私は腹が立ちました。私を幸せにしてくれなかった夫に、幸せがなんなのかをまともに教えてくれなかった両親に。そしてなにより、幸せについてろくに考えもしないで、人に依存して生きてきた自分に対して。

イラストレーター・デザイナー・ライターとして活躍する描き子(かきこ)さん。冒頭の言葉は、「幸せオタク」として心の仕組みと幸せになるための方法をまとめた著書『推しにも石油王にも出会えない私たちの幸福論』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)のプロローグに書かれているものです。

実は描き子さん自身、数年前は「どん詰まって」いたのだそう。そこから「幸せになりたい!」と本気で考え、行動を起こしていくなかで見つけた「幸せになるための手がかり」を聞きました。

数年前は苦しみのどん底にいた

「幸せオタク」になる前の描き子さんは、仕事も家庭にも不満たらたら。まわりの目を気にする日々だったと言います。

「嫌なことがあったときは愚痴らないと気が済まなかったですね。『嫌なことが起きたのはあの人のせいだよね? 私、悪くないよね?』って誰かに確認しないと安心できないし、自分に自信がないからみんながどう思うのかをすごく気にしていました

自分が幸せに見えるかどうかが大事だったので、友達の誕生日プレゼントに自分では買わないような高価なものをあげたり。プレゼントから私の経済状況を推察するんじゃないかとか、こういう暮らしをしている私として見られたいという気持ちが入っていたと思います。今となっては何してるんだろうと思いますけど(笑)」

未来は不安で、面倒くさいことはいっぱい。愚痴も出るけど、別に絶望しているわけでもないし恵まれている方かな……人生ってこんなものだよね? ──そう考えていた描き子さんにとって青天の霹靂となったのは、夫がうつ病により退職したことでした。

「これはもう順調なふりをしていくのは無理だなと。まわりに頼らないと生きていけないくらい大変でしたから。ずっと大丈夫なふりをしてきたけど、いよいよ本当に大丈夫じゃないし限界だと思ったんです。どん詰まっていましたね」

「幸せ」になるにはどうすればいいのだろう

つらくてどうしたらいいのかわからない。状況を変えたくてたくさんの本を読み漁るうちに、幸せになれないのはそれまで見て見ぬふりをしてきた「自分の心」に問題があるからだと気づいた描き子さん。

しかし問題のありかはわかっても、どう直せばいいかはわからず、よくない考えを止められないご自身に落ち込むこともあったと言います。

すべてが変わったきっかけは整体でした。整体には症状がある部分とは別の部位を触って原因を探す考えがあります。心も同じ仕組みで、症状が出ているからとメンタルばかりにフォーカスすればいいわけではない、と気づきがありました」

同時に「幸福とは満足すること」「満足するとは受け入れていること」だとも気づいたそう。

「いわゆる自己肯定感が高い状態にこの2つは欠かせないと思いました。そうするとまわりからの意見を必要以上に気にしなくなるんですよね。いつでも『私は私だから』って生きていくことができます」

ネガティブな感情を持つのは、あなたのせいじゃない

そのために描き子さんは「視点を変えた」と話します。

心って思いどおりにならないんですよね。明るくしよう、ネガティブはやめようと思ってがんばっても、できない自分を責めても、何も変わらないんです」

そんななか、描き子さんは心の動きが「腸」に似ていることに気が付きます。

「善玉菌が増えてお腹の調子がよくなって欲しい」と考えても状態はよくなりませんが、栄養に気を配りながら間接的に関わっていくと、ある日調子がよくなったと感じる。この仕組みは心も同じだと思ったそう。そしてこの考えを「心のフローラ論」と名付けます。

ネガティブなのは本人のせいじゃなくて心の悪玉菌が多いからなんだなと。それまではすべてのことに変に責任を感じて、嫌なことが起きたのもあの人の機嫌が悪いのも自分のせいにしていました。裏を返すと、一生懸命考えてがんばりさえすれば物事を変えられると思っていたんですね」

心の悪玉菌を減らすには?

描き子さんはまず心の悪玉菌を減らすことをすすめています。心の悪玉菌とは怒り、悲しみ、嫉妬などのネガティブな感情です。

おすすめは不必要にネガティブになりやすい3つの情報をデトックスすること。

SNS テレビ、新聞、雑誌などの情報 他人との噂話

「文字にするとシンプルですが、正直すごく難しいです。今でも弱るとスーッと芸能人のゴシップに吸い寄せられることがありますし(笑)。そういうときは『弱っているサイン』と受け止めて、自分を責めないようにしています」

根性論でがんばるのではなく、システム自体を工夫するとよいそう。例えば、SNSを見るならアラームをかける、好きなもの探しに限定して利用する、会社で噂話が飛び交う場所には近寄らないなど。どうしても愚痴を言いたくなったら「申し訳ないけど5分だけ言わせて欲しい」と話すことも有効だそう。

「情報をデトックスできないこと自体がいけないというより、それらがネガティブな気持ちを引き連れてくることで、全部どうでもよくなるのがよくないんです。

だから諦めないで意識し続けることにつきます。積み重ねていくうちに意味があるとわかったから続けられていますね。今は愚痴を言ってもいいことはひとつもないと心から思うから、言いたくなくなりました」

心の善玉菌を増やしていこう

一方、心の善玉菌はすくすくと育てていくことが大切です。描き子さんが意識しているのはこの2つだそう。

大好きなものを見つける 意思を持って選択する

「流行っているからなんとなく好き、ではなくて、誰がなんと言おうと好き! が本当に好きで心の支えになるものですよね。小さい頃に好きだったものに触れてみるとヒントになるかもしれません」

もうひとつは、自分はどうしたいかを考え、選び、暮らすこと。食事のメニュー、着る服、就きたい仕事などすべての選択が当てはまります。適当に選んだり、普通はこうかなと世間体を考えたりするのではなく、些細なことでも自分がやりたいことをはっきりさせていく方法です。

心の悪玉菌と善玉菌の仕組みがわかったとはいえ、悪玉菌過多に慣れた心が反発してサボりたくなる日もあるのでは……?

弱っているから今日こそサボった方がいいのでは、と思うときもありましたが、今わかるのはそういう日はないということです(笑)。お風呂が面倒くさくても入ると気持ちよくて後悔しないのと同じで、心の悪玉菌と向き合ったり、善玉菌を育てることをやめたり、心のフローラ論をサボってもいい日はやっぱりありませんでした。

弱ったときほどすぐに取り組めるように、心の善玉菌を手っ取り早く育てるリストを作っておくのもおすすめですよ」

つらかったときの私とあなたへ

最後に、心のフローラ論を取り入れる前のご自身に声をかけるとしたら? という質問に「安心して『考えること』をやめて欲しい」という言葉が返ってきました。

「悩んだり考えたり、すごくがんばっていたんですよ。苦しんでもいい方向にいかなくてキツかった。実は悩むことや考えることは大して役に立っていなかったと思います。

だから今は『考えることに依存しない』『自分も他人も責めない』そして『がんばらない』を人生のモットーにしています。

当時の私にも、考えることをやめて、好きなことや楽しいと思うものを選んでって言いたいですね。絶対に悪い方向にはいかないからって」

私の人生、もっと幸せで楽しくなってもよくない? ──もし、そう囁く心の声があったら、ゆるく、でも本気で、自分を幸せにするための道を歩み始めるときかもしれません。

ある日、突然の出会いで人生が好転する物語の主人公にはなれなくても、自分の人生の主役として第一歩を踏み出すことは今日からでもできるのですから。

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まとめ

描き子さんが幸せになるためにしている5つのこと

SNSと距離をとる テレビ、新聞、雑誌などの情報を見すぎない 他人との噂話をやめる 大好きなものを見つける 意思をもって1つ1つの選択をする

マインドからヘルシーに

マウンティングをしてしまう人の心の奥底にあるものは?

言霊って本当にあるの? 公認心理師に聞いてみた

描き子(かきこ)
1987年生まれのイラストレーター、デザイナー、ライター。広告のグラフィックデザイナーとして「人の心を動かして物を買ってもらう」経験をしたことから、どうせ心を動かすなら「もっと人の利益になるような動かし方をしたい」と思ったことをきっかけに漫画と文章を書き始める。親との関係、周囲からの孤立感、夫や子どもとの関係に悩んだ経験を生かして人の生きづらさを解消するべく情報発信をしている。

イラスト/描き子、取材・執筆/寺田佳織

RSS情報:https://www.mylohas.net/2021/10/kaqico.html