「眠るときはパジャマがいい」「部屋着で眠るとよく眠れない」とよく聞きます。でも、最近は部屋着もラクなものが増えていて、本当にパジャマじゃないとダメなの? と疑問に思うことも……。
パジャマの真実はどこにあるのか、衣服の快適性と機能性の専門家である佐藤真理子教授(文化学園大学 服装学部 教授)にうかがいました。
パジャマに求められる4つの役割
佐藤教授によると、じつはパジャマには、4つの重要な役割があるのだそう。
1.温度・湿度の変化から体を守る
佐藤教授 :
たとえば、上に掛けていた布団を夜中にはいでしまったら、ベッド内の温度や湿度は変わってきますよね。こうした「寝床内気候(しんしょうないきこう)」の変化に対する緩和剤となり、体のまわりの空間の温湿度を安定させてくれるのがパジャマです。
ベッド内の環境は人によって違います。裸や露出度の高い衣服で寝るとダイレクトに室内環境の影響を受けるので、夏場はクーラーの風で体調を崩すことも。パジャマを着れば、環境の変化から身を守りやすくなります。
2.「モードチェンジ」を促し入眠へ誘う
佐藤教授 :
心理的な効果という観点から、パジャマを着ることが「これから眠る」という儀式になる、モードチェンジ的な意味があると言えます。
昔の日本人は寝る前にお風呂に入る人が多く、それが自然なモードチェンジになっていたと佐藤先生。朝シャワー派の人はなおのこと、夜眠る前にパジャマに着替えるという作業をすることで、体のリズムの切り替えがしやすくなるといいます。
3.寝ている間に体から出る汗や水分の調節
佐藤教授 :
私たちの体からは絶えず、無意識のうちに呼吸や皮膚から物理的な水分の蒸発が行われています。さらに、汗もかいています。夏の睡眠中の汗は非常に不快ですね。パジャマは、それらをしっかり吸湿・放湿してくれるものがよいと考えられます。
もちろん昼間の衣服にも吸放湿性が求められますが、動いていれば衣服の内外で空気が動き、水分の蒸発が促されます。寝ているときはそれがない分、快適な眠りのためには水分の吸湿・放湿をしやすい素材のパジャマが必要なのです。
4.睡眠中の体の動きを妨げない
佐藤教授 :
寝ている間は、日中であれば行うことのないような動作・姿勢をとるなど、昼間とは体の形も動きも違います。そうした「寝ている間の体の動き(体動)」を妨げないデザインであることが重要です。
その人の体型によっても、不快な圧迫のないパジャマの形状は変わってきます。圧迫した状態の睡眠では、寝返りの回数がかなり増えたという実験結果もあるとのこと。不快な圧のない、自分に合った睡眠時の衣服を見つけたいものです。
私たちは本能的に「やわらかさ」を求める
4つのポイントをもとに素材やデザインを検討していくと、「やはり、室内用とはいえ覚醒時をイメージして作られた部屋着よりも、睡眠のために工夫・配慮されたパジャマのほうが望ましい」と佐藤教授。
そしてもうひとつ、人間の本能に根ざしたファクターがあると語ります。
佐藤教授 :
よく知られている実験として、心理学者ハーロウのアカゲザルの赤ちゃんの実験があります。アカゲザルの赤ちゃんに代理母として針金のお母さん人形と、やわらかい布製のお母さん人形を与える。すると赤ちゃんは布製のお母さんにしがみつくのです。
人間もサルも本能的に、やわらかく、肌触りの優しいものに安心感をおぼえるのでしょう。
入眠時は副交感神経が優位になり、リラックスした状態であることが求められます。そのためには、パジャマはやわらかい素材であることが重要。圧迫感、ざらざら感、硬さといった要素は、できる限り取り除いておく必要があります。
佐藤教授に聞く「パジャマの真実」。後編では熱中症を防ぐパジャマや生理周期との関係など、心地よいパジャマ選びのポイントをうかがっていきます。
──この記事は、 2020年6月23日の記事の一部を再編集して掲載しています。
後編はこちら
スウェットで寝ていい? 専門家が教える「パジャマ選び」の5つのコツ
佐藤真理子(さとう・まりこ)教授
文化学園大学服装学部・大学院生活環境学研究科教授。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間環境学専攻博士課程修了。博士(学術)。放送大学・千葉大学ほか非常勤講師等を経て現職。専門は衣服の快適性と機能性。著書に『被服学事典』(分担執筆)(朝倉書店)、『衣服の百科事典』(分担執筆)(丸善出版株式会社)、論文に『女性の生理的特性と衣服の温熱的快適性』(繊維学会誌)など。日本家政学会、繊維学会(理事)、日本繊維製品消費科学会、ファッションビジネス学会ほかに所属。
取材・文/田邉愛理、Photo by Getty Images