夏になると、自分の体から発するニオイがいつも以上に気になり、ニオイ対策にも力が入ります。しかしじつはそこに「落とし穴」があると話すのは、ニオイ研究の第一人者である体臭と多汗の専門医・五味常明先生

自己流でやりがちな「二オイ対策」のNGについて、前後編に渡ってお届けします。

まちがった努力がかえって「ニオイ」の原因に?

近年は食の欧米化や、社会環境の変化によって、体臭に悩む人が劇的に増えていると語る五味先生。

五味先生 :

自分のニオイが気になるときにやりがちなのが、自己流のまちがった「ニオイ対策」です。

よかれと思ってしていることが、逆に体臭や口臭を悪化させているケースがよくあります。

努力の方向性さえまちがわなければ、ちょっとした生活改善で「“クサイ”を“いいニオイ”に変えられる」という五味先生。よくあるNG習慣と正しいケア方法を教えていただきました。

NG習慣1. なるべく汗をかかないようにしている

「汗は体臭のもと」と思われがちですが、じつはそうではないと五味先生はいいます。

現代人は運動不足、しかも1年を通して空調のきいた部屋で過ごすため、汗をかく汗腺の機能が低下しがち。これが体臭悪化の要因となっているのだそう。

五味先生 :

汗には「いい汗」と「悪い汗」があり、「いい汗」はほとんどが水分なので、サラッとしてニオイません

そのうえ「いい汗」をかくと体温上昇によって血液中のミネラル分と水分が汗腺に取り込まれる際、体に必要なミネラル分が血液に再吸収されていきます。

皮膚面に排出されるのは、水分とわずかな塩分のみなので、蒸発しやすく、気化熱による体温調節をスムーズにする役割を果たします。

ところが運動不足やエアコンにより汗をかかない生活をしていると、汗腺が休眠状態に陥り、ミネラルの回収機能も衰えてしまいます

残された汗腺はそれを埋め合わせるために、大量の汗をかかなくてはいけない。おまけにミネラルも回収できないので、大粒で粘度が高く、ねばねばしてニオイの強い汗になるのです。

「いい汗」をかくためには、日頃から汗腺を鍛えることが大切。

汗をかくことを恐れず、運動を心がけ、夜はしっかり湯船につかることで、汗腺の機能を高めることができます。

NG習慣2. 朝、出勤前にお風呂に入る

朝風呂に入って体を清潔にするのはニオイ対策によさそう……と思いきや、大きな落とし穴があると五味先生。

五味先生 :

朝でもゆっくり入れるならいいんです。でも、朝は時間がない人が多いから、お風呂の後が慌ただしくなる。それが体臭にはよくないのです。

お風呂の後は必ず体温が上がり、汗をかきます。それをエアコンで体を冷やしながら急いで身支度すると、まだ体内には熱がこもっています。

その状態で外出すれば、どっと汗をかく。「どっとかく汗」は「悪い汗」で、粘度が高く、ミネラル分がたくさん含まれているのでクサイのです。

五味先生のおすすめは、お風呂は、ゆっくり風呂上がりの時間がとれるときに入ること。

お風呂から上がったら十分に水気を拭き取り、すぐ服を着ないで自然に汗が蒸発するまで乾かすと、汗腺が鍛えられ体臭改善に役立つといいます。

NG習慣3. 毎日念入りにシャンプーしている

五味先生いわく、「頭のニオイを気にしている人は洗いすぎ」。洗浄力が強い合成シャンプーで洗いすぎると、汚れだけでなく頭皮の皮脂も洗い流してしまうことが問題です。

五味先生 :

頭部というのは皮脂腺の多い場所で、ある一定の皮脂がないと頭皮の健康は保てません。

それを洗いすぎるとどうなるか。じつは体というのは、不足したものを補おうとするんですね。“皮脂が足りない”と皮脂腺が判断すると、より多くの皮脂が分泌され、皮脂腺の毛穴がつまります

皮脂がつまると酸化が起きる。酸化した油というのはクサイですから、それで頭皮がクサくなるんです。

世界的にみても、日本人ほど髪を洗う人種はなかなかいないと五味先生。男性より皮脂が少ない女性であれば、本来は3日に1度くらいでもよいのだそう。

せめてシャンプーは1日おきにして、「流水洗い」の日を増やすこと。そのかわりブラッシングをていねいに行うことが、五味先生のおすすめです。

NG習慣4. シャンプーは朝シャン派

朝シャンが問題というよりは、その後ドライヤーで髪を乾かすことがニオイの原因に繋がりやすいと五味先生。

五味先生 :

毛髪の表面を覆っているキューティクルは熱に弱く、ドライヤーの熱風で傷みます。

傷がついたり、枝毛ができたり。そうすると、そこにニオイ物質が付着しやすいんですよ。

しかも、朝は時間がないから半乾きで出かけたりするでしょう。しめった状態はニオイを吸着しやすいので、電車に乗ると周囲のニオイがついてしまいます。

ドライヤーによる傷みを防ぐには、なるべく熱風を控えること。よくタオルで吸湿させてから送風メインで乾かすと、髪の傷みを防ぐことができますよ。

NG習慣5. 外出時に汗をかいたらハンカチで拭く

とにかく「汗クサイ」ことだけは絶対に避けたい! そんなときにやりがちなのが、「乾いたハンカチやタオルで汗を拭く」こと。これもよい習慣のように思えますが……。

五味先生 :

じつは汗は、完全にふいたらダメなんです。汗は蒸発することで体温を平熱に下げていて、いったん平熱になれば汗は止まります。

ところが汗が出るたびに拭いていると、汗が蒸発できていないから体温が下がりません。後から後から汗がわいてきてクサくなってしまいます。

そこで役立つのが、濡れタオルやウェットティッシュ。これなら汗をふきとりつつ、水分の蒸発により体温を下げる役割を果たしてくれます。

乾いた布では拭き取れない、汗のニオイの原因となる皮脂汚れや塩分、皮膚に残った雑菌などもオフできるので一石二鳥です。

NG習慣6. 制汗剤を体中につけている

「汗は蒸発させるべし」という大原則は、制汗剤の使い方にも関わってきます。

五味先生 :

制汗剤には汗腺の穴を塞いで、汗を抑える成分が入っています。それを使っていいのは、脇と足だけ。どちらも日中は覆われていて、汗をかいても蒸発しにくい、体温調節にあまり関わっていない場所だからです。

とくに脇汗は暑さによる発汗というよりも、精神性発汗といってニオイの強い汗をかきやすいので、制汗剤を使うのもいいと思います。

しかし、脇と足以外の箇所にまで制汗剤をつけると、汗をかけなくなって体温調節できなくなり、熱中症になる恐れがあります。

体の汗のニオイが気になるなら、むしろ服に消臭スプレーをかけておくことをおすすめします。

体臭と多汗の専門医・五味常明先生に聞く「まちがったニオイ対策」。

後編では口臭ケアを中心に、ニオイケアに役立つ食生活についてお話をうかがいます。

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五味常明(ごみ・つねあき)先生
五味クリニック院長。体臭・多汗研究所所長。1949年長野県生まれ。一ツ橋大学商学部、昭和大学医学部卒業。昭和大学形成外科、多摩病院精神科などを経て、「心療外科」という新しい医学分野を提唱。体臭・多汗治療の現場で実践。テレビや雑誌でも活躍中。著書・監修本も多数。

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