バナナといえば、熱帯で育つ南国フルーツの代表格。世界有数のバナナ消費国である日本ですが、残念ながら国産バナナはごくわずか。消費量のほとんどを海外からの輸入に頼っています。
ところが、専門農家ではない、とある“バナナ素人”の発見によって、日本でも極上のバナナの生産が可能になったのです。それどころか世界の“バナナ危機”の救世主になるのでは? と期待されているとのこと。その発見とは、バナナに氷河期を経験させることでした。
「氷河期」を体験させて生まれた奇跡のバナナ
image via shutterstock ※画像はイメージです奇跡のバナナ「ともいきバナナ」を生み出した田中節三さんは、現在69歳。60歳ごろまで海運・造船業に携わっていました。仕事でインドネシアや台湾を訪れるうちに、子どもの頃から大好きだったバナナをはじめとする熱帯果樹に興味を持ち、自分で作ろうと栽培をはじめました。
しかし日本の気候でおいしいバナナを育てることは、素人には至難の業。試行錯誤を続けるうちに、氷河期を乗り越え生き続けるソテツ(植物)のドキュメンタリー番組を見て、「人工的に氷河期を体験させれば、植物の生命力を最大限に引き出せるのではないか」というアイデアを思いつきます。
そこからさらに研究を重ねて誕生したのが、バナナの「凍結解凍覚醒法」。バナナの種子をマイナス60℃でゆっくりと冷却。負荷を与え、その環境情報をリセットすることで、バナナが持つさまざまな可能性が発現したといいます。
皮ごと食べられる「濃厚スイーツ」に
奇跡の国産無農薬バナナ「ともいきバナナ」。甘く濃厚で皮ごと食べられる。氷河期バナナは糖度が非常に高く、香りも芳醇で、甘さに満ちた「濃厚スイーツ」のようなおいしさ。皮まで口当たりがよく、そのまま食べることができます。
「凍結解凍覚醒法」により遺伝子のチカラが強まったことによるメリットは下記の通り。
ふつうのバナナの倍の早さで実がつく 糖度はふつうのバナナの1.5倍(25度)。甘く濃厚で皮ごと食べてもおいしい 赤道直下でない日本でも育てることができる 収穫時期を調整できる 病害虫耐性が高まるため無農薬栽培が可能2018年3月には「植物の特性を増強する方法」として特許を取得。世界的にも注目を集めており、すでにパイナップルやパパイヤ、カカオ、マンゴスチン、カシューナッツなどの栽培、収穫にも成功しているそう。氷河期を疑似体験させることで、これほど植物の性質が変わるとは驚きです。
世界の食糧危機を救う存在に?
「ともいきバナナ」の栽培法「凍結解凍覚醒法」は、世界から注目を集めている。この「氷河期バナナ」が大きな注目を集める理由のひとつには、世界的な異常気象があります。
近年、アジアのバナナ産地は干ばつや台風の被害を受けることが増えています。さらにバナナの木を枯れさせる「新パナマ病」の感染が広範囲に広がり、日本の最大の輸入元であるフィリピンでも生産量が減少。現地の生産者団体は、遅くとも2023年ごろにはフィリピン産バナナが収穫不可能になるのではないかと危惧しているといいます。
おいしくて栄養価が高く、しかも安価なバナナは、日本人の生活には欠かせない存在。すでにパンデミック状態だというアフリカやフィリピン地域のバナナ農家にとっても、氷河期バナナの技術はきっと役立つはずです。
「ともいきバナナ」を生み出した田中さんの夢は、「小麦、大豆、とうもろこしなども“凍結解凍覚醒法”によって品種改良し、 いずれシベリアの広大な土地で栽培・収穫する」こと。水が豊富で土壌も肥沃なシベリアで、寒さに負けずに農作物が収穫できれば、世界の食糧不足は一気に解決するとも言われているそう。ひとりの“バナナ素人”のアイデアと、約40年にわたる地道な研究の成果が、これからの農業を変えていくかもしれません。
[ともいきバナナ]