YNA#10 「苦手がないのはもったいない」


「一生で食べられるごはんの回数は限られてるんだから、オレはそのすべてを美味しいものだけにしたい」

こう言ったのは、10個下の友人だった。

うだつの上がらない時期を長く過ごし、ここ数年でたくさんの金を持つようになった彼が自宅の庭で伊勢えびを焼きながら話すのを見て、ぼくは「わかる。超わかる」と返した。
そう、ぼくも“昔は”同じことを考えていた。

美味しいものばっかの方がいいに決まってるし、大好きな音楽だけに浸りきった生活はかねてからの夢だし、パチンコパチスロも全勝できる力があれば大幸福に違いない。

スーパーマーケットなんかでかかっているJ-POPの歌なしバージョン。
シンセサイザー1つで完成しちゃうような、あの醜悪な音楽が耳に入ってくると嫌悪感がすごかった。
どこの誰が作ってるのか知んないけど、プライドねーのかな。それで「職業はミュージシャンです」とか言ってんのかな、ブスばっかの合コンでよお。
なんて思ってた。

アウトレットモールでナイキやアディダスなどのスポーツショップがこぞってEDMかけてたときは、見たいスニーカーがあるのに入店すらしなかった。
EDMを毛嫌いしていたんだよね。
へー、どうせアレでしょ? どっかのうさんくさいコンサルが「店内BGMをEDMにすれば売上アップというデータが出ています」とかやってんでしょ?
と決め付けていた。

でも。
5年くらい前かな。

パチスロで13連敗し、カードの枠を使い切り、電気も止まった状態のとき。
「これ無くなったら母親に泣きつくしかねえ。もう40歳なのに……」と本当の本当に最後の金で『鬼の城』打ってたのね。
どこで計算間違ったのか、天井まであと1000円ってところで金が尽きた。
天井のゲーム数は踏んでいて前兆が始まっている状態。
なのに、金がない。
たまたま打ってたホールが自宅から遠く離れすぎて知り合いもいない。
Suicaの残高を下ろせれば! とか、近くのリサイクルショップでなにか売れないか? とか考え巡らせたけど、実際手詰まりだった。

しょうがねえ、あきらめるか……ってところで電話が鳴った。