YNA#29 「乙武くんとタチコマ、味噌ラーメンを少々」


もはや15年くらい前の話なんだけど、路上で衝撃的なホラー体験をした。

その日、ぼくは当時付き合っていた彼女、バシルーラ・花子、略してルーさんと早稲田のパチ屋で遊び尽くし、晩ごはんは麻薬にも匹敵するさっぽろ純連の味噌ラーメンを食い果たそうとテクテク歩いていた。

ここの味噌ラーメンはさ、ぼくの中で革命を起こしてくれたんだよね。
熱々で濃厚でほんのり甘くて、あとはなにがどうなってんだかよくわからないけど複雑な味わい。
味噌ラーメンというものをサッポロ一番以外で初めて美味いと思った。
そこから町田のおやじにもハマり、世界が広がった。好きなものが増えた。
ただし、純連はその後味が変わったのかどうも口に合わなくなりずいぶん足が遠のいてるうちに閉店しちゃったんだけど……って、今回の主題とラーメンはまったく関係ないんだった。

とにかく純連に向かって高田馬場を歩いていたのよ。
そしたら、向こう側からなんかちっちゃい上半身が浮かびながらこっちに進んできた。

えっ!? ついに見ちゃった? と思ったら乙武くんだった。

みんな知ってるかわかんないけどさ、乙武くんの車椅子ってすごいのよ。
まず電動ね。速い。ぼくが目撃したときはちょっと早歩きくらいのスピードだった。
そして高い。えっと、値段じゃなく目線。たぶん値段もお高いんだろうけど、目線がぼくと同じくらい。

とにかくいままで見たことない車椅子だったからさ、つい声かけちゃったよね。

「乙武くん、マシンかっけーね!」って。

友達かよ! 小学生かよ! っていまになって思うけど、本能で出た言葉だからさ。
そしたら乙武くん、ニコッてしてくれた。

すれ違ったあとは、ルーさんと「アイツ儲かってんだなー」なんて感想言い合って、さらに歩を進める。

そして、ようやく高田馬場の駅前まで辿り着いたそのとき、ぼくらは自分の目を疑った。
眼下にこの世のものとは思えない生物が、いた。

姿かたちは人間。年の頃はなんとなく70くらい。痩せぎすで性別は男。
上半身に纏うランニングは、使い込まれ汚れすぎて白から茶に変色している。
顔や下半身の服装はおぼえていない。
あまりに異質なある部位が強烈すぎて。

それは手足。

両方の手足にコンビニ袋を巻いていた。

そして、そのコンビニ袋に包まれた手足を使った、アメンボのようなタチコマのような四足歩行

とにかくそんな理解不能の塊が駅前の大きな横断歩道を渡っていた。

……どういうこと?