃったって言う方が正しいかな。これからは、なかなかママに会うことが出来ないけど、でもね、ママが何をしているかは、不思議な窓から見ることは出来るんだよ。そして、1年に一回だけはママのところに遊びに行けるんだ。その時は、ママの背中をぎゅっと抱きしめてあげてね。そしたらきっと、ママもあっちゃんがそばにいることがわかるはずだよ。」
 
 聞きながら、女の子も静かに泣いていた。
 
 僕も、母さんのことを思い出して泣いた。


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●「人、来る」 灰我染也(リアルテキスト塾12期生)