だれもうらみたくねぇな
頼(より)はそうおもった
頼は30前に結婚をした
1年後、連れ合いは病にかかり
頼はこらえてばかりになってしまった
あいつのことは大切だけど
抑えつづけてるおれの気持ちはどうなるわけ?
でもはなれたくない訳よ、ほかの奴と一緒にはいられない訳よ
あいつのかなしい顔はみたくないけど
俺のくるしさは、どうすりゃいい?
連れ合いは今はもう、なにもできない
ただしやはり頼のことはすきなようで
どんなことをいわれたとしても、頼からはなれる選択肢は無いようだ
こんなとき「そこにいてくれれば、それだけでいい」なんて
ピュアな気もちで居たい
トントン拍子に進んでいく奴らの仲間に入りたい
俺はおまえらより数倍苦労してるはずなのに、どうして何処にも行けねぇの?
世の中色々あるからって、ふたりでちぢこまって生活していくなんて
そういう心境になるのはまだまだ若すぎねぇ?俺
頼はいつも、底で、「心だけの存在になりたい」「身体は要らない」とおもっている
そうなれば相手を純粋にあいせるような気がするからだ
身体があるから、この世が在るから、自分やあいつや周りをうらんじゃうんだ
俺は今、くるしくて仕方が無い
なんか、みとめられたい
つらすぎるのは、単なる被害者意識で、
自分の責任であると、すべてひきうける程に頼は強くない
また頭でそれをわかっている分、もう何処にも行けなくなってしまったと
頼は毎日静かに絶望し続けている
誰かとはなれることのつらさはもう味わいたくなかったし
なくなることによって誰かを苦しめることもしたくない
だから、最初から心だけの存在になって、そしていっしょにいたい
お金もかからず、欲もなく、ただいっしょにいたい
そういう気持ち、もうどっかにいっちまったな
だれもうらみたくないのに、うらんじゃってるよな、実際
頼は「早く、時間が経ってくれないかな」そう思っている
はやく今を懐かしがりたい、そう願っている
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慌ただしかった此処数年が過ぎ去り只今、充電期間に入っています。
でも、もう少しで抜ける気もしています。
なので、出来る限りぼんやりしていきたいとおもっています。
●「うらみと時間」 稲葉多恵(リアルテキスト塾12期生)