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家電論(1)
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家電論(1)

2012-09-13 22:04
    家電の崩壊。

    シャープの崩壊は、戦後日本の崩壊である。シャープペンシルからはじまり、電卓でカシオと世界覇権を争い、国産ワープロ書院を作り、ザウルスを作った「目の付けどころがシャープ」の崩壊である。

    1981年に僕はシャープの書院を買った。それまで写植屋をやっていたので、機械で文章を打つのは慣れていた。なにしろ70年代は写植で原稿を書いたり手紙を書いてたりした。写植の校正用に複写機を使ってたが、それもシャープ。

    81年のワープロは150万円くらいして、最初に女性のインストラクターが事務所に来て操作方法を教えてくれた。機械が新しいカルチャーとともに登場してくる感じがあった。

    82年ぐらいに、僕は銀座で手帳情報センターというのを作って、あらゆる手帳を収集した。僕は手帳が文庫本の次のメディアになると思っていたw 83年に平凡社の別冊太陽で「手帳の本」というのを作った。

    まだファイロファクスも入ってこない時代だが、奈良聡一郎さんに出会い、彼の考案したシステムダイアリーに興奮した。奈良さんは、戦後、NCRでビジネスシーンのファイリングシステムを紹介していた。

    独立して、奈良コンピュータシステムを創業。それまでパンチデータだったコンピュータにテレビをつなげた。ビジネスショーで発表して話題になったが、翌年、大手がみんな模倣した。

    奈良さんのシステムダイアリーは、最初、その会社の社員手帳だった。コンピュータの機能を、ファイリングの知識と合わせて、手帳かしたのだ。

    奈良さんは、当時、御茶ノ水の古い洋館に住んでいて、僕らは「御茶ノ水博士」と呼んで、よく遊びに行った。それで「手帳の本」を出すので、奈良さんに「未来の手帳」のイメージを描いてもらった。

    それはコンピュータと紙の手帳が合体したもので、イラストレーターに頼んでイラスト化して掲載した。どこかにあるかな? あとで探してみる。

    その本が出てから、しばらくして奈良さんのところにシャープのスタッフが訪問した。彼らが企画していたものが、奈良さんのイメージとドンピシャだったのである。何度もヒアリングしていた。

    そして登場したのがザウルスである。

    ECD石田くんのツイート。RT ECD @ecdecdecd橘川さんの紹介で子供調査研究所というところでSONYが募集しているという新しいラジカセのアイデアのレポートを書いた。スピーカーなしヘッドフォンのみのラジカセというアイデアをイラスト入りで提出した。もちろんウォークマン誕生前のこと。

    石田くんは日本を代表するラッパーだが、彼が高校生の頃、よく会ってた。子ども調査研究所は、僕のメディアの故郷ともいう会社で、そこでは、あらゆる業態の企業からのマーケティング調査を行なっていた。そこでグルインやったのだろう。

    何を言いたいかというと、70年代から80年代前半までは、メーカーは必死になって、何もないところから、新しい商品を産み出そうとしていのだ。その情熱と努力が新しい商品として僕らの前に登場した。

    日本の家電、家電だけではないが、生活産業を支えていたのは、マーケティング力だった。人の気持ちを察することが出来る日本人が得意とする能力だと思う。それが、バブルで崩壊した。質の追求から量の追求へ進んでしまったのだ。

    90年代に入って企業は外部パートナーをマーケティングの会社から、アカウントのコンサルテイング会社に変更した。その結果何が起きたかというと「選択と集中」である。ものづくりを何と考えているのだ、馬鹿野郎w

    市場開発的な挑戦的な商品開発が出来なくなり、誰もが文句を言わないマーケットの大きな商品に企業エネルギーを集中させた。しかも、各社横並びでそんなことしたから、半導体でパンク、テレビでパンクした。

    この辺の事情は、日経BPオンラインで、元博報堂生活総研の所長だった林光くんと対談しているので、読んでない人は読んでおいてね。

    ワープロが全社同時に止めたのは、今考えるとシンボリックなことだ。確かにWindowsが派手に登場して、ワープロの未来に不安があったのだろうが、それでも確実に利用者層があったのだ。

    今も続いていれば、大きなマーケットにはならなかったかもしれないが、確実なマーケットは維持出来た。少なくともワープロ事業部が食っていけるだけのビジネス構造は成立していはずだ。選択と集中で排除されたのだろう。

    さっき、カミさんとメシくいながら話してて、カミさんはシャープとも仕事したことあるが「ザウルスだって、ちゃんと続けていれば、ザウルスPADで、いけたかも知れない」と言った。

    ワープロもザウルスもヘビーなユーザーを抱えていた。彼らをメーカーは裏切ったのだ。ユーザーの期待を切り捨てたのだ。それは絶対にしてはいかんよ。未だにオアシスの部品や消耗品を買い求める人がいる。

    日本の家電メーカーが中国に進出する時に、僕はマーケットの大きさだけで行っても失敗する。日本のマーケティング技術を先行させるべきだと思っていた。中国人がどんな色が好きかとかライフスタイル分析はどうかとかの上で商品投入すべきだと。

    単なる世界標準商品を作っても、価格競争にまきこまれるだけ。僕は、まず中国にドゥハウスみたいな会社を作って、DOさんを組織しろと、あめメーカーに進言したが却下w

    日本のメーカーが生活者と会話しながら、創造的な商品開発をしてきた歴史が90年代で断ち切られている。冷蔵庫も洗濯機も各社ほとんど横並びで工夫がない。ドラム式洗濯機の告発は、BPの柳瀬くんがやってるw

    シャープのザウルス担当だったSさんは、冷蔵庫事業部に移動して、みんなに「大変だねえ」と言われていたが、「温蔵庫付き冷蔵庫」をヒットさせて、驚かせた。

    そういう「目のつけどころがシャープ」な商品開発をやっていれば、サスティナブルな企業体になったのに、工場ギャンブルに失敗して、第二の日産か。商品開発者たちがかわいそうだ。どこかの時点で「目のつけどころがフラット」になってしまったのだろう。

     
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    橘川幸夫放送局通信
    更新頻度: 不定期
    最終更新日:2015-03-24 09:21
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